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スーパーダンジョンマスター!!!  作者: PMK
超音速の死闘、超龍勇者ドラグブレイバー!
23/35

過去の残滓

 蒼い機体は翼を失い、乱回転しながら落下し始める。


 ライオブレイカーは重力制御でそれを追い、すばやく首根っこを引っつかむ。そして腰からライオシューターを抜いて背中に突きつけた。

「抵抗すれば撃つ。おとなしくしていろ」


『は、はい…』


 機体の接触を通して声が伝導してくる。若い男の声のようだ。その声は意外にもしおらしい。



 蒼い機体を空気に対する盾にしたまま落下する。その速度は戦闘中よりもずっと遅い。センサーと電脳によると時速200km/h前後のようだ。

 他の干渉を避けるために軌道を変え、森の北側に落下する。



 重力制御で制動し、軽く地面に降り立つ。

 蒼い機体から手を離すと、機体はそのまま前に倒れてしまった。

『へぶっ』


 胸部の龍が邪魔のようで、そのままゴロンと斜めになる。


(…大丈夫か?)


 気を取り直したライオブレイカーは銃を向けたまま、厳かに勧告する。

「無駄な抵抗をせず、機体から降りろ」


『…そ、その前にちょっといいですか!?』


「何だ」


 横倒しに倒れたまま、蒼い機体の声は言った。




『…ライオブレイカー!ライオブレイカーですよね!?レクシア機械領域人と戦ってた!?』




「…え」




『【脱出(ベイルアウト)】!』


 掛け声とともに、蒼い機体の背中から光の粒子が飛び出してくる。

 それは一瞬のうちに、まだ年若い少年の形になった。ブカブカの軍服、ブカブカのブーツ。


 入れ替わるように蒼い機体は光の粒子となって消え、支えを失った少年はまた地面に落ちた。




 すぐさま彼は起き上がり、銃を構えたままのライオブレイカーに寄ってきた。


「本物のライオブレイカーですよね!!こっち来てたんですか!!」


「お、おう…?」


「動画見てましたよ!検証スレにもいました!本物派で!」


「絶対本物だと思ってたんですよ!握手!握手してください!!」


「ん…?い、いいとも?」


 差し出した左手を彼は両手でつかみ、感極まったようにブルンブルンと振り回す。



 そして彼は手を放し、両手を半端に宙に上げ後ろ向きに倒れた。軽く土煙が上がる。



「お、おい」


「報われた~~~!!」


「ずっとずっと、耐えたかいがあった!!ほんっと長かった!!ぁあ~」


「…良かった…本当に良かった…」


 彼は両掌で顔を抑え、軽くすすり上げた。




「召喚?日本からか?タケシ君」


 彼はハザマタケシと名乗る。地球、日本の元高校生で、一年ほど前にこの世界に召喚されたのだと言う。


「そうっす。突然武装勢力に拉致されて、戦争参加を強要されたんですよ!!」


「そ、そうか」


 タケシ君は座り込んで地面をバンバン叩きながら熱弁する。



 ライオシューターはホルダーに戻してしまった。彼からは全く殺意も含みも感じない。


「他の勇者とか言う人達も頭おかしいし…なんでこの人達はわっかんねえかな!!と最初思いましたがね!」


「薬と洗脳と精神魔術飛び交う万魔殿(ばんまでん)ですよあそこは!ガンギマリですねあれは」


「俺もヤバかったんですけど耐性系の良い感じのスキル引いてー」


「いやーめっちゃ頑張りましたー耐え抜きましたよー。ちょっと人外入っちゃいましたけど」


「ゲコッ」


 タケシ君の目が爬虫類のような、縦に裂けた黒目に変わる。


「どうすか!」


「う、うん。凄いな?」


 多少怨念は感じるが、邪気は感じない。ライオブレイカーはこの少年を信用してもいい気分になっていた。



「…それで?タケシ君。ここに攻撃を仕掛けてきた理由は?」


「ほんっとうにすいません!!」


 タケシ君は地面に頭を擦り付け、土下座の姿勢をとった。


「…やめたまえ。土下座というのはするのもさせるのも、誠意のない事だ」


「はい!肝に銘じます!」


 ガバリと上体を起こす。そしておずおずと聞いてきた。


「…その、犠牲。出ました?」


「被害はなかった。森の木が焼けた程度だな」


「よかった~」


 タケシ君は胸をなでおろす。


「ダンジョンを狙った理由でしたね。ダンジョンコアをぶっ壊すとですね、その力が世界に放たれるんですよ」



「…続けてくれ」


「一般的には、魔術の開放が知られてますね。ダンジョンが異世界から持ち込んだ魔力と術式が開放されて、使える人には使えるようになるって聞きます。魔術界隈ではそれでかなりの利権が動くらしいですね。世の中を一変させるような魔術を引いたら一生ウハウハですからね」


「そして開放された力の放射を近くで受けた人間には、いろいろ良いことがあるらしいですね。魔力が上がったり、開放された魔術をおぼえたり、特殊なスキルが宿ったり、体が丈夫になったり」


「ほう?」


「闇鍋ガチャです!」


「…闇鍋ガチャ?」


「よくあるやつですよ!俺は召喚勇者ですから、その力の吸収と相性が良いらしくて、普通の人よりかなりのパワーアップをするらしいんですよ。それもよくあるやつです」


(よくあるやつなのか。よく知らないが)


 ライオブレイカーは困惑した。


「…俺はその力を溜めて、行けると思えるぐらいパワーアップしたら」


「俺を拉致していじめ抜いた奴らに復讐してやろうと思ってたんです。国ごとメチャクチャにしてやるつもりでした」


「……」


 ライオブレイカーは沈黙する。何も言える立場ではなかった。




「…でもそれはもういいんです、()()ライオブレイカーがこの世界に呼ばれてダンジョンマスターをやってるんでしょ!」


 タケシ君はすっくと立ち上がる。

 そしてこちらに向けて腰を直角にするほど頭を下げ、片手を差し出した。


「俺も()()()()の仲間に入れてください!!!お願いします!!!」




 ライオブレイカーは当惑した。

「えー」




 タケシ君は体を折り曲げたまま、頭だけをガバリと起こした。

「…やっぱ初見でビーム砲撃ってきた奴は信用できませんか!?なら信用させてみせますよ!!」


「あ、いや」


「ちょっと考えてたんです、どうすればライオブレイカーの役に立てるのかを」


「…ちょうど俺には立場があります。魔導連合の勇者なんていうクソッタレな立場がね!それを利用してやるんです!…キシシシ!このえげつない発想!どうすか!」


 タケシ君は体を起こす。口調に反し、顔は真剣そのものだ。


「俺、一旦戻りますよ。そしていろいろ動いてみます。スパイですよスパイ!かっちーなこれ!」


「いろいろ仕入れてまた来ますよ!いつまでもここにいると怪しまれちまう!負けて逃げ出した(てい)で!」


「ただ、ヤバくなったら、(かくま)ってくださいね!!」


「いいよ?」


 ライオブレイカーは間の抜けた感じに答えた。


 タケシ君は一礼すると、すばやく(きびす)を返し、東の方角に向かって駆け出した。



「あ」



 ライオブレイカーは呆然と見送るが、タケシ君はなにか気づいたかのように急にブレーキをかける。

 彼は振り向き、大声で尋ねた。



「ライオブレイカー!!」



「レクシアには勝ったんですか!?」



 ライオブレイカーはどう答えたものか少し逡巡(しゅんじゅん)する。

 そして答えた。



「…ああ、勝ったよ」



 タケシ君は満面の笑みで大きく手を振る。

 そして踵を返し、背筋を伸ばした姿勢で駆け出した。


 ものすごい勢いで駆け出した。




「……」


 ライオブレイカーは、彼が見えなくなるまでしばらく沈黙していた。


「…まあいい。直感を信じることとしよう」


『不安です』


 女性の声が答えた。

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