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歌の章 第7話

   私は願おう

   あなたが安らかに眠れる事を

   あなたは私の心の中で生きている

   この心の中に居てくれるから

   あなたの生きた地

   守り続けていこう

   悲しみは胸の奥に

   この歌をささげよう―――





「悲しい歌……ね」

 相変わらずのユンの音痴な歌にサラがそう言った。いきなりの囁きに何の事かとリヴァイアは首をかしげる。

「サラ……?」

「だって自分が生きた場所をその人が悲しみを我慢しながら守ってるんでしょ? 私だったら心配すぎて安らかになんて眠ってられないわ」



 サラが少し怒り気味にそう言った。何が気に入らなかったのか、リヴァイアには全く分からなかったが。

「私だったら残された人には笑って生きていてほしいもの……。大体! 悲しみを我慢するなんて間違ってるわ。思いっきり泣いて忘れてしまえばいいのよ!!」

 そこまで聞いてリヴァイアはようやくサラの言いたい事を理解した。

「いつまでも悲しんでいてほしくないんですね、サラは」

「そ。それならいっそ忘れてほしいくらいだわ」



「ぼくは……忘れたくないです……。だって忘れてしまったら、本当にいなくなってしまうから……」

 ユンが歌うのをやめてそうつぶやいた。両親のことを思い出しているのだろう。リヴァイアがインフィニティアロッドに光を灯してユンの方へ歩み寄ると、隣に腰かけて傍らにインフィニティアロッドを置き、ユンの手を握った。暗闇の中、ユンの動く気配がする。

「リヴァイア様……」

「サラはサラ、キミはキミ……でしょう? サラの意見を聞いたからと言って、無理に忘れることもないんですよ」

 その言葉に、ユンの気配でうなずいた事を察する。



「要は笑っていてほしいってことだろ。ユン坊の両親だってそう願ってるさ」

「そう……でしょうか?」

「ん。多分……な。じゃなきゃ命をかけてまで守ったりしない、だろ?」

 リヴァイアの握っていたユンの手が震えている。泣いているのかもしれない。リヴァイアはそっと握る指に力を込めた。横から静かな嗚咽(おえつ)が聞こえてくる。



「全く……。キミが縁起でもない歌を歌うから場の雰囲気が暗くなってしまったじゃないですか。責任とって場を盛り上げてくださいよ」

 不機嫌そうにそう言うリヴァイアの手をユンは握り返した。

「責任取ります!! ぼく、歌います!!」

 そのままユンは、再び音の外れたレクイエムを歌いだした。ファンとサラが苦笑する。

「縁起でもない歌はうたわないで下さいと言ったのですが……」

「リヴァイア様! 2番歌ってください!! 歌詞を教えてくださるだけでもいいですが……ぼくリヴァイア様の歌が聞きたいです!!」

「歌いませんよ……」




 立ち直りが究極に早いユンの手を離すと、リヴァイアは深く深くため息をついた。いつもの癖で眼鏡を押し上げようとして、はめていないことに気付き更にため息が出る。

「やだ、リヴァ。ほらほら、ため息は幸せを逃すわよ?」

 サラがそう言いながらリヴァイアの隣に来た。唐突過ぎてリヴァイアの肩が跳ねる。

「サラ……。よくこの暗闇で歩けますね」

「私、夜目は利く方なの。じゃなきゃ光もなくここまで来れないわよ」



 言われてみればその通りだと納得する。向こうから「野生女だからな」と、ファンの声が聞こえた。リヴァイアは自業自得で受けた傷の治療はしないから、と思いながらインフィニティアロッドを手に立ち上がった。

「そろそろ出発しましょうか? 時間がないのでしょう?」

 それだけ言うと、リヴァイアはサラを見てファンの方を見た。目線だけで先に行って欲しいと訴える。

「じゃ、私が一番ね」



 そう言って歩き出そうとするサラの腕をファンが取った。

「お前は1番後ろだ。俺は元気いっぱいだからな。先に行ってやるよ」

 ちらりとサラの右足首を見てそう言うファンである。

「さすがに兄さんはごまかせないわね」

 サラは苦笑しながら、後ろに下がった。そんなやり取りに気付いていないユンは、しばらくきょろきょろした後また何かに気付くと、その何かを拾ってリヴァイアに手渡した。

「魔導書……キミはまるで宝を探してくる犬みたいですね……」



 リヴァイアの言葉にユンは嬉しそうに笑った。褒めてはいないのだが嬉しそうなユンに、リヴァイアは感謝の言葉を伝えると共に、魔導書を受け取った。

「アプラディアンだけは出ない事を祈るぞ……」

 ファンがそうつぶやくと、奥へ向かって歩き出した。その後をリヴァイア、ユン、サラの順に続く。これならばいざ背後を取られても大丈夫そうな隊列だ。

「ね、ユンはいつもあの歌を歌ってるの? レクイエム……だっけ?」

「え? あ、はい! ぼくの両親がそばに居てくれる気がして……。いつも歌ってます。本当はリヴァイア様の歌が好きなのですが、なかなか歌ってくださらなくて……」



「当り前でしょう? 死者に捧げる歌をそうそう歌う訳ないじゃないですか」

 呆れた声でリヴァイアは後ろを振り返りもせずにそう言った。

「……と言う訳で、一人で歌ってます」

 ユンは寂しそうにそう言いながら、サラに自身の両親の事を話していた。サラはただ黙って聞いているようだった。





 リヴァイアの背後でしていた暗い雰囲気が、いつの間にか恋の話に変わリ始めたころ、ファンが足を止めた。

「何かいる……な」

 一本道だった今までとは違い、洞窟内は少し入り組んでいた。その四方を見渡しながらファンが弓を握り締め、右手はいつでも迎え撃てるように矢筒に入った矢にかける。

「魔物……ですか?」

「おそらく」

 リヴァイアの質問にファンが緊張の走った声で答えた。後ろに居たユンとサラも戦闘態勢に入る。




「サラ、詠唱を始めます。守ってください」

 リヴァイアはそれだけ告げると右手にインフィニティアロッドを、左手に魔導書を持ち集中を始めた。どこからともなく風が集まり、片手で持っていた魔導書のページをめくっていく。ユンもリヴァイアを守るつもりなのか、自身の得物である水晶玉を取り出しリヴァイアの後ろで集中を始めた。

「上だ……!!」


 ファンが声を発するとともに、数本の矢を天井の岩壁に向けて放った。人と同じ程の大きさをした一体の巨大なコウモリ型の魔物が落下してくるのを合図に、同じ姿の魔物が三体、四人に向かって襲いかかって来た。ファンがその一体の攻撃をひらりと右に避けると、近距離から二本の矢を射る。その近くをサラが走り抜け、上空から遅いくる魔物を抜刀しながら斬り上げた。しかし斬り方が甘かったのか、腹の辺りを斬り裂かれた魔物はキーッと甲高い声で鳴くと、旋回して羽を振り回しサラに襲いかかってきた。



「ッ……!」

 襲ってくる羽がサラにかする直前でファンの矢がその羽に突き刺さり、サラまではかろうじて届かなかった。サラがほっと一息をつく。

「助かったわ、兄さん」

「貸し(いち)な、サラ」

 さすが兄妹……と言うべきか、息はぴったりだ。



()(おく)(ねむ)業火(ごうか)よ、紅蓮(ぐれん)吐息(といき)()()くせ」

 集中が完了したリヴァイアが詠唱を始める。リヴァイアの周りに足元からゆらゆらと出てきた炎が集まり始めた。

「フレイムブレス!!」

 呪文と同時にリヴァイアの周囲に集まっていた炎のうねりが、勢いよく拡散しながら火の粉をまきちらし、落下した一体と残りの一体の敵へと向かって飛んで行った。幾筋もの炎がコウモリ型の魔物を舐めるようにからめ取り、時には飲み込んで焼き尽くした。




「……すげ……」

「壮観……ね」

 四体の魔物全てを跡形もなく呑み込んで焼き尽くすと、リヴァイアの放った魔術の炎はそのままぷしゅんと消えて行った。リヴァイアの後ろに居たユンがぺたりと座りこむ。リヴァイアは開いていた魔導書を閉じると脇に抱え、ユンの方へ向き直った。

「どうしてキミがヘタるんですか? ユン」

「え、と……。感動と、羨望と、恐怖で、表現しがたい状態になってます……」



 焦点の合わない視線でボーっとしながらそれだけつぶやいた。まだ戦闘には慣れていないのだろう、緊張の糸が切れたのかもしれないと納得した。

「キミも攻撃術の練習はしているのでしょう? 練習通りにすれば大丈夫ですよ。ただし間違ってもサラや僕は攻撃しないでください」

「俺はいいのかよ……」

 背後で聞こえたファンの言葉には、大きくうなずくリヴァイアである。ユンが声をあげて笑った。



「大丈夫よ兄さん。骨は拾ってあげるから」

 サラが剣を鞘に収めつつそう言った。ファンが脱力しながらもユンに近づき、リヴァイアに聞こえるようにユンにささやいた。

「ユン坊、もし俺に向けて攻撃術使ったら……、リヴァにスカートはかせてレリアの街中連れまわすから」

 その言葉を聞いたユンがごくりと喉を鳴らして、リヴァイアの足元をまじまじと見つめた。リヴァイアがユンの頭に軽くげんこつを落とす。

「はうっ……」



「そう言う訳ですので人に向けて使ってはいけませんよ! それが例えファンだったとしても、です」

 リヴァイアにそう言われてはうなずくしかないユンである。ファンがにやりと笑った。

「さすが策士ね。兄さん。」

 ファンの表情を見たサラが呆れ顔でそう言った。

「ん? たまたまだぞー?」

 わざとらしくそう言うファンに、さすがのサラも声が出ないようである。リヴァイアは気を取り直すと、ファンの背を押した。

「冗談は置いておいて、早く先に進みましょう。本命に会う前に魔力が尽きたらシャレになりませんから」

 リヴァイアの言葉に納得したファンが一息つくと、分かれ道に目印をつけて先に進みだした。三人もその後に続く。





「そろそろ奥に来た感じだけどな……」

 そのまま再びぶち当たった分かれ道に目印を残して右へと進む。ユンが何度目とも知れないレクイエムを口ずさみだした。

 そこから二つ目の分かれ道を左に進んだ時、ようやく開けた場所に出た。天井が空洞になっているのか、インフィニティアロッドに光がなくとも奥がよく見える。その中央に居て、眠る巨大な生物を見てリヴァイアは驚きの声を上げた。

「な…!? どういう事ですか!?」

 ユンも口をあんぐりと開ける。リヴァイアとユンは二人で絶句した。

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