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スーパーダンジョンマスター!!!  作者: PMK
第三章(仮)
30/35

異世界ハーレム展開

「タケシ、お前、魔術院怪力兵団を迎えに行け」


「うげぇ」


 執務机にふんぞり返るアミール大佐の言葉に、タケシは顔をしかめる。

 執務室に呼び出され、すわ説教かと身構えてみたものの、かけられた言葉は説教よりも良くないものだ。そして思いもよらぬものだった。


「…なんでまた。あの人らだって子供の使いじゃないでしょう」


「今回の怪力兵団出兵には評議会がくっついてきている」


「いじめですか姐さん」


 タケシにとっては魔術院と評議会は不倶戴天の敵である。奴らはタケシを異世界から拉致し、戦争を強要し、傀儡にするために様々な悪意を投げかけてきた。アミールもその事は知っているはずだ。


「勇者ジトーの特務遊撃大隊がこちらに向かっているのは知っているな」


「へぇ」


「…返事はちゃんとしろ。膠着している対北海王国戦線だが、勇者ジトーの遊撃大隊が戦線を離れ南下するにあたり、北方低気圧の南下にあわせて北海王国軍の強襲が計画されている。評議会の神託の巫女が戦場に出てくるなどあることではない。やつらにとっては千載一遇のチャンスだ」


「…神託の巫女?なんでまた」


 神託の巫女。タケシも存在は知っていた。連合と評議会を良き方向に導くための、神の託宣をつたえる存在。タケシはプロパガンダ乙、宗教乙としか思っていなかったが。


「そもそもなんでそんなことがわかったんです。で、なんでその人らは襲撃を知らないんです」


「連合も一枚岩ではないからな」


 アミールは紙巻き煙草を取り出し、マッチで火をつける。

 煙草の火はジリジリと後退し、アミールは勢いよく煙を吐き出した。

「…お前、口はかたいほうか?」


「ペラッペラですね」


「じゃあこれからはベラベラしゃべるな」


 アミールはもう一度煙草を大きく吸い込み、吸いかけのタバコを灰皿で押しつぶす。

「連合加盟国も魔術院と評議会のやり方に不満を持つものは多い。ただそれがもたらす利益と、もたらされる暴力に目をつぶっているだけだ。帝国への抑止力にもなっているしな。当然、目をつぶっているのは表面だけで裏ではいろいろと暗躍している」


「今回の巫女の動き、ならびに特務遊撃大隊の動きを北海王国にリークしたやつがいる。その動きをウチの手のものがつかんだ」


「…敵も身内もスパイし放題なんすか。スパイ天国なんすね」


 素知らぬ顔で、タケシはのたまう。


「明日には到着する遊撃大隊の動きに比べ、怪力兵団の動きはあからさまに鈍い。この時間差につけ込んで強襲を画策しているらしい」


「今、国が乱れて矢面になるのはここだ。タケシお前、ちょっかい出して恩を売ってこい。もう翼は治ってるんだろ?」


「もう生えてきましたね。でもあの人ら恩とかないんじゃないですかね」


「望まぬ居場所でもやるべきことをやらないと、じきに飯さえ出なくなるぞ。それともここにいて勇者ジトーの出迎えに参加するか?」


「謹んで拝命いたします!」


 タケシの調子にアミールは額に手を当て、深くため息をつく。そして声を和らげて言った。

「タケシ…お前、奥歯は大丈夫か?ちゃんと化膿止めを飲んでおけよ」


「もう生えてきました!サー!」


「…便利だな」


 アミールが額に手を当てたまま追っ払う仕草をしたので、タケシはしゃちほこばって敬礼し、もったいぶって(きびす)を返し、良い姿勢で退室した。




 ドラグブレイバーで悪天候の雲の下を飛ぶ。遠くに響く雷音、降りしきる大粒の雨。超音速の世界でも、遠く流れる景色はゆったりとしている。


『まあほら、勇者と言えば聖女ちゃんを助けてこますみたいなところありますし?異世界ハーレム展開来たんじゃないですかねこれ』


 軽口を叩きながらもタケシは思う。評議会の奴らは死んでくれていいが、その巫女とやらに恩を売ってつなぎを作るのは悪くない。立場と発言力を持っているだろうし、何より『神』の僭称をやっている連中は、タケシを拉致したなにかに近しいはずだ。


『仲良くなって取り入って、後ろから撃てばいいよなあ。キシシッ…見えてきたかな…もうやってる!?』


 大粒の雨を縫って遠くに軍勢らしきもの、そして爆発と混乱が見えてきた。




 怪力兵団。デミブレイバーゴブリンの呪装機であるデミブレイバーゴブリン・シャーマンを基軸にした火力師団で、操縦士次第で通常の火器の他に魔法火力や飛行魔法等を備えることもある多芸な部隊だ。逆に個人の資質に左右される面もあり、まとまりに欠ける印象をタケシは持っている。

 赤い龍眼を細め、望遠で確認する。三個大隊はいるだろうか、合わせて100を超えるデミブレイバー、戦闘車両、補給車両。

 そして後方にいる馬車の一団。


『…足が遅いのはあれのせいかよ。何考えてんだ』


 ドラム缶状の爆雷が雲の向こうから投下され続けている。ゴブリン・シャーマンの杖から放たれる【ファイアボルト(火炎弾)】で迎撃されてはいるものの、何発かは地上に到達し、軍勢に被害を出しているようだ。

 そして軍勢の中央で暴れる銀色の巨人。デミブレイバーの10倍以上はある。

 人の形をかたどってはいるがずんぐりとしていて不格好だ。意匠は鎧騎士をかたどっているようだが、明らかに人外の者の形をしていた。

 素早いデミブレイバーとは比べ物にならないほどゆったりとした動きで、軍勢をかき分け馬車の一団へと向かっている。ゴブリン・シャーマンは【ファイアボルト(火炎弾)】や【ファイアーボール(火球)】、【ライトニングボルト(雷撃)】等で攻撃しているようだが、その銀色の装甲を軽く焼く程度でほとんどが弾かれ効果がないようだ。




 降りしきる雨の中、大音声(だいおんじょう)がとどろく。進撃する銀色の巨人からだ。


『はーっはっはっはっは!連合評議会の皆様、こんにちわ!北海王国空挺団所属、バロン・カマセーヌです!』


ベントリロキズム(腹話術)】で話しかけているようだ。おそらく雲の向こう、爆撃している機動兵器から操作を行っているのだろう。


『本日このような機会を作っていただき、誠に感謝の意に絶えません!魔術利権のかなめである巫女を失えば、遠からず連合は瓦解する!つまりこの強襲作戦はまさに、北海王国百年の計!』


 銀色の巨人がただ進むだけで、軍団の中に道ができる。すがりつく愚かな機体もいるようだが跳ね飛ばされ、踏み潰されていく。


『ご用意いたしましたこのミスリルアーマード・ギアゴーレムくん。ここまで運ぶのは本当に本当に大変でした!…そうまでして用意せし抗魔力に特化したこの機体はー?まさに怪力兵団のメタ兵器!絶賛刺さっておりますことでしょう!もちろん爆雷はミスリル粉を混ぜ込んだ魔術撹乱仕様!各方(おのおのがた)、ミスリルじん肺にご注意ください!』


 ギアゴーレムは軍団をかき分けながら、逃げること無く立ち止まった馬車の一団に肉薄する。馬車の一団からは魔術師らしき高級そうなローブを身にまとったものたちが、デミブレイバーシャーマンと同様に魔術攻撃を仕掛けている。


『ありがとうございます、ありがとうございます。温かいご声援ありがとうございます。巫女様いらっしゃいますかー?どのようなご理由での物見遊山か存じませんが、貴女を守る軍に背を向けて、お逃げになってはいかがですか?兵団による爆撃の傘を失って、どれだけ逃げ切れるか疑問ですがな!』



 押し止める声を振り切って、豪奢な馬車から女性が一人降りてくる。

 若い。いまだ少女の面影を残す女性だ。美しいプラチナブロンドの髪を肩で切りそろえ、ドレス風にあつらえた白の法衣を身にまとっている。どことなく前時代的だ。


 雨風が吹きすさんでいる。


 青い瞳は揺らめくたびに黒く染まっているように見える。女性はそのうつろな表情をギアゴーレムに向け、ゆっくりと片手を差し伸べる。


『…お飾りの人形、アビスの狗がいっぱしの魔術師気取りですかな?日々研鑽する魔術師の成果、その身に喰らっていただこう…はじめまして!そしてごきげんよう!』


 ギアゴーレムは歩を進めながら、ゆっくりと両手を振り上げる。女性の馬車はもう目の前だ。



『【ドラゴニックマニュー(龍性機動)バ】』



 ドラグブレイバーは超音速から急制動し、ギアゴーレムの鼻先に割り込んだ。衝撃波が周囲を揺らし、魔術師たちや巫女をよろめかせる。



 動きを止め、ギアゴーレムは言った。

『…どちらさま?』


 ドラグブレイバーは答える。

『…これ高速飛行しながら近接攻撃ってみなさんどうやってるんですかね。ご存知です?』


 ギアゴーレムは答える。

『ドユコト?』



『【ドラゴンクロー(龍の爪)】』



 ドラグブレイバーの振り上げた両手の爪が光を放つ。それは長大な光の爪になり、ギアゴーレムを両袈裟斬りに通り抜けた。

 スライスされた断片と内蔵された機械部品が撒き散らかされる。

 両腕が轟音とともに脱落し泥と水煙を上げ、なで斬りにされた胸部と頭部がそれに続く。

 やがて力を失うように、ミスリルアーマード・ギアゴーレムは、ゆっくりと後ろに倒れていった。

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