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スーパーダンジョンマスター!!!  作者: PMK
超音速の死闘、超龍勇者ドラグブレイバー!
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三者三様

 ピピン伍長の駆るカーキ色の強行偵察型ゴブリンが、森のなかに分け入っていく。

 フィッシャー曹長とマユタ軍曹は機体を岩場に隠して迷彩ネットを被せ、その様子を遠くから眺めていた。

「…焚き付けすぎですぜ、アミール大佐」


 フィッシャーはぼやく。




 強行偵察型単機で先行するのは当初の作戦通りではあった。ただそれは視界が確保されてのこと。この異常事態に難色をしめすブレイザー中尉とフィッシャーに、特使とピピンが抗議する。


「当初の作戦通りに遂行すべきです!そのためにこんな荒野の国境くんだりまでやってきたのでしょう!」


 ピピンは唾が飛ぶほどの剣幕で強く主張していた。その様子にフィッシャーはげんなりする。

「伍長…状況は作戦を大きく逸脱している。それで死ぬのはお前なんだぞ」


「自分は死など恐くはありません!!曹長こそ臆したんですか!?」


「…あのなぁピピン伍長」


 フィッシャーが深く息をはきながら頭をかき、仕方なさそうにのたまう。

「…大佐はやめとけ。お前じゃ相手になどされんし、下手をすれば食いちぎられるぞ」


「…っ!じ、自分はそんなよこしまな目的で、この任務を志願したのではありません!!」


 ピピンは泡を吹いて反発した。




「気になる異性のために身を挺す、結構なことではありませんか、曹長」


 狙撃銃のスコープにケーブルを繋ぎ、ピピンの様子を見ているマユタは言う。

「元々あれは囮でしょう?未帰還はある程度の証拠物件になるでしょう」


「そういう含みはあったがな…わざわざ死ぬこともあるまい。確証がなくともここはダンジョンだ。侵入すれば相手は手ぐすね引いて待っているんだ。相手次第ではなぶり殺しになるぞ」


「書類も取ってあるのでしょう?」


「…ああ。書かせてあるそうだ。世間知らずを騙して死地に追いやる鬼畜の所業よ」


「ならいいじゃありませんか曹長。考えすぎるのは毒です」


「相手はあんな小僧だぞ。割り切れんさ」


 渋るフィッシャーに、マユタはからかうような口調で言う。

「わたくしでしたら、気になる方のためには身を挺せますけれど?」


「証拠をお見せしましょうか?ちょうどここは岩場に隠れておりますし」


 フィッシャーは軽口に答える。

「駄目だ。ゴムがない」


「帰った後でも構いませんけれど?」


「…基地では買えんだろ。並んでるの見たことないぞ」


「軍票で買えますよ。大箱でなら」


「……」


「買っておきますか?」


「…からかうな、マユタ軍曹」


 白旗をあげたフィッシャーに、マユタはコロコロと笑い声を上げた。



 ◇



「絶対あいつらデキてるくせに!自分たちは余裕ぶっこいてるからって人の恋路をからかって!くそっ、くそっ!!」


 ピピンは憤りを胸に、使命に燃える。


「巡洋艦の残骸をカメラに収めるだけの任務だぞ。しかも大佐は期待しているとおっしゃられたのだ!レーダーや通信が使えないだの、ちょっと木が生えているだの、そんなことで引き下がれるかよ」


 森の木はつる植物が寄り集まったような奇妙な木で、魔力を帯びている。新種の魔法植物のようだ。

「この植物のサンプルだって、持ち帰れば手柄の一つになるんだ。手柄を積んでいけば大佐だって…」




 しばらく森に分け入った地点で、ピピンはそれに気づいた。

(いた…)



 ピピンは魔術院怪力兵団からの出向で、実務訓練中の身であった。

 ピピンは魔力を感じ取れる【センス・マジック(魔法感知)】が使える。そのために今回の任務に抜擢されたのだ。

 魔法植物の森の中。まだだいぶ遠い。肉眼では見えないがたしかに魔力を帯びた人影がある。

 魔術で透明になっているのだ。



(使い古された手を…こいつ、対魔術師戦を想定していないのか?)


(この調子なら相手は大したダンジョンじゃなさそうだ。ははっ、おいしく僕の手柄にしてやるよ!!)



 ピピンはゆっくりと、ゴブリンの歩を進める。

(気づいていないふりをしながら有効射程に近づいて、サブマシンガンの斉射を浴びせてやる…。時代遅れのダンジョンモンスターなんか、それでイチコロだ!)



 周囲を確認する演技を続けながら、ピピンはゴブリンの歩を進める。サブマシンガンと言えどゴブリン用だ。通常の兵士が設置で撃つ重機関銃ほどの威力はある。



 ピピンは素知らぬ顔で近づき、両手で腰だめに持ったサブマシンガンを突然人影に向けた。


(死ねよ、僕の手柄!)


 ピピンは躊躇なく引き金を引いた。



 ◇



『【インビジビリティ(透明化)】を使うのはいかがですか?姿を消す魔法です』


 女性の声が提案してきた。



 ライオブレイカーは、できれば侵入者を無傷で取り押さえたかった。交渉のチャンネルを開くためだ。

 仕掛けられたものとはいえ帝国軍とは因縁が生まれてしまっている。少なくとも帝国軍の全面的な味方ではない連合軍相手ならば、まだ目はある。


 二正面作戦は避けたかったし、リドル達の脱出路も確保しなくてはならない。

 自分のダンジョンと言えどここは仮キャンプのようなものだ。帝国軍が矛を収めず戦いが泥沼化したならば、ライオブレイカーは初期ダンジョンを放棄するつもりでいた。

 この場所からは未来を感じることが全くできなかったのだ。


 そもそも自分はダンジョンの中枢で敵を待ち構えるという、ダンジョンの基本から外れた存在なのだ。

敵にはこちらを探知できる力があるのだから、こちらはもっと有利な地形を確保し、要塞化した場所に誘い込んだほうがまだ勝利の目はあるだろう。

 ここはあまりにひらけすぎている。防御には向かない。




 …もし仮に探知を防ぐ方法があり、自分の意思を曲げ、戦いを放棄することになったら、ダンジョンなど持たずに気ままに旅をするのもいいだろう。あの日気ままに街を歩けなかったことを、ライオブレイカーはまだ少し根に持っていた。


 科学はある程度発達しているようだが、なにせ魔法のある異世界だ。

 きっとそこには見たこともない景色が広がっていることだろう。

 昔のようにとは行かないが、きっと平穏な日々も取り戻せる。


 旅をするのもいいし、平和な国を見つけて可能な限りのスローライフを楽しむのもいい。

 煩わしい者たちに邪魔されない、平和な空間だ。ダンジョンの力を使って生活を整備してもいい。


 正体を明かした後でもまだリドルたちが望むなら、そこに二人がいてもいい。


(…ありえない妄想か)


 まずは状況把握、停戦交渉、不可能ならば強行脱出してゲリラ戦だ。敵の姿も位置もわからぬまま、この荒野に屍を晒すわけにはいかない。




「透明になれるのか。音はどうする?」


 ライオブレイカーは提案に前向きだ。接近できれば殺さず無力化する事も可能だろう。銃撃距離で戦えば、最も小さい射撃武器はライオシューターになってしまう。それでは強力すぎる。


『周囲の音を消す【サイレンス(沈黙)】の魔法を併用すれば、完全な隠密行動が可能です。どちらも100DPで使用可能です』


『いかがでしょう…?』


 女性の声が不安げに尋ねてくる。悪くない提案だ。

「効果が持続する時間は?」


『持続時間は1ターンです』


「なるほど」


(わからん)


「地球時間ではどうだ?わかるか?」


『…検索の結果、10分ほどのようです』


「よし、採用しよう」




 見渡すかぎりに広がったマナプラントの森で待ち伏せする。恐るべき繁殖力だ。

 女性の声はダンジョン範囲に入った敵の位置を感知できる。相手が視界に入る前に【インビジビリティ(透明化)】【サイレンス(沈黙)】を使用する。

 敵はロボット兵器を使っている。破壊して無力化すればパイロットは降参せざるを得ないだろう。

 多少の怪我は、勘弁してほしい。



 相手が視界に入った。

 カーキ色の小型ロボット兵器だ。ライオブレイカーのパワードフォームやファイナルフォームと同程度のサイズ。上半身は細身だ。構造からしてパワードスーツだろうか。

 頭部にはカメラの望遠レンズらしきシリンダーが装着されている。偵察型だろう。



 敵機と目が合った気がした。



(嫌な予感がする)


 敵機はわずかに進路を変えて、こちらにジリジリと寄ってきている。

 そしてさり気ない風をよそおって、こちらに銃口を向けた。


(バレているぞ!)


 ライオブレイカーの叫びは、【サイレンス(沈黙)】によってかき消される。あわてて森を縫って走り出した。

 それを追い、重機関銃の銃弾が木々をえぐり、なぎ倒していく。

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