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虚空の真実  作者: 琥珀 朔
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第一章一節

コミカルなサブタイトルを付けるものかどうか悩んでます


「以上が事件の概要だ。戒人(かいと)君、何か質問はあるかね」


 俺の目の前に座りそう言って手帳を閉じる壮年の男性。無精ひげに眼鏡、短く刈り上げられた白髪。そしてやくざ顔負けの顔つき。彼は警視庁捜査一課の警部である伊調(いちょう)高虎(たかとら)さんだ。よくこの事務所に難事件の解決を相談または依頼しにやって来る。


 刑事ではあるが、本人の強面のせいでこの町にやってきた当初は職質されたり町を出歩くと怖がられたりと散々だったようだ。数年経った今では多少受け入れられたらしいが、それでもまだ小さい子供には怖がられたりするらしい。もっとも、伊調さんと初めて会った時は俺も大変ビビりまくったわけだが。


そんな本庁の警部さんが部外者である俺たちの力を借りたりして上から苦情などが来やしないものかと本人に確かめたところ、事件解決のために利用できるものは利用しておいた方がいい、とのことだったのでおそらく問題はないのだと思われる。万が一警察側から何か言われたときはだって伊調さんが、という逃げ道は確保しておこう。


「あ、えと、じ、事件概要をまとめた資料なんかがあると助かるかな、と」


「うむ、わかった。後ほどメールにて送るように伝えておこう」


「た、助かります」


 一般人である俺たちが事件現場を訪ねたうえで事件を調査できるよう取り計らってくれているのだから伊調さんには頭が上がらない。上がらないが見た目怖すぎるので話すときはいまだに緊張してしまう。


 ちなみに、ここはとある事務所、三年前に俺がやってきたあの古ぼけた館の一室である。そこに俺と伊調さんは机を挟んで向かい合って座っている。事務所と言っても外観上は館のままなので事務所と言えるかは怪しいが依頼を受けたりする場所なのでここでは事務所と表現させていただく。


「ではまた何かあったら連絡してくれ」


 そう言って席を立つ伊調さん。彼を見送るため俺も席を立つ。さすがに本庁の警部ともなると毎日忙しいようで彼が依頼を持ってくる日はいつも早々に事務所を後にされる。


「は、はい、わかりました。伊調さんも頑張ってください」


「戒人君もな。彼女によろしく伝えておいてくれ」


 館を出るドアの前に来たところで伊調さんからそう言われ固まる。彼が言う伝えておいてくれには文字通りの意味とそれとは違った意味も込められているのである。


「……ま、まぁ、何とかやってみます」


「おいおい、君がしっかりしてくれんと私だって困るのだからな。頑張ってくれよ」


 それじゃあな、と言って伊調さんはドアを開け館の外へと向かっていった。頑張ってくれとは言われたものの、俺が頑張るかどうかではなくすべては彼女次第なのだ。さて、それではその彼女に会いに行きますか。


 会いに行くと言っても実は彼女もこの館に住んでいる。なので本来であれば会うのは難しくないはずなのだが……。とりあえず行ってみて会えなさそうであればまた今度にしよう。


 先ほど伊調さんと話していたのは本館一階にあるリビング。そのリビングから二階へと続く階段を上る。この館、本館だけではなく別館までもあるのだが、別館は今では利用されていないらしい。そのため彼女がいるのも本館であり、その二階に住んでいる。


 階段を上った先、廊下を少し進んだ先にある部屋。その部屋に入るための扉は固く閉ざされており、その扉に備え付けられたホワイトボードには次のような言葉が記してあった。


『会話可能。頑張れる、かも』


 どうやら今は会えるようだ。そのことに安堵しつつ、扉をノックする。


 コンコン。……返事がない。もう一度。


 コンコン。……返事がない。二度寝中かな、と思ったところで中から返事が聞こえてきた。


「お、起きてる。……ちょ、ちょっと待ってて」


 そう言い終わるや否やバタバタと慌ただしい音が聞こえたり、なんでこんなところに置いてるのという声も聞こえた気もするが本人にそれを言うと大変なことになりそうなので俺は何も聞かなかったことにしておこう。


 そしてひとしきり騒音が収まったところでガチャり、とドアが開き中からパジャマ姿の黒髪の少女が顔を覗かせた。


「ど、どうぞ」


 お邪魔しますと言って部屋の中に入れてもらう。このやり取り、何回もやったはずなのだが部屋を片づける音が聞こえなかったときはない。常々から整理しておけばとも思うが本人にやる気は無いようだった。


 部屋に入ってすぐ目に飛び込むのは多くの本棚とそれらに所狭しと詰め込まれた数々の書物である。そして本棚のほかにはベッドとクローゼット、作業用の机があるだけ。ほかにもっとこう可愛げのあるものは置いてないのか、と見回したところクローゼットに明らかに急いで隠したであろう猫のぬいぐるみがこんにちはしており、


「……‼」


 ガチャッ!バタン!


 今年最速のこんにちはさようならだと思う。今のは見なかったことにしよう。


「はぁ……はぁ……」


 そう決心した俺を若干涙目になりながらチラチラ見ているこの黒髪の彼女。身長は160無いくらい。髪型はセミロング、と言えばいいのか。こちらを見ているその目は黒く不機嫌そうに見える。幼いと言うよりかはクールな顔立ち。この少女の名は天咲(あまさき)理緒(りお)。こう見えてもこの館の主であり、事務所における最高責任者であり、警察からも頼られる名探偵なのである。


 そう、先ほどの伊調さんが言ってたよろしくとは、彼女に事件の概要を説明して事件を解決してくれ、という意味が含まれていたのである。


 ではなぜ俺が彼女と会えるかどうかを心配していたのかというと……。


「あ、天咲?」


「な、なんでしょうっ!」


 ビックゥ!と口調も変になりながら反応する天咲。普段タメ口なのに気が動転したりすると敬語になるのはいつもの事だ。いや、そこまで驚かなくても……と、天咲を見ると


「‼」


 プイッとそっぽを向いてしまう。別段俺が嫌われているというわけではなく、普段からこうなのである。むしろこれでもマシな方だったりする。


 もうお分かりだろう、天咲理緒は人と接することが苦手、つまり人見知りなのである。


 急に話しかけられると戸惑う、話し掛けると焦ってワタワタしてしまう、人と接することが不得意である人。それが天咲理緒である。


 実は俺も少なからず人見知りなので伊調さんと話した時もものすごく緊張したのだが、仕事なのでやらないわけにもいかない。伊調さんの場合は生粋の強面ということも作用しているのだが。実際天咲は俺以上の人見知りなので、天咲と話すときはいつもより余裕をもって喋れている。


 天咲は推理力や洞察力に関しては長けており、事件解明となる犯人指摘などに関してはスラスラと言葉を連ねることが出来るのだが、推理の時以外では緊張してしまうらしい。


 初めて会ったときも、いらっしゃいませの一言が限界だったようで、その後逃げ出すほどだった。


 なので事件の概要を聞いたり現場に行ったり調査を行うのは俺の役目であることが多い。たまに調査に同行することもあるが、基本的に天咲は推理にのみ専念という形だ。


 そう、俺は今この天咲探偵事務所で助手を勤めている。三年前連れてこられて初めて会ったのが、この天咲だった。それからずっとここで厄介になってる。が、先ほど言ったように主に調査を行ってるのは俺なので俺が名探偵みたいな扱いを時どき受けるのだが俺自身は凡人である。


「……」


 と一人で現状を説明していると天咲が俺のことをチラチラ見ていた。そう言えば要件を忘れていた。


「伊調警部から事件の依頼だ。後で概要は説明するとして、午後から現場に行く予定だけどいっしょに、」


 バッ!


 行くか、と俺が言い終わらないうちに天咲が挙手をした。


「……行くか?」


 コクコクコク。


 頷く天咲。はいの一言よりその動作の方が疲れる気もする。だが天咲が現場に同行するなんていい機会だ。こういったことをきっかけに人見知りが少しでも良くなればいいのだが……。


 そう思いだして早三年。人見知りがよくなる傾向は全く見受けられないのであきらめた気分にもなっている。


 だがまぁ、そうと決まれば話は早い、さっそく準備だ。と、その前に。


「天咲」


「……?」


 ちょっとビクッとなりながらもなんですか?と言いたそうな天咲、色々と荷物を用意しようとしているが、


「まずパジャマを着替えなさい」


 天咲は不思議そうな顔を見て、それからパジャマ姿の自分を見て、


「……‼」


 気づいたようだ。また天咲がパニックにならないうちに部屋を出た方がよさそうだ。


「下で待ってるから用意出来たら降りて来いよ」


 そう言ってドアを開け天咲の部屋を後にした。



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