表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スーパーダンジョンマスター!!!  作者: PMK
とある戦士の物語の終わり
1/35

すべての戦いが終わった後で

 公安と見られる日本人2、一般人を装う白人1と東洋人1。

 獅子吼(ししく)タケルがあたりを見回すと、脳に埋め込まれた電脳が、自動で彼らの姿を浮かび上がらせた。

 彼らはタケルを見もせず、近づきもせず、興味を持つ素振りは一切しなかった。しかし何気なさをよそおいながらも、彼らはタケルについてくる。


 病床の祖父、獅子吼博士への見舞いを名目にした外出だったが、本当は世界を無垢な瞳で見ていたようなはるか遠い昔のように、気ままに街を歩いてみたかっただけだった。

 だが、それはかなわなかったようだ。タケルはいまだ、身構えの世界のただなかにいるのだ。




 獅子吼タケルは改造人間である。

 長きにわたるレクシア機械領域人との戦いは、タケルの放った最終兵器による必殺攻撃、それによる敵本拠点への一撃によって終幕を迎えたばかりだ。

 だが、戦いに疲弊し帰還した彼を待っていたものは、読み上げるような美辞麗句(びじれいく)と腫れもののようなあつかいだけだった。

 幾人かは感極まるような感謝と(いたわ)りを向けてはくれたが、結局の所それはタケルの未来に続くものではない。空で華やぐ花火のように、見上げ終えた後には煙と闇しか残らなかった。


 祖父、獅子吼博士のことは決して好きではなかった。横暴で、強引。タケルの体を改造した張本人だ。

 幾多の戦いをへてタケルは日本国の特設機関に属することになったが、それまでは獅子吼博士の無茶振りにはさんざん苦労させられたものだ。


 ただ、今はそれが無性に懐かしい。

 感情的で押しつけがましい人間だったが、決して嘘やごまかしを言う人ではなかった。今やタケルのまわりには嘘とごまかし、圧力、昏い未来への予兆しかない。


(軟禁で済んでいるうちに、顔を見ておきたいもんだ)


 このままでは秘密のうちに葬り去られるか、固く閉ざされた場所に永久封印、といったところか。諸外国も彼の回収を狙っているようだ。

 そうなってしまう前に、あの口うるさくやかましい祖父の顔を見ておくのも良いだろう。タケルの足は自然と早くなる。


 タケルが持つ戦いの力はいまだに強力なものだ。秘密のうちで済むような手出しでどうなるものでもない。

 彼がその気になれば、この周辺一帯はすべて焦土と化すだろう。


 無論その気はなかったが、追い詰められれば知れたものではない。それを思うとタケルは暗澹(あんたん)たる気持ちになるのだ。



 大通りの十字路に差し掛かる。歩行者信号が鳥の声で鳴いている。



(なんだ…?)


 タケルは異変を察知した。




 十字路の向こうから爆走してくる車がある。


 トレーラーヘッドだ。40トン級の大きな牽引車。それが赤信号を突破して通りを横切ろうとしている。


 異変に気づいた通りの車たちが一斉に急ブレーキをかける。スピンして横を向く車もいる。いくつものクラクションが鳴り響いた。


 タケルはとっさに横断歩道へと目をやった。…一人いる。


 中学生ぐらいの細身の少女だ。学校の帰りだろうか。

 学校指定のブレザーを着込み、重そうなピンク色のスポーツバッグを肩にかついでいる。片手にはスマートフォン。耳には無線イヤホン。

 必死なほどスマートフォンにのめり込みながら、横断歩道を歩いている。



 気づいていない。



 トレーラーヘッドはすでに十字路に突入した。


 まずい。このままではぶつかる!!

(あの子を救わなくては!!)


 獅子吼タケルは己の内に眠るディオーブエンジンを駆動する。幾多の戦いでとぎすまされた静かな闘志が、一瞬でディオーブエンジンを臨界まで引き上げた。

「チェンジ!ライオブレイカー!!」



 黒き稲光が走る。

 轟音とともに、白銀の影が宙を駆けた。



 跳躍したライオブレイカーは一瞬で、少女とトレーラーヘッドの間に割り込むことに成功した。着地と制動で破片が舞い散り、車道がえぐれて角ばったアスファルト片が飛ぶ。


 優美な全身鎧のような装甲服。その姿は高貴な騎士のようだ。獅子の造形をほどこしたマスクの上にそなわった、ふたつの赤いモニターアイが禍々しい光の軌跡を描く。



 少女と一瞬、目があった気がした。



 トレーラーヘッドの中に人影はない。

(無人…敵か!?…いや、運転手は座席の下に倒れているのか?)


(だとしたら破壊するわけにはいかない。だが、このまま受け止めればこの質量とスピード、少女は確実に巻き込まれる…ならば)


(ライオキックで車両を宙に巻き上げた後、高トルクのパワードフォームにチェンジして、落ちてくる車両を受け止める!)


(多少の怪我は、勘弁しろよ!)


 ライオブレイカーは迫りくるトレーラーヘッドの前に、すっくと立ちふさがった。

 胸のディオーブエンジンが唸りを上げて、キックのパワーを集約させていく。足に、全身に、ときはなたれるための力が満ちていく。



 だが、彼は驚愕することになる。



 トレーラーヘッドは()()()()()させた。一瞬で背部が両側に開き肩と腕になる。シャーシが下に開き脚部に。天板から頭部がせり出した。


 巨大ロボットだ。ライオブレイカーの三倍以上はある。飛びかかる巨大ロボットは彼にむかって、両腕を激しくたたきつけた。


「なにっ!!」


 ライオブレイカーは咄嗟にキックのモーションを解除し、腕を上げガードの体制をとった。

 はさみ込む両腕と、受けとめる両腕が激しくぶつかり合う。

 すさまじい激突音とともに地面がへこみ、破片が跳ねる。相手のパワーに押され、肩の関節が(きし)みを上げて火花を散らした。思った以上の負荷だ。


「レクシアのメックトルーパー(機械兵)!トレーラーに偽装していたのか!!」


『…我が名は…ブロッケイド…』


 しわがれた合成音が響く。


『…パワードフォームには…させん…』


 ブロッケイドの両手が激しく放電する。

まばゆい雷光とともにライオブレイカーは紫電と衝撃に包まれた。

「うわあああああああっ!!」




 ただの放電ではない。ディオーブエンジンの出力が下がり次元着装を邪魔している。フォームチェンジが作動しない。そして電撃の衝撃が内部を焼いていくのがわかる。


 ライオブレイカーは完全にパワー負けしていた。ブロッケイドに押し込まれ、片ひざをついた。焦燥感、そして濃密な死の予感。

(このままでは、負ける…!?)



『無様なものじゃな、ライオブレイカー』



 ブロッケイドのものではない流暢(りゅうちょう)な声が、中から聞こえてきた。ボイスチェンジャーを通したような、ゆがんだ高い音声だ。聞きおぼえがある。

「この声は…ドクター・リドル!『幼稚園バス襲撃事件』の時の!」


『一度きりの邂逅(かいこう)だったと言うのに、おぼえていてくれたか?ふむ、うれしいものじゃのう』


「何が狙いだ!?」


 わかりきったことだ。

「…仲間の復讐か…!?」


『ホホホ、仲間の復讐!感動的じゃのう!…じゃがそうではない、そうではないよライオブレイカー』


 ドクター・リドルはきゅっきゅっきゅと、奇妙な笑い声を上げる。


『懐かしいのう。子どもたちを守リ盾になるライオブレイカー。その姿は私の胸を打ったものじゃわい。あの時貴様がはじめて見せた、パワードフォームを甘く見たのが私の敗因じゃったな。その一度の失敗ごときで私を前線から外しおって』


『…老害どもめ。彼奴(きゃつ)らの仲間など、こちらから願い下げじゃ!』


『じゃがな、貴様には死んでもらうぞ、ライオブレイカー。私のかがやかしき成果のためにな?』


『貴様がわれわれの本拠点に叩きこんだあの一撃、あれは本当に大したものじゃった。あんな()()()()()一撃で巨大要塞を粉々にするとはな!本当に驚いたわ!…地上でモニターしていたぞ』


「……」


『あれは時空振動弾、次元震爆弾かの?…地球にあんな技術があるとは…私は本当に感心したわ…夜も眠れんほど悶絶したわい!ムギャー!!もう!!うらやましくて妬ましくてのう!!』




『私も作ってみた』


 ぷっぷくぷー。

 音割れした間抜けなファンファーレが鳴った。


『今日はそのぶっつけ本番じゃ。うーん、楽しみじゃのう』


 小惑星規模はある巨大要塞の大半をえぐり取った、一発限りの特殊弾頭のことだ。そのコピーをここで試そうというのだ。

 終わった。絶望が頭をよぎる。




 まだだ、まだ爆発の範囲はわからない。完全なコピーである保証などどこにもない。とにかくここから人々を遠ざけなくては。


 ライオブレイカーは背後の少女に向かって必死に叫ぶ。

「早く、早くここから逃げるんだ!できる限りでいい!みんなを連れて逃げてくれ!!」




「まったく、察しの悪い男じゃの」




 少女はスマートフォンを頬から離し、長い髪をかき上げる。

 偏光迷彩が解け、茶に近い黒だった、ゆるやかにウェーブする長い髪が一瞬で銀色に染まった。


「気づいておらんのは貴様だけじゃ。沿道のみなさまはとっくに気づいておるわい」



 少女は歩み寄り、ぴょこんと体を折って、片膝をつくライオブレイカーの耳元に顔を寄せた。

 そしてやさしく、そっとささやく。



「はじめまして、ライオブレイカー。私がリドル博士です」



 少女は、ニッコリと笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ