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スーパーダンジョンマスター!!!  作者: PMK
第三章(仮)
32/35

スーサイド・アタック

 激しい雨は去ったものの、厚い雲が日暮れを早める。

 魔術院率いる軍隊、怪力兵団は早いうちから高台に陣取り、暗くなる前に部隊の再編成と野営の準備を終えた。

 襲撃があったとは言えここは前線から離れた連合国内だ。自然と喧騒と暖かな炎の輪が広がる。



 タケシは身のおきどころがなく、ただ兵士たちの間を彷徨っていた。

 手持ち無沙汰のまま()()がかかるのを待つことしかできないし、さりとて帰るわけにもいかない。いたたまれなさに辟易しながらも、悪意と好奇の視線を振り払うために歩き続けた。


 魔術師たちはタケシを見るとひそひそとささやき、あからさまに嘲笑を向ける。反面、兵士たちから向けられる視線はそこまでひどいものではない。それでも好奇の視線というものも気分のいいものではなかった。


 やさぐれた気分が不安を煽る。宗教などとこき下ろしてみたものの、ファンタジー世界にある邪教集団といえば、単純な暴力では太刀打ちできないような、陰謀と怨念の巣窟ではないか。

 実際にあの美人の教祖様はにらみつけるだけで一人殺してみせた。即死の魔術か呪法など、耐性と再生の力をもつタケシのスキルでも防ぎきれるか疑問である。試して駄目でしたで済む話ではない。




「勇者様、勇者ハザマー様!お探ししました」


 息せききって、地味なメイド風の服装をした年若い女性が駆けつけてきた。

「おまたせして申し訳ありません。準備がととのいました」


 勢いよく頭を下げ、不安そうにタケシを見てくる。


 兵士たちの下卑た笑いが聞こえてくる。年若い女性はビクリとし、おどおどと辺りをうかがった。

 タケシはまわりを睨みつけようと思ったが、やめた。


「…こっちこそすいません。行きましょう」


 タケシは女性をうながした。




 戦場に似つかわしくないほど豪奢で広い天幕。

 中央奥の椅子には身支度を整えた巫女が座っている。天幕の中を照らす魔法の燭台の灯りに、プラチナブロンドの髪がきらめく。ととのったその顔に浮かぶのは、あいかわらず感情のないうつろな表情だけだ。

 少し離れて先程の側仕えらしき年若い女性。

 そしてタケシは嫌でも目に入ってくる、その他大勢に対して内心顔をしかめる。

 評議会の議員たちだ。揃いの豪奢なローブにそれぞれアレンジを加え、若いもの、壮年のもの、背の高いもの、低いもの、痩せたもの、太ったもの。揃いも揃ったものだ。12人の議員が天幕の横に並んでいた。


(…適当に茶化して帰るか)


 さすがに付き合っていられない気分になり、タケシは片手を軽く上げて切り出した。

「よっす!」


 ざわめきが広がる。


「はいどーもー。勇者でーす。お呼びとあって参上しましたー。勇者として呼ばれたからには、さらわれた姫君の一人や二人も助けてみたいところではありますが、ところがどっこい。さらわれてきたのは俺の方でしたー。はいありがとうございまーす。勇者でーす」


 無礼なだのなんだのと、否定的なざわめきが続く。議員たちはそれぞれ口を開きだした。


「公の場でこの態度、まるで白痴ではないか」


「同意ですな。異世界というものは、礼のすたれた野人の世界なのでしょう」


「いやいや、それは意地の悪いおっしゃりよう。彼はまだ若い。的確で適切な指導をもってすれば、きっとこちらの良き手駒となりましょう」


「しかし君ね、これは適切な調整も誠意ある説得もはねのけて、こうしていると聞きますぞ。野放しにしておくといささか面倒なのではありませぬか?」


「そこは我々の腕の見せ所でありましょう。真理に基づいたより良き導きがあれば、おのずとすべてが良き方向へと向かいましょう」


「おお、これは素晴らしいご意見だ」


「全く同意ですな」


 失笑と感嘆が入り交じる。



 ざわめきに向かってタケシは少し声を張る。

「あー、お礼とのことでしたのでー。こうしてしっかりと受け取りましたー。じゃあ俺はそろそろ帰りますんで。じゃあどうもー、失礼しますー」



 ざわめきが罵声に変わる瞬間、澄んだ声が響いた。



「みなみなさま」



 ざわめきがスッと引く。


「相容れないものを排したいという気持ち、人の(さが)なのでありましょう。ですがみなさまがたには、助けに駆けつけてくださった勇者様に対するわたくしの気持ち、汲んでいただきたかったように思います」


「いや、猊下、これは!」


 言い募る議員の一人を手で制し、神託の巫女は言う。


「今よりこの天幕は、何人たりとも入ってはなりません。奥の院での夜のように、私は大切なお役目があるのです」


「みなみなさまとともに、真理がありますよう。さあ、お行きなさい」



 議員たちは一斉に一礼し、幾人かはタケシを睨みつけながら退室していく。タケシもどさくさに紛れて背を向けた。


「勇者様はお残りください」


「はい」


 タケシはまた振り向いた。




「さあ、あなたも」


 巫女は側仕えの女性に声をかける。年若い女性は気遣わしげに、そして不安そうに巫女とタケシを見比べ、退室していく。


 天幕の中は、巫女とタケシの二人だけになった。


 改めて見ると、きらめくような美人だ。タケシよりも2つ3つ年上だろうか。


(これで即死攻撃を日常的に放ってくるようなぶっちぎりでヤバイ存在じゃなければなあ)


 タケシは残念に思う。


 巫女はそんなタケシを見つめ、椅子からスッと立ち上がる。そしてしずしずと歩み寄ってきた。


(あ、やばい、殺さないで?)


 タケシは顔をひきつらせた。無意識に体が構えを取る。危険の気配に血が沸き立ち、自分の目が龍の瞳に変わるのがわかった。




 巫女は途中で小走りになり、構えたタケシの片手を細くたおやかな両手で、しっかりと握った。


「やっと二人きりになれました…勇者様!」


「…はい?」




 もううつろな表情はどこにもない。巫女のその蒼い瞳は熱っぽく潤み、はにかんで上気した表情をタケシに向けていた。柔らかな手を通して巫女の体温と早い鼓動が伝わる。


(え、どういう?即死は?)


 どこか即死攻撃を期待していた自分に内心首をかしげる。


(…手ぇやわこいな…あ、なんかいい匂いする)



 巫女は静かに切り出した。

「勇者とは、人に勇気を与えるものなのですね」


「はい?」


「わたくしはあの時、本当に恐れおののき、打ち震えていたのです。どこか道半ばの終わりさえ予感しておりました」


「あの時…い、いつです?」


 タケシの間抜けな問いに、巫女は真剣な表情で答える。そしてタケシの手をより強くギュッと握りしめた。

「もちろん、銀の巨人に襲われていたときのことです。相手は人智の及ばぬ化け物。軍の皆様も、魔術師の皆様方もいいようにされ、せめて一太刀と前に立ってみたものの、あの威容でありましょう。足はすくみ、手は震え、雨の中での乾きに喉は枯れておりました」


「それを天よりさっそうと現れた勇者様が、一撃のもとに切り伏せてしまわれたのです。ああ、どれほど心が震えたことでしょう…」


「それだけではございません。あの恐ろしくも醜い嫌な方々に、すべての軍勢を敵に回そうとも立ち向かおうとなさるそのお姿…」


 ずい、と巫女は一歩踏み込んだ。タケシはそれに合わせて手をすくめる。


「…そのお姿を見て、わたくしも勇気が湧いてきたのです。仕方なさと諦めを向けるしか無かった嫌な方々、ああ、それで良かったのですね。わたくしも()()()()()()のです」


「…そうしたら、わたくし、大切なものがつながった気がいたしました。勇者様と、正義と、正しき道と」


 巫女は潤んだ瞳で、タケシの双眸を見つめる。

「…いいえ、そんなものは飾りです。心が触れた気がしたのです…あなたの心と、わたくしの心が…」


 熱くほてった巫女の両手がタケシの手を導く。体の線が浮き出た白い法衣、その胸の上へと。


(ちょ、ちょっと!)


 その手を伝わって巫女の心臓の鼓動が伝わってくる。それは早鐘のように脈動していた。


 巫女は言った。

「わたくし、どのようにお礼を申せばいいのでしょう。この気持ち、どのように伝えればいいのでしょう。勇者様、勇者タケシ様」


 タケシは思った。

(あれ、これヤラしてくれるんじゃね)




(いやいやいや、何いってんだ俺!いやたしかに聖女ちゃんをこますとかどうとか言ったけど、あくまで異世界勇者ジョークですから!普通に考えてくださいよ。いくらなんでも俺みたいな貧相なガキがインチキ(チート)振り回して無双しても、怪しんで疎むだけでしょ普通!つかなんでこんな好感度高いの?おかしくない?あれだ、いつものハニトラでしょこれ。あーそうだ絶対そうだ。勢力争い大変ですもんねだまされないぞーヤレルモノナラヤリタイ)


(いや、待って待って?そもそもここからどうやって口説くんだよ。頭なでてりゃ落ちるようなご都合世界でした?いえ大好物ですけれども!実際の段取りとか彼女いたことないからわからんし!そもそもなんつーの?世間知らずのお姫様の純情につけ込んで、騙してヤルのってどうなんです。ないわー。イリーガル臭半端ないわー。ないね絶対ない。やれるならやりたい)


(いや待て、待ってくれ。だからいつまで経っても童貞なんだよ俺。そうじゃないでしょ。気持ちに答えるってことでしょ。引かずに踏み込んで、関係を深めていくってことじゃないのかよ。自分の見栄で拒絶してただ傷つけるとか無いでしょそしてあわよくばやらせてほしい)


「あの!」


「はい!」


 突然の声に巫女は少しビクリとする。


「あんたの…貴女の名前はなんていうんです?」


 タケシの問いに巫女は顔を曇らせ、目を伏せる。


「…わたくしは…『巫女』とだけ呼ばれています…」


「ああ、巫女でミコさんなのね」


「…おかしいとお思いではないのですか?」


「ん?普通にあるんじゃないですか。古風な感じはあるけど。きれいな名前っつーか?」


(どうすか!)


 巫女は顔を伏せたままだ。


(駄目かー。知ってた)


 手応えのなさと自分の見識の無さにタケシはヤケになり、ただ正直に口を出す。

「ミコさん、お礼と言うなら俺は、貴女との関係を深めたい」


「えっ」


「つけ込むようなかたちでも、想ってくれるというのなら、その想いに俺は答えたい」


「タケシ様…」


「ヤラしてください」


「…えっ?やら?」


「じゃない」


 タケシは空いた手を巫女の細い腰に回す。そっと抱き寄せると、自然と握った手が離れた。巫女は少し狼狽するが、タケシの胸に両手をついて、されるに任せる。

 タケシは巫女を逃さないかのように、空いた手を背中に回して抱きとめた。


「あっ…」


 巫女は身を寄せ、タケシの胸に頬を当てる。タケシの激しく鳴り響く鼓動を聞いているようだ。


「…温かいです…わたくし、だれかにこうしていただいたおぼえが無いのです」


 顔を上げ、嬉しそうにつぶやく。


 タケシは足がすくみ、手が震え、乾きに喉は枯れていた。

 やっとのことで、言葉を口に出す。

「キスしても?」


「キス?」


 不思議そうに聞き返す巫女に、タケシは顔を近づけた。


「あっ」


 二人の唇が重なった。二人の震えが、双方に伝わる。目を見開いていた巫女は、やがて静かに目を閉じる。



 長い間、二人の影は重なっていた。



 やがて離れ、巫女は言った。

「…心が重なり合った気がします」


 タケシは答える。

「…たぶん、許し合ってるからだと思う。あと、体温とか、鼓動とか」


 巫女はタケシを見つめて微笑んだ。

「わかります」


 ふたりはもう一度、長いキスをした。




 唇を離して、タケシは言った。

「…もっと凄いこと、しないか?」


 巫女は熱を持った声で、聞いた。

「もっとすごいこと?」

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