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スーパーダンジョンマスター!!!  作者: PMK
第三章(仮)
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決戦前夜

 連合軍一個師団がダンジョン攻略のために編成されたこと、そして主力部隊がもたついて遅れていることを察知したのは、モトブリン・カーキライトがジャミング範囲の外で通信傍受をおこなった結果だ。


 帝国側の動きは気になったが、インビジブルはすでに帝国国内に潜入し、情報を送ってくれていた。

 途中でインペリアル・コマンドを一人撃破し、黒いスーツとヘルメットを鹵獲できたため、インビジブルはそれに着替えて行動している。これならばライオブレイカー的な外見も隠せるというものだ。


 離れた場所でインビジブルが倒した敵も、こちらのダンジョンへの魔力吸収が適用された。

(なるほど、これではダンジョンが目の敵にされるはずだ)


 外にモンスターを放って魔力を集めるやり口は、過去のダンジョン達が盛んに行ったやりかたなのだろう。数万のダンジョンがそれを行えば、人類はかなりの打撃を受けたはずだ。


 インビジブルが現地で調査しバルーンドローンが観測しても、帝国側の目立った軍事行動は確認されていない。まるでこのダンジョンへの興味を全く失ってしまったかのようだ。仮にも巡洋艦一隻、貴重なクルーを550人も失っているとは思えないほどの反応の鈍さだ。不審さは感じるが、おかげで連合軍師団への対処に集中できている。



 昼間のうちに連合軍師団に到達したクレイゴーレムは、交渉の糸口を開くまもなく無残に破壊された。

 警告はした。聞き入れないとあらば、残念だがすべて我が魔力と資材になってもらうこととしよう。




 そしてその夜、決戦前夜。

 ライオブレイカーたちは連合軍に対し、夜襲による先制攻撃を加えるために動き出していた。


 マジドローンUAVたちが横断道路を滑走路にして、次々と飛び立っていくのが見える。横ではマジドローンがサインライトを持ち、くるくるとUAVに離陸許可を出している。…芸が細かいな。


 マジドローンUAVは、マジドローンが搭乗する攻撃用機動兵器だ。大きなラジコン飛行機のような外観をしている。

 観測機件防衛用浮遊砲台であるバルーン付きフライトユニットが十分に配備されたため、製造ラインを切り替えたものだ。

 普段は二機のジャイロによって推進力を得ているが、ロケットブースターを搭載し、短時間ならば高速飛行が可能だ。

 垂直離陸は出来なくなったが短距離離着陸が可能で、緊急時にはロケットブースターによる即時離陸も可能となっている。

 バルーンほどのペイロードはないが、その機動力を生かしてダンジョンと戦場を往復することで継戦することができるだろう。貴重な機動戦力だ。綻んだ戦線のフォローやカバーにも活躍してもらおう。




「いよいよはじまりますね、デッドエンド様」


「…そうだな」


 リドルが話しかけてくる。ファイナルフォームの足は早い。マジドローンたちと時間合わせで攻撃開始を行うには、もう少し待ったほうがいいだろう


「帝国側の動きはありません。最小限のバルーンを残し、すでに全機発進しております。ブロッケイドも所定の位置につき、攻撃開始時間を待っております」


「…リドルよ」


「はい」


「よくここまでの準備を推し進めてくれた。これならば敵の一個師団程度、簡単に排除することが出来るだろう」


「…デッドエンド様のお力あってこそのことです。ですが私の力がデッドエンド様の助けになるのなら、この上ない喜びです」


「…ところでリドルよ」


「はい」


「…近くないか?」


 リドルはライオブレイカーファイナルフォームの外装に、ぴったりとすがりついていた。五連装ビームアームに腕を絡ませ、胸部の角の部分を指でなぞっている。


「ふふ」


 リドルは物憂げに微笑む。


「私はなぁーんでも知っています」


「デッドエンド様のことならなぁーんでも」




 甘い声色が不吉な響きを持つ。ライオブレイカーは来るべきときが来たのか、と心のなかで身構える。

 だが、リドルの口をついたのは、他愛のないいたずらめいた言葉だった。


「デッドエンド様は、私がこうしていても決して振り払ったりなさいません。だから私は安心して、こうすることが出来るのです。ふふ。デッドエンドさーま」


 人恋しいのかもしれんな。ライオブレイカーはリドルの様子を見てそう思う。

 それはそうだろう。殺意を持った敵に取り囲まれて、こんな狭くて暗い場所に閉じ込められ、ひとり機械に囲まれて膨大な作業を続けてきたのだ。他人にすがりつきたい気分にもなるだろう。


 だがライオブレイカーには、冷たく硬い感触しかリドルに返せないのだ。

 ならばせめて、リドルを心の内側から温めてくれるような、そんな答えを返したい。


(無理か)


 ライオブレイカーは心のなかで、自嘲気味に苦笑する。

(…そんな気の利いた答えなど、出るわけがないな。戦いだけの人生だ)


「デッドエンド様?」


「なんだね?」


「すーき」


 ふふ、と、リドルは笑う。

 リドルは敏い子だ。本当に気づいているのかもしれないな。ふと、そう思う。

(それでも口にする時は、この関係が壊れるときだ)




 さあ、そろそろ出撃の時間だ。


「リドルよ」


「はい、デッドエンド様」


「君の想い、受け取った。だが、そろそろ時間だ」


「はい」


 リドルは名残惜しそうに腕から離れ、後ずさる。


「…リドル、行ってくる。今日はブロッケイドも外に出ている」


 ライオブレイカーはファイナルフォームの赤いモニターアイで、リドルをじっと見つめた。


「私達の家を、頼むぞ」


「…はい、ご武運を」


 リドルは背を向け、ダンジョンに向かって駆け出した。そしてスマートフォンに向かって叫ぶ。

「デッドエンド様が出撃なさいます!バルーンならびにUAVは航路を開けよ!繰り返す、バルーンならびにUAV、データに従い直ちに航路を開けよ!」


 リドルが十分離れたのを見て、ライオブレイカーも叫んだ。

イグニッション(点火)!」


 各部スラスターが炎と白煙を吹き出す。

 今日は機体重量がある。両腕部を持ち手に通して保持した大きなドラム缶上のもの。奴らの動きが遅すぎたために完成してしまった、必殺兵器。


 燃料気化爆弾だ。


『魔法の推進剤』を加圧沸騰させつつ、このボンベ内で臨界まで加圧する。

 投下後、目標上空でボンベ内を放出し、推進剤の蒸気雲を形成、発火させて爆発させる。

 通常爆薬を確保できない我々の苦肉の策だが、相手は鈍足で密集している。今回はうまくハマってくれるだろう。


「行くぞ!」


 気化爆弾をかかえたまま、ファイナルフォームは白煙の中で徐々に浮き上がる。

 そして加速していき、炎と白煙をたなびかせ、音速を超えて夜空に向かって飛んでいった。



 リドルは安全な距離をおいてその姿をじっと眺めていた。

 そしてあたかも当然のことであるかのように、何の照れも逡巡もなく、こうつぶやいた。


「ふふ。好きって言っちゃった」


「デッドエンド様に好きって言っちゃった」


「そして受け取ってくださった。私、知ってたな」


「デッドエンド様はそういうかた。私はよく知っているもの」


「…ふふ。すき。デッドエンド様。好き。スキ。だあいすき」


「…ふふ、うふふ…うふふふふ…」

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