この世界の中心で 7
結局……「良い考え」は出てこなかった。強力すぎるとはいえ役に立つ力。受け入れて使おうかとも考えたが……それが運命なのか。その選択肢は選んではならないと心が告げている。
心が告げている?いや違う。これは俺のエゴなのだ。どうしようもなくちっぽけなエゴ。でも……ちっぽけだからこそどうしても捨てられない。
俺は……俺でなければ意味がないのだ。その役は。
集合時間までの間は結局ぶらぶらしていたら終わっていた。集まった人数は……意外にも少ない。200人ほどの学年のうち40人ほどだろうか。あとのやつらは家業を継ぐなり戦闘向けの能力ではなかったのだろう。
校長の紹介で現れたのは三土の副団長だと言う精悍な顔つきの男性だ。
隣に居る鉄斗がこそこそと話しかけてくる。
「なんでも三土は副団長と団長の目に留まらないと入団できないんだってさ。完全スカウト性で入団試験も無いんだと。土系統の能力のやつらは張り切ってるんじゃねーの?」
「俺には関係の無い世界だな」
「そうなのか?お前の能力知らないからなんとも言えねぇ」
といったところで話が始まった。
「紹介に与った本日引率する偉大なる四軍が一角、三土が副団長、アルベルト・クロイツだ。今回皆に行ってもらう戦闘訓練の説明をさせてもらう。学習過程で習った通り、今回の訓練の目的は次元の結晶の集合体である次元の箱の探査および分解、回収である。各員死力を尽くすよう」
次元の結晶とは特殊な鉱物で、離れた空間を繋ぐことのできる力があるらしい。これが集まることで巨大な穴が開き、そこから魔物が現れる。魔物がどこから来ているかは諸説あるが、この星の裏側という説が有力なんだそうだ。
「事前の調査で今回の次元の穴はかなり規模が小さく、小型で比較的安全な魔物のみ出現していることが確認されている。三人一組でユニットを組んで存分に訓練を行うように。未来の護国の騎士達の奮闘に期待する!」
さすがに副団長。鼓舞する力は一流だ。かくいう俺も少しテンションが上がってきた。
「テツ、あと一人誰と組む?」
「え、朱じゃねぇの?」
「あー……えっと……」
「お、朱居るじゃん!朱!こっち組もうぜ!公人も居るぞ!」
「鉄斗君久しぶりね。じゃあ三人組もうか」
「うし、じゃあいくか!『鍛練神の手指』!」
鉄斗の服の隙間から銀色の液体がするすると出てきて、一本の剣になった。
「それがテツの能力か?」
「おうよ!金属を自在に操れるぜ!すげぇだろ!」
「……かっけぇ」
「だろぉー!?」
「男の感性ってよくわかんないけど、中々良いじゃない」
「うし、てなわけで行くか!……って二人は武器とか良いのか?」
「私は炎出せるから要らないわよ」
「俺は拳で良いや。血見たくないし」
「ふーん……まぁ良いや。欲しくなったら作ってやるよ」
「移動するか?穴の近くまで行っちまおうぜ」
「どうやっていくのよ?あんたスピードCでしょ?追い付ける?」
「良い副能力があるんだ。『転移』」
フォンッと音がして三人とも壁外の野原に転移した。
「……すげー!超便利じゃん!」
「あんたの能力そんなこともできんの?」
「まぁスキルパワーが低いからたいした距離は飛べないけどな」
鉄斗が俺の後ろを見て口をあんぐりと開けてフリーズした。
「なぁ……二人とも」
「「ん?」」
「周り見てくれるか?」
そう言われて朱と顔を見合わせたあと振り向いて……凍りついた。
「グゲギャギャギャギャ!」
「フシュルルルル……」
そりゃぁもう小型の魔物と聞いて思い付く限りのオンパレード。群れをなすゴブリン、低空飛行のガーゴイル、魔物としては小さくても生物学的には馬鹿デカい蛙、弓を構えるコボルト。
「ど真ん中じゃねぇか……」
「ちょうど良いんじゃね?各々能力試すってことで。あと……」
「あと?」
「一回言ってみたかったんだ。背中は……任せたぜ!ひゃっほーう!」
行ってしまった。すさまじいはしゃぎようだった。
「あー……どうする?」
「どうするもこうするも、あんたに背中任せるのなんて不安しかないわよ。だから……一緒に行こっか。鉄斗君は次元の穴とは逆に行っちゃったみたいだし。手柄取っちゃいましょ」
まさかとは思うがテツの奴、二人っきりにしてくれたのか……?普段から妙に気を効かせる奴だが……まぁいいや。
「よし。いっちょやるか!」
「もたもたしてると置いてくわよ!」
と言うが早いか朱は疾風のごとく駆け出した。ステータスの差が大きすぎる。えっとこういうときは……
「『脚力強化』!」
びゅおん!
全身にのバネを使って駆け出す。ステータスが発現する前より……スピードCの速度より圧倒的に速く、慣れない速度の風が顔に当たる。
なんとか朱の肩に手を置けた。
「おい朱!」
「ん?なに?」
「お前の能力、口振りからして敵に突っ込んで使うモンじゃねぇんじゃねーか?」
朱は少し……忘れてたと言うかのように目をそらして……
「見たい?」
「ああ」
「ん。わかった。じゃあ見ててね……」
右の掌を魔物の群れに……遠くに見える地面に空いたふたかかえはありそうな穴に向ける。
「女神の微熱!!」
轟
日常生活で聞くであろう「炎の音」の数千倍にも思える轟音が響き、視界が白光と赤に包まれる。炎の音が納まり開けた目の前には……
何も、無かった。
「……朱」
「ん?」
「すげぇ!すげぇよ!やっぱり朱はすげぇ!あんだけ居たのが一発で全部だぜ!?」
「なによオーバーね……」
そうは言っても嬉しいものは嬉しい。自分の能力がこれでもここまでは嬉しくならないだろう。……ん?
「なあ朱」
「なに?まだなんかあるの?」
「いや、さっき朱が能力使ったときから思ってたんだけどさ」
真っ黒に焦げた野原の上で、チロチロと尾を引いている炎に手を伸ばす。……熱くない。
「全然熱くないんだけど……なんで?人間には効かないとか?」
「し、知らないわよ!あんたが鈍いだけじゃないの!?」
そう言って目を背けてしまった。なぜか耳まで真っ赤だ。
「えーなんでだよ教えてくれよー」
「嫌よ!あんたも燃えちゃえばよかったのに……」
「燃えちゃわなかった理由を聞いてるんだろ!?いいじゃん教えてくれたって!俺とお前の仲だろ!」
「嫌なもんは嫌なの!」
「あの~、お二人さんよ」
「「何だよ(よ)!?」」
いつのまにやって来たのか、鉄斗だった。
「ひっ……いや、なんかすごい光が見えたから来てみたんだよね……時元の穴もこっちがわみたいだし……というか目の前だし。……邪魔したな!俺もう行くから!じゃ!」
「待て。何の邪魔だってんだ。別に問題ねぇよ。ぼちぼち他の連中も来そうだし、行くか」
焼け跡の奥に見えるふた抱えほどの穴に向かって三人で歩き出した。