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素朴な少女。

 黒ねずみの少年は花売りの娘に教えてもらった方へ歩みを進めます。その間も黒ねずみの少年の胸元では花売りの娘からもらった淡い青色の花が甘い香りを漂わせていました。

 (あぁ、いい香りだな。こんなに綺麗でいい香りのお花は初めてだ! )

 黒ねずみの少年は上機嫌です。ふわふわとした心地で自然と鼻歌がこぼれます。その鼻歌は黒ねずみの少年の母親がいつも口ずさんでいる月と太陽の歌でした。

 ―ふんふんふん♪ ふふんふんふん♪

 すると、またどこからか声が聞こえてきました。それは小さく細い声でしたが、はっきりと耳に届く不思議な声でした。

 「ねぇ、素敵な歌だね。初めて聴く歌だ。なんて言う歌なの? 」

 黒ねずみの少年はきょろきょろと見渡しますが、声の主を見つける事が出来ません。

 「こっちだよ。上だよ。」

 黒ねずみの少年が上を向くとそこには奇妙な生き物がいました。その生き物は歯車の間に浮いていて、ツルツルとした白く透き通る肌をしています。真っ黒く大きなマントの上から出ている頭はきのこのようにいびつに大きく、下から出ている足はミミズのように細く長くたくさんあり、広がっては閉じて、広がっては閉じてと優雅に波うっています。

 「どうしたの? 私の姿はそんなに珍しい? あんまり見られると恥ずかしいよ」

 「あっ! ごめんよ! ただ、なんと言うか君みたいにツルツルした生き物を初めて見たからビックリしちゃって。今歌っていたのは月と太陽の歌だよ」

 「月と太陽の歌…」

 そう呟くとその奇妙な生き物はゆっくりと黒ねずみの少年の元へ降りてきました。

 「それよりも、君すごいね! カブトムシよりもてんとう虫よりもツルツルじゃないか! 」

 「えっ? カブトムシ? てんとう虫? 私、見たことない……」

 「そうなの? カブトムシもてんとう虫もツルツルなんだよ! 」

 「そのカブトムシとてんとう虫よりも私はツルツルなの? 」

 「そうだね、君はカブトムシよりもてんとう虫よりもツルツルだよ! 」

 「そっか、ツルツルなんだ」

 黒ねずみの少年とその奇妙な生き物は顔を見合わせて笑います。

 「あははっ! 」

 「ふふふっ! 」

 黒ねずみの少年は、その女の子と初めて会話をしましたが、短い時間でも素朴で優しい子だと感じていました。

 「ねぇ、もしかして、君がくらげさん? 」

 「えぇ、私はくらげです。あなたは迷子のねずみさん? 」

 「うん、そうなんだ、僕迷子なんだ。くらげさん。くらげさんに聞いたら帰り方が分かるって聞いたんだけど……」

 「帰り方? うーん、そうだねぇ……。ねずみさん、あなたは何時の扉からやってきたの? それさえわかれば、扉の場所まで案内するよ」

 「それはあおむしさんにも聞かれたんだけど、僕、扉使ってないんだ。不思議な黒色の時計を見ていたらいつの間にかここにいたんだ」

 「いや、あなたは扉を使っているよ。私達時計の国の住民の言う扉は目に見えない物だから気付かなかったのかも」

 「えっ、目に見えないの? 」

 「うん、だけど鍵は目に見えてるはずなんだ。ねずみさんがこの国に来る時に見た黒い時計。その時計が鍵かもしれない」

 「時計が鍵? 」

 「そう。その時計の針は何時をさしていたか覚えてる? 」

 「ええっと…、たしか短い針が4のところにあって、長い針が12のところにあったよ」

 「それなら4時だね。4時の扉はお花畑の向こう側になるから一緒に行こう?」

 「うん!」

 くらげの少女は細長い足を手のように差しだしました。黒ねずみはその手を取り歩き出します。

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