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主人公なんて大嫌いだ  作者: 地蔵
4/8

この世界の中心で 4

落ち着け。落ち着け公人。幸運にもこの子は裸ではないし今の叫び声で起きてもいない。とりあえずは運ぼう……

人生で二人目に運んだ女の子は体感一人目よりも軽かった。

一人目が誰かって?朱に決まってんだろ

城壁までついた。パスを門番に見せて行き倒れだと説明する。

「ふむ……君みたいに行き倒れを拾った人を何人か見たことあるよ」

「あっ、役所とかにいろいろ手続きとかありますよね?」

「ああ、うちの国では基本拾った人が養うことになってるからね。学生だろうと」

……は?

いや、まだどうなるかはわからない。とりあえず家まで運んで起きるまで様子を見よう。そもそも行き倒れだという確証も無いのだ。記憶も家もあるかもしれない……

「フサワシイ ヒロインヲ オクル」

その文面が家に帰るまでずっと頭から離れなかった。





玄関のドアを開けるのを躊躇いはじめてもう10分は経っただろう。正直朱になんて言うかでずっと悩んでいる。この子も全然起きないし……めんどくさっ!なんだこれめんどくさ!あーもういいや当たって砕けろだ!意味が違う気がしないでもないけど

「ただいまー」ガチャリ

とてとてと音がして朱が走り寄ってくる。

「公人おかえりっ………………軍の駐屯地行こうか」

「まてまてまて!お前テンプレか!俺が女の子拐うと思ってんのか!?」

「思ってたわけないでしょ!今思ったのよ!ほら!三土なら優しく圧死させてくれるから、ね?」

「ね?じゃねーよ!誤解だ誤解!空から降っ…………倒れてたんだよ。外で」

「ならそうと言いなさいよ。ほら、あたしのベッドに寝かせるわよ」

「飲み込みは速いのな……」

「だから思ってないって行ったでしょ」

「過去形と現在形の違い知ってるか?」

「はーいはい、皮肉は結構で~す」

やれやれ。一事が万事この調子だ。……そこが良いのだけども

「あ、あと公人、晩ごはん何?」

「カレーのつもりだったが時間無さそうだしパスタにする」

「やったー!じゃあその子看とくから準備よろしく」

「あいあい。ソースは?」

「ミートソースに決まってるでしょ」

「俺はカルボナーラ風が好きなんだが」

「知ったこっちゃないわよ」

そう言って俺の背から女の子を軽々と持ち上げた。オールAは伊達じゃないようだ。




少しして。ソースが出来上がりそろそろパスタを茹でようとしたところへ朱がドタドタと降りてきた。

「公人!起きた!起きたよ!」

「わかった。今行く」

淹れておいた暖かいお茶をもって朱の部屋へ向かう。

階段の軋む音が嫌いなので忍び足で上がり、ノックを……するか少し迷ったが、せずに入ることにした。

少女は……ぼんやりと。窓の外を見ていた。はじめて目を開いている彼女を見たが……やはりと言うべきか。息を呑むほどに美しい。そして……

顔でもない。まだ聞いてはいないが声でもないだろう。しかし……なぜか彼女に朱が重なってしまった。呆気にとられていると、間に本物の朱が割り込んできた。

「こんにちは。初めましてだよね?私は炎寺 朱。こっちは幼馴染の主 公人よ」

「どうも。野原で気絶していたところを連れて帰ったんだが……いきなりで悪いけど、君の名前は?」

少女……という表現が正しいのだろうか。自分と同じ年齢(に見える)の人に対して小さいという言葉を使うのは変にも感じる。

彼女はガラス玉を指でつついたような透き通った声でこう答えた。

「私は……えっと……その……」

「ゆっくりでいいわよ。どこか痛いところは無い?」

「いえ、大丈夫です。でも……」

「でも?」

「ごめんなさい。何も……自分の名前も思い出せないんです。思い出せない……というよりも、元々無かったようなかんじがしてるんです」

「そっか。うーん困ったなぁ」

「とりあえずうちにしばらく居てもらうしかないだろ。あー……名前、どうしよっか?」

「付けてもらってもいいですか?」

「「はい?」」

朱と声がシンクロした。

「いえ、なんというかその……付けてもらいたいなって。そう思ったんです」

「そう言われてもなぁ……急には思い付かないよ……」

「そ、そうですよね!ごめんなさい!」

「なぁ……アズア、なんてどうだ?」

二人が不思議そうにこちらを見てくる。

「いやさ、髪が綺麗な空色だから、空色のazureをカタカナ読みして、アズア」

長い間空色について考えていたかのように、口を突いて出てきた。自分でも不思議な感覚だ。

「なんだか……良いですね!ありがとうございます」

満面の笑みだ。直視できないほど眩しい。

「気に入ってくれたならよかった。そうだ二人とも、お腹空いてないか?」

照れ隠しのようになってしまったがそうだ。せっかくパスタを茹でたのだから覚めないうちに食べなければ。

「そうね。アズア……ちゃんで良いかな?」

「アズアで良いですよ。アズア……アズア……ふふっ、なんだか嬉しくなっちゃいますね。名前があるなんて」

「そう?よくわからないわ。でもねアズア、公人のご飯は絶品よ!立てる?行きましょ」

「はい!」

姉妹のような二人を見ていると心が暖まるようだ。

「あ、そうだアズア」

「はい、なんでしょう?公人……さん?」

「ああ、それで構わないよ。それでだな……この国に定住するとなると色々手続きがあるんだ。でも俺と朱は明後日ちょっと用事があるからさ。すぐで悪いんだけど、明日、案内も兼ねて行こうと思うんだけど……もう一日くらい休んだ方が良いか?」

「いえ、私は大丈夫ですよ」

「やったー!じゃあ、明日午後で良い?」

「なんで午後なんだ?」

「アズアと一晩お話するからに決まってんでしょ!あんたはさっさと寝なさい」

朱はどうやら余程嬉しいらしい。それだけ言って一人で下に降りてしまった。

「ごめんなアズア。眠かったら眠いって言えば寝かせてくれると思うけど、ちょっとはしゃいでるみたいだ」

「そんなとんでもない!普通なら厄介がられるところをこんなに優しくしてもらって……」

「長いこと二人だけだったからな。そりゃ嬉しいだろ。まぁその、仲良くしてやってくれ」

「こちらこそです!」

「ありがとう。じゃあ、行こうか」

「はい!」

この時は……偶然を信じていたかった。でも……朱の嬉しそうな笑顔で忘れていた。

彼女は……アズアは、空から降ってきたのだ。

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