超龍の息吹
ブロッケイドがダンジョンに入ろうとした時、ふと東の空に何かを感じた。
訝しげに見上げる。パッシブセンサーが分析を始めた。
『…何だ…』
それは最悪な状況をはじき出した。
『…高熱源反応……加粒子砲!?』
東の空で何かがきらめく。
あわててブロッケイドはダンジョンの階段に身を投げた。
背後でまばゆい光が地面をなぎ払う。蒸発した地面が膨れ上がり、爆風を起こした。
『…博士!!』
踊り場に手を付き前転して受け身をとったブロッケイドは、熱風を背に受け階段を滑り降りながら、そのままリドルのもとへと向かった。
◇
「ゲコッ」
異世界の勇者タケシ・ハザマーは基地を抜け出し、走って調査分隊を追いかけていた。
走る彼はまったくの手ぶらだ。連合軍のブカブカの制服、サイズの合っていないブーツ。
それよりもおかしいのはその姿だ。
彼の肌は、青みがかった緑の鱗に覆われていた。瞳は黄身がかり、黒目は縦に裂けている。
異常なほどピンとしたフォームで、何の乱れもなく黙々と走り続けていた。
「…あ~、ゲコは違うか~」
「ぁあ~。二日絶食の不眠不休で走るのは流石にきっついわ~」
「二徹だわ~。眠いわ~。寝てないわ~」
タケシは走りながらも、誰に聞かせるでもなくのたまう。
荒野にはブレイバーの足跡と車両の轍が残っている。たどっていけば必ずダンジョンにたどり着くはずだ。
遠くに小さく三台の車両が見えた。
調査分隊、指揮小隊だ。
「キシャッ!いるいる!」
タケシの顔が、愉悦にゆがむ。
「キシシシッ!!日頃の鬱憤をぶつけて、からかってやるか!」
息が漏れるような笑い声を上げ、走りながらも右腕を力強く上げる。
そして彼は天に向かって絶叫した。
「来い!!ドラグブレイバーーーっ!!!」
タケシの背後の空間にヒビが入る。
割れた空間を突き破り、光を吸い込む黒い光とともに、蒼く輝く腕が突き出してきた。
そのまま頭と胴体が、空間を圧し割って露出する。
黒い光の中で、赤いふたつの龍の瞳が禍々しく輝いた。
タケシは走りながらも光の粒となり、それのなかに吸い込まれていく。
割れた空間が消え、完全な姿を表したそれは、タケシと同じピンとしたフォームで走り続けた。
それは人間型のパワードスーツのようにも見えるが、それにしては異形すぎた。デミブレイバーやパワードフォームと同程度の背の高さではあるが、肉厚で大きい。
蒼く輝く装甲は優雅な曲面を描き、刺々しい過剰な装飾が施されているように見える。
肩幅は広く、人のサイズではない。胸部と頭部はそれぞれに、龍の頭部をあしらったような装飾を施されていた。手足は太く、長く鋭い鉤爪が生えている。
そして背中は龍の翼をあしらったようなユニットが付属されていた。
タケシの声で龍のマシン、ドラグブレイバーが叫ぶ。
『【ドラゴン・ウイング】!!』
ドラグブレイバーの足は宙を離れ、前傾姿勢で飛行を始める。
そして低空飛行のまま急激に加速していった。
◇
指揮小隊、ブレイザー中尉は双眼鏡で森の様子を伺っていた。
どうも動きがあったようだ。フィッシャー曹長の機体が森のなかに分け入り、マユタ軍曹が狙撃位置を変えている。
「通信が使えんのがこれほどもどかしいとはな」
そして苦々しく嘲笑う。
「口出ししたがり聞きたがり、か。我ながら歯がゆいことだな」
突然、大きな風に横面を叩かれ、ブレイザーはよろめく。その風は車両たちにも吹き付ける。幌付きの補給車が大きく煽られ、片輪が浮いた。
衝撃波だ。
ブレイザーは近くを通り過ぎながらもそのまま宙に向かって飛んでいく、蒼い機体を確認した。
補給車から帝国特使があわてて出てくるのが見えた。
「…あのガキゃあ!!」
ブレイザーは歯噛みし、思い切り地団駄を踏んだ。
◇
ドラグブレイバーは高空まで舞い上がり、空中で静止する。
そして地上に広がる広大な森を見下ろして言った。
『荒野を緑にしてくれた?うははは!エコ団体が褒めてくれるんじゃないの!』
そして両腕を前へ倣えのごとく、スッと前に突き出す。
『ファンタジー共!!』
ドラグブレイバーはせせら笑った。
『他人事なんだよ!!』
胸にあしらった龍の首、その口がハッチのようにガバリと開く。そこには砲口らしきものが備わっている。
突き出した両手の間に放電が飛び交い、砲口にエネルギーが収束されていくのが見える。
そのエネルギーはやがて、今にも破裂しそうなほど大きく膨らんだ。
『【ハイパー・ブレス】を』
『喰らえぇぇぇぇぇっ!!!』
ドラグブレイバーから放たれた一条の光線は、森の端から中央を通り、反対までを薙ぎ払う。
それは大地をえぐり木々を焼き、周囲をなぎ倒していく。
蒸発した地面が爆発し、まっすぐな火柱の壁を作った。




