必要施設とマナプラント
リドルたちが敵の残骸をあさっている間、ライオブレイカーたちは今後の重要な方針について話し合っていた。
やることはたくさんある。敵の位置や戦力の把握。周囲の地形の把握。周辺国家や武装組織の把握。そして必要な施設の設置。
「…年頃の女の子に惨めな思いをさせるわけにはいかない。トイレや風呂を造るべきだろう」
『はぁ』
女性の声は、どこか気のない返事を返す。
「寝床も必要だろう。あとは排水をどうするかもある。部屋も分けねばならないだろうな」
一時の仮宿だとしても、必要最低限のものはなければいけない。なんだかノリノリな気分で、ライオブレイカーは続ける。
「地下水脈を組み上げ、地下に排水を流すのは水脈汚染の危険がある。何かないのか?ダンジョン」
『この荒野で水脈を探すのは、とても困難なことです。魔法で水を出すのはいかがですか?』
「うん、聞かせてくれ」
『コンティニュアル系の永続魔法に、【コンティニュアルウォーター】があります。通常の【クリエイトウォーター】でしたら1DPで済みますが…』
「いくらだ?」
『起動に100DPが必要です。維持コストに一日1DPを消費します』
「それでいこう。排水や温熱の役に立ちそうなものは?」
『下水に住むコモンモンスターや何でも溶かすコモンモンスターなどもいるにはいますが、廃水処理の役に立つとは思えません』
「排水管と排水桝を使うしかないな」
『温熱に関すれば、熱系魔法や炎のコモンモンスター等、選択肢はいろいろあると思われます』
「プライベートな空間だ。俺の手を借りない機構を使いたい」
『でしたら【コンティニュアルウォーター】の術式を改変し、お湯にしてはいかがです?DP消費は維持コストと共に倍になりますが…』
「良いな。それでいこう。浴槽や便器はどうしたものかな。使いやすいものにしたいが」
『…あの、デッドエンド様?』
「なんだ?」
『甘やかしすぎです』
「えっ」
地上部爆撃クレーターの横にコアルームと同じ大きさの初期設定部屋をひとつ設置(1DP)し、鍵のかかる迷宮ドアを一つ壁につける。
内部の天井に魔法でお湯の水源を設置(200DP)し、その直下からややずらした位置にコモン罠、【開放型落とし穴】を浅めに設置した(1DP)。
水道よりは太い水の束がなにもない空間から流れ出て、落とし穴に溜まっていく。
側面上部に採光窓兼排気口をいくつか設置し、溜まったお湯の上澄みがクレーターに流れ込むように溝を設置した。
やがて落とし穴の上まで溜まったお湯が溝を伝い、クレーターに排水として流れ出始める。
溜まるのはまだまだ時間がかかる。染み込まずあふれるようだったらその時考えるとしよう。
魔力化して消えた死体が着ていた軍服や衣類の束を抱えて、リドルが寄ってきた。
「何をなさっているんですか、デッドエンド様?…あっ、お風呂!!」
華やぐリドルの表情に、ライオブレイカーは厳格な声を返す。
「風呂だ。だが生活用水も兼ねているのだ。…あとは自分で工夫しなさい」
「角ロボで魔法ロボとかギャップ萌えです!デッドエンド様!」
意味がわからない。
「…ありがとうございます、デッドエンド様…」
リドルは、少しはにかんで言った。
「…リドルよ…少し聞きにくいのだが」
「なんですか?」
「トイレはどうするつもりだね?」
「スコップを見つけました」
「たくましいな」
初期コアルームの両隣に、部屋を設置する(DP2)。ひとつは鍵付きの迷宮ドア(DP10)を設置し、もうひとつは【出口作成】で通路を作っておく。
ひとつはリドルの私室、もうひとつはライオブレイカーの私室だ。そのつど【出口作成】を壁に戻せば、機密性を高めることが出来るだろう。
いつまでも天井から出入りするわけにもいかない。部屋を前方に増築し(DP1)、階段を設置した。
階段は踊り場をこまめに造り、巨体のブロッケイドが昇降しやすいようにする(DP10→DP20)。
雨が降る様子はないが、埃よけに部屋を設置し、床と前面を抜くことで階段の出口とし、屋根をかける(DP1)。これで地上施設がふたつになった。
なにか隠蔽の方法を考えねばならない。敵兵器の残骸も目立つ。
そしてライオブレイカーの胸を常に刺す事柄がある。
DPは、人間の命を吸った数値だ。俺は人の命をもてあそんでいる。
「…ダンジョン、DPを自然吸気でかせぐいい案はないか?」
『魔力生産型のコモンモンスターを設置するのがよろしいでしょう』
「たとえば?」
『マナプラントなどいかがですか?食料は水と太陽光線、大気中の魔力でまかなえます。昼は太陽光線を魔力に変え、夜間は魔力を吸収して繁殖します。差額がDPとして吸収できますよ。地上部でしか使えませんが…』
「植物か。遮蔽物として使えるか?」
『強度は足りませんが大きさは十分です。乾燥地で溜め池が一箇所しかないことを考慮すれば、改変して地下茎型にするのがよろしいでしょう』
「十分に広がるか?」
『ではさらに繁殖力強化を付与いたします。基本マナプラント100DP、二箇所改変で400DPとなります。数日で十分元が取れましょう』
「よし、やってみるか」
溜め池クレーターのほとりにやってきた。まだ水(お湯)は底の方にたまっているだけだ。
残骸のひとつのあたりで、リドルとブロッケイドがいろいろサルベージしているのがここから見える。
その植物を召喚、設置した。つる植物がより合わさって固まったような、奇妙な植物だ。初期設定部屋を超えるぐらいの高さ。これを増やせば地上からの視界は遮蔽できるだろう。上空への対策は考えねばならない。
『ユニークモンスター【マナプラント・インベーダー】として召喚されました!デッドエンド様、おめでとうございます!』
女性の声はとても誇らしげだ。
「なんだかわからないが、良いものなのか?」
『水と太陽、魔力がある限り、地下茎により単体でどんどん増殖し、周辺植物を駆逐し続ける恐怖のマナプラントです!このモンスターを使えば巨大穀倉地帯を一網打尽にできるでしょう!この子はとても強力ですよ!』
「ダンジョン」
『はい!』
「周辺地帯内にとどめておくように。荒野から出してはいけない」
『えっ…は、はい』




