この世界の中心で 5
ずっと朱と一緒に居たからかもしれないが、女の子には免疫がある……たぶん。アズアと朱と三人で晩飯を食べ、風呂はシャワーだけ。
同時ではないとはいえ同じ浴槽に入るのは気恥ずかしい。朱と俺が一緒に住んでいるのは、両親の遺書―――軍人は戦闘の前に必ず書かされるもの―――に、もし四人とも死んだら、自立できるまでは、二人で生きていきなさいとあったからだ。今でこそ朱の両親と俺の両親の遺産を二人で使っているが、最初は両親の遺書など無視して別居しようかなどと朱に言ったこともある。が、朱は一緒に居ようと言ってくれた。
そんなこんなで俺は毎日風呂を沸かす前にシャワーを浴びている。
少し読書をしてから寝ようとすると、隣の部屋から小さな声が聞こえてくる。俺の部屋は朱の部屋と隣り合っていて、ベッドは朱の部屋側の壁に付けてある。二人のおしゃべりを聞いていようかとも思ったが……眠い。
目を閉じると心地よい疲労感ですぐに寝られそうだった。今日は色々あって、つかれたな……
起こされなくても目は覚める。目が覚めてまず思うこと……今日は休みだ。次に思うことは朝食。三人分作らなければ。
時計を見るともう九時だった。癖で急いで着替えてしまった。何が目は覚めるだ寝坊野郎め。
朱の部屋のドアをノックして声をかける。どうやら二人はもう起きているようだ。
「二人とも、朝飯どうする?」
「んー、食べるー……」
「あ、はい。私もお願いします」
アズアは言葉遣いが丁寧だ。まぁ慣れていないとこんなものだろう。
「わかった。作っとくぞ」
下に降りて台所に立つ。別に眠くはないがメニューに迷ってしまった。
「オムレツでいいかな」
出来上がったので二人を呼びに上がった。
「ほら、今日は休みで出掛けるんだからいくらでも話はできるだろ。朝飯食べてしまいな」
「あーい」
三人で朝飯を食べながらアズアとコミュニケーションを図る
「アズア、よく眠れたか?使ってない部屋がいくつかあるし、アズアの部屋も用意するからしばらくは朱の部屋で頼むな」
「はい、お陰さまで。わかりました、すいません転がり込んできておいてこんなに良くしてもらって……」
「いいのよ気にしないで。元々私達両親に死なれて二人だけだし、パパとママの遺産もまだたくさんあるし、ね?」
「そうそう。昨日も言った通り、朱も一緒に居られる友達が増えてうれしいだろうし、な。これからよろしく頼むよ」
「受け入れが早いなぁ……適当ってこういうことかしら」アズアがぼそりと呟いた。
「ん?アズア、なにか言った?」
「いいえ、なにも」
朱には聞こえなかったようだが……俺には聞こえた。
『フサワシイ ヒロインヲ オクル』
不意にあの文面が浮かんだが……すぐに忘れることにした。
「よし、じゃあしゅっぱーつ!」
朱はやっぱりテンションが高い。
「あー、アズア、どこに……つっても右も左もわからないのにどこに行きたいとか無いよな……」
「とりあえずお城見て区役所でしょ」
「役所が最初じゃないのか……」
「お城があるんですか?朱ちゃんは昨日公国って言ってませんでしたっけ?」
「あー、そこは諸説あるというかなんというか。前王とお妃様が二年前に崩御されたんだけどな、跡継ぎはもう生まれてたんだよ。だから王弟のシャニル・ユトレヒト様が今この国を治めてる。そんなわけで暫定的に公国なのさ。俺は王国だと思ってるけどね」
「へぇそうだったんですか……」
「そうよ。だからお城、行きましょ?」
「あ、はい!お願いします!」
とはいえ隣の家で見えないだけで距離は一キロも無いのだが。
「まぁ遠巻きに眺めるくらいで良いだろ。役所行こうぜ」
窓口で手続きをする。面倒だそうで、朱は一人で外に居るそうだ。
「えーっと……この場合移民になるんですかね?」
窓口のお姉さんがにこやかに答える。
「はい。亡命元は何処の国でしょうか?」
「いえ、行き倒れで記憶がないらしくて……」
「ああ、それなら面倒な手続きはほとんどありません。お名前をここにお願いします。それと、扶養する家の家主さんはあなたですか?」
「はい。主 公人です」
「学生さんですか?」
「ええ。そうです」
怪訝そうな顔の一つくらいされると思ったがお姉さんはあくまでにこやかだった。
「そうですか。学生さんですと、こちら……アズアさんに労働……つまりは家にお金を入れることですね。を求める権利がありますが、どうされますか?」
「いえ、結構です」
「わかりました。では費用は銀貨二枚になります」
「ああ、はい」財布から出して払った。ちなみに銀貨二枚は一般的な高校生の月のお小遣いの相場より少し高い。痛い出費だが、まあ良いだろう
「確かに。ではアズアさん」
「は、はい!」
「うふふ、そう畏まらなくても良いんですよ。ではシャニルお……公国での生活をお楽しみください。こちら、スキルペーパーになります」
「スキル……ペーパー?」
「おや、ご説明がまだでしたか?主さん、よければここでご説明を?」
「あー……自分がするんで結構です」
「そうですか」
「はい。ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました!」
アズアは少し緊張した様子だ。
「アズア、朱が帰ってくるまでに能力とステータスについて説明するな」
「はい」
担任の受け売りだが説明をした。アズアは飲み込みが
早く、すぐに理解してくれた。
「じゃあちょっとやってみますね」
アズアが彼女の腕にスキルペーパーを擦り付けた。
浮かんできた文字は……
能力 『疾走する永遠』
ステータス
パワーC
ガードB
スピードC
スキルパワーS
スキルガードA
特殊品に平均B以上……羨ましい限りだ。
と……何やら外が騒がしい。アズアも気になるようだ。
役所の入り口から離れなければ朱とはぐれないだろうということで、見に行くことにした。