決戦、ライオブレイカー vs 超龍勇者ドラグブレイバー!
フィッシャー曹長のゴブリンがピピン伍長を慎重に、ゆっくりと大破機から引きずり出す。
デミブレイバーゴブリンの膂力で強引に引き抜いたら、ピピンの引っかかった部分が大変なことになることだろう。
子供を抱き上げるように両脇に手を差し込み、彼をだらんと持ち上げた。
「…気づいたか?」
ピピンは呆けた顔で、何度か目をしばたかせる。
そして焦点の合わない瞳をフィッシャーに向けると、ボソリと呟いた。
「…見捨てないで…」
フィッシャーは答えずに、そっとピピンを地面に置いた。
ピピンはその場にへたり込む。
ハッチを開け放ったままの機体に膝をつかせ、彼の肩をゴブリンの手でドンと叩いた。ハッチを開けたままのゴブリンの操縦席から、放心したピピンをじっと見つめる。
「頑張ったな」
ピピンは情けないような、泣き出したいような、そんな顔をした。
フィッシャーは気に留めずに、背を向けゴブリンのハッチを閉める。
『立てるな?』
「…はい」
突如、天から降り注いだ光の筋が、森の中を通過する。
巻き起こった熱波と爆発に森の木々が揺れた。
『なんだ!?』
「熱っつ!!」
熱波に煽られ、ピピンがよろめいた。高熱がピピンの皮膚を焼く。
『ははは!踏んだり蹴ったりだな!ピピン伍長!』
ピピンは赤く腫れた顔を抑えたが、からかうフィッシャーに向かって絞り出すように叫んだ。
「まだやれます!!」
『その意気だ。脱出するぞ!』
一喝したフィッシャーは、ピピンに聞こえないように、操縦席でぼやく。
「…なんでもありだなここは…」
ここは危険だ。知らぬこととは言え彼らはマルチプルの、ダンジョンの怒りを買った。二人は急いで森を抜けようと、その場から駆け出した。
彼らは意気揚々と、ピピンは息を切らせて森を抜けた。
乾いた空気と風が出迎える。
フィッシャー機はなにかを探すようにあたりを見回した。
なにかが地面に落ちている。フィッシャーは探した何かとは違うものが、そこにあることに気づく。
そこにあったのは、無残に破壊されたマユタ軍曹のゴブリンだった。
二人はその場で、呆然と立ちすくんだ。
我に返ったフィッシャーは、叫んだ。
『…マユタ!!』
◇
荒野を駆けるライオブレイカーの頭上を光の束が通過した。
振り返ると、光線は森の中央を薙ぎ、火柱を上げている。…ダンジョンのある方角だ。
苛立たしげにライオブレイカーは怒鳴る。
「くそっ!!被害は!?」
『至近弾ですがダンジョンからは逸れました。損害ありません』
「…そうか」
安堵し、そしてつぶやく。
「…良し、敵はあそこか」
透明なままのライオブレイカーは土煙を上げて止まる。そして頭上を見上げた。
モニターアイを通して、センサーと電脳が敵との距離を割り出す。
敵の位置は巡洋艦の時と同じ、高度2000メートル付近のようだ。…ただ、目標があまりに小さい。
(人型サイズなのか?)
ライオシューターの射程内ではあるが、これは流石に当たるとは思えない。
だが、このまま放って置くわけにはいかない。第二撃がダンジョンに直撃したら二人が危ない。
自分が奴の目を引き、相手をせねばならない。
この距離では当たらないのなら、当たる距離まで行くまでだ。
「ダンジョン、透明化は解除できるか?」
『可能です。【ディスペル・マジック】を使用しますか?』
「…待て。準備がある」
ライオブレイカーは透明のまま変身ポーズを取った。
「チェンジ!ファイナルフォーム!!」
「イグニッション!!」
【ディスペル・マジック】によって姿を表したライオブレイカー・ファイナルフォームは、背部の宇宙用メインスラスターを点火する。
轟音とともに燃える推進剤の白煙が、周囲にモウモウと立ち込める。
生み出された推力によって、ライオブレイカーは徐々に浮き上がっていく。
ライオブレイカーはスラスターを偏向調整し、上を見上げた。
両手をゆっくりと天に向け、砲口の向きを揃える。
各部スラスターを吹かして姿勢を保つ。白煙を引きながら、ライオブレイカーは徐々に加速しつつ地上を飛び立った。
◇
白煙に気づいたドラグブレイバーは、その光景に流石に目を疑う。
『…なんだ?ロケット発射?ダンジョンが?』
赤い龍眼が細まり、地上の様子を確認する。
そこには黒いロボット兵器がいた。
立ち込める白煙を背負い、こちらに向かってきている。
ステルス爆撃機を思わせる角ばった上半身、そこに輝く赤い光。
そして腕を模したような連装砲が機体の両側2基。それがじっとドラグブレイバーを狙っているのが見えた。
『…ダンジョンがブレイバーを持っているのかよ!?』
ドラグブレイバーは慌てて、上空への加速を開始した。
ドラグブレイバーは十分な加速を得ると、空中に弧を描いて反転し、落下加速しながら飛来する黒いブレイバーを正面に見据える。
『うはは!物理法則で飛んでる人がさ!インチキ機動に勝てるわけ無いだろ!』
ドラグブレイバーの頭部が開くと、胸部よりも小型の砲口が現れる。
『喰らえよ!【ドラゴン・ロア!】』
頭部砲口が眩しく発光し、一条の光線が正面の黒いブレイバーめがけて発射された。
◇
ライオブレイカーは脚部の姿勢制御スラスターを急激に吹かした。
迫り来る破壊の光線を体を捻ってなんとか躱し、両手の腕部五連装ビーム砲を突っ込んでくる正面の相手に向ける。
「ディストラッシャー・リミテッド!」
決戦兵器ディストラッシャーは、あまりの出力に冷却と砲身劣化が追いつかない欠陥兵器…使い捨て武器だ。フル出力で撃てはすぐに使い物にならなくなってしまう。
そしてライオシューターのときのような威力強化が適用されているのだとしたら、一発で溶け落ちても不思議ではない。
ライオブレイカーは出力をギリギリまで下げ、ライオシューター程度の威力を維持するよう電脳で調整することに成功していた。
これでも十分な威力だろう。
「一番から十番!一斉発射!」
両手から放たれた十の光弾は、散弾やスマート弾のように広がって、正面の蒼い敵機を完全にとらえたかに見えた。
が、相手は空中に明らかにおかしい軌道を描いた。
敵は、加速しながら空中で直角に曲がったのだ。
「なにっ!?」
こちらのはなった光弾群は、その機動を捕らえることができず空を切る。
そのまま相手は弧を描いて横切る防御機動、ビーム機動に入った。背後に回り込むつもりだ。
「どうなってる!?」
ライオブレイカーはスラスターを吹かし追うが、相手の運動性は高い。このままでは背後に付かれるだろう。
速度は音速を超えている。距離があり横切る機動をしている相手に、この鈍重な五連装ビーム砲が当たるとは思えなかった。焦燥が胸を突く。
女性の声が、おずおずと話しかけてきた。体内からの声はこんな状況でもよく聞こえる。
『…デッドエンド様、あれは飛行魔法のたぐいかと思われます』
「…魔法か!!」
インチキだ、とライオブレイカーは一瞬思う。そして苦笑いした。
「こっちも同じことが出来るか?」
『【フライ】である程度、空の動きを補助することは出来ます。それと』
「なんだ?」
『極大魔法【リバース・グラビティ】を改変すれば、あれ以上の動きが可能です…しかし』
「それを使え!!」
『DP消費が!』
「かまわん!!合図で行くぞ!!」
『りょ…了解!』
◇
ドラグブレイバーは驚異の運動性を発揮し、黒いブレイバーの後背に回り込んだ。
チェックメイトだ。
後ろに付かれた黒いブレイバーは真っ直ぐな機動で、逃げ出すように加速を開始する。
『うは、空戦を知らないのかよ?良い的なんだよ』
後を追って加速しつつ、【ドラゴン・ロア】の照準を合わせた。
『うわっぷ!』
そして黒いブレイバーの噴煙に突っ込み、一瞬視界を失った。
『小細工を!!』
軸をずらして、噴煙から逃れる。どっちにしろ相手はもう逃げられないのだ。
だが、そこに黒いブレイバーはいなかった。
ドラグブレイバーは目を疑った。
『えっ』
◇
「今だ!!」
『【リバース・グラビティ】!』
相手が噴煙に紛れたのを見計らい、極大魔法を発動する。
その魔法の効果は、重力を反転させて対象を宙に巻き上げる、というものだった。
巻き上げられた対象は超高空まで落下し、やがて地上に向けて再度落下する。
効果時間は1ターン、落下は成層圏まで達する。
空を飛ぶ方法を持たない限りはどんな生物でも即死だろう。
そして女性の声が行った魔法改変により、重力の強さと向きがコントロール可能になる。
重力制御飛行の完成だった。
ライオブレイカーはそのままの速度でごくごく小さく旋回し、背後にいた相手機体の横を通り過ぎ、そのまま相手のすぐ背後、腕を伸ばせば届くほどの至近距離に張り付いた。
◇
その異常を越えた狂気の機動に、ドラグブレイバーは一瞬呆然とする。
凶悪な作りの五連装砲がふたつ、音速を超えた世界の至近距離で突きつけられたのがわかった。
ドラグブレイバーの脳裏に、はっきりと”死”がよぎった。
『うあ、あああああああ!!【ドラゴニック・マニューバ】!!』
慣性を無視して真横にブレイクする。
だが、黒いブレイバーは正確に追従し、ピッタリと背中に張り付いたままだった。
『ああ、あああああああ…』
ドラグブレイバーは悲痛な叫びを上げた。
◇
「ファイナルフォーム、『格納』」
その声は、音速の世界で相手に届くことはなかった。だが、それによって相手がうろたえたのがわかる。
瞬時に基本フォームに戻ったライオブレイカーは、ディオーブエンジンを臨界まで回し、モーションパワーを集約した。
「…ライオキック」
重力制御に支えられ、空中で繰り出された蹴り上げるようなハイキックが、相手の蒼い翼をもぎ取り、砕いた。




