足踏み
ゴーン、ゴーンと鐘がなる。寝ぼけた頭が、次第にはっきりしてくる。
また鐘がなる。回数は5回、時刻を告げる鐘の音。
外は日が昇ったばかりだろうか、明るくなり始めている。
朝食を食べ終え、生活必需品を買うため店を探す。
言葉に関してだが、カードで召喚(?)したゴブリンと意思疎通ができたから、この世界に召喚された俺はこの世界の人間と話しが通じると思っていたが、どうも違っていたようだ。
風呂にいく時ブレスレットを外したのだが、途端に会話が理解出来なくなった。老婆は分かってて、この魔法の品を渡したのだろう。
宿の備品をカードにしようとしたが、失敗した。たぶん所有権の有無ではないだろうか。
そして今、道端に落ちた石をカードにしてみる。駄目だ出来ない。
昨日買ったリンゴは出来た。街にある物は石ころといえど、領主の持ち物なのかもしれない。買う事で初めて所有権が移るという事だろう。
適当な店で歯ブラシ、着替え、タオルなどを購入。端数が出ないように買うのがマナーのようで、お釣りとして消耗品を選ぶようだ。もらったのはコットンのようなモコモコして石鹸のように泡立つ謎の植物、尻を拭くためのふんわり葉っぱだ。
次に向かったのはギルド。メインストリートに面した商業区にある、ひと際おおきな建物だ。
ファーストフードの様なカウンターがあり、それを挟んで職員と話す人々。
シャクシャクとリンゴを食べながら、休憩するふりをして盗み聞きをする。
どうやら仕事を依頼する受付のようだ。力仕事に何人必要だとか、水魔法を使える人を紹介して欲しいなど聞こえる。
建物をぐるっと南に回ると、これまたカウンターがある。
早朝のせいか人は少なく、武装した屈強な男が数人、動物の死体を渡すと、硬貨を受け取っている。
素材を買い取り、解体する場所のようだ。
さらに建物を回ると中へ続く扉があり、武装集団が出入りしている。
ここが目的地だ。
中に入ると食堂のように、テーブルを囲んでエールを飲む男たちが多数いた。
隅により観察すると、入ってきた男達はカウンターで挨拶をし、木の板を壁に引っ掛けた後、エールを持って席につく。
奥から来た紙を持った職員は木の板を確認し、テーブルに声を掛けていく。
これは派遣だ、日雇い派遣の会社だ。
とりあえずカウンターにいる職員に話し掛けてみる。
「見ない顔だな。初めてか? ここでは仕事の斡旋をしている。ギルドにはいるか?」
もっと詳しく話を聞きたいと告げる。
「慎重だな。学者さんかい? まあいい、うちに加入すれば技能に応じて、仕事が受けられる。座って待ってりゃ仕事をやるが、役立たずは一日中座ってる事になるがね。
そこの掲示板には自由に受けられる仕事が貼ってある。新人はそれで信用を稼ぐんだ。
建物の西側は狩りの獲物を買い取ってる。ギルドに加入しなくても利用可能だが、真っ当に生きたきゃギルドに加入する事をおすすめするね」
少し考えさせてくれと言って掲示板の方へ向かってみる。
子供が数人立っている。気にせず貼ってある依頼とやらを眺めてみて、顔をしかめる。
「兄ちゃん字、読めないのかい? 1銅で読んでやるぜ」
そう、文字が読めなかった。看板を見た時から薄々気づいていた。
カウンターに戻り、ギルドに加入する旨を伝える。
名前を聞かれ『エム』と答えた。考えていた偽名だ。
次に聞かれた技能は、もちろん魔法は使えない。計算は得意だが文字が読めないと言うと、アホかと言われた。
「この木の板にお前の名前が書いてある。ここに来たら壁にかけろ。帰る時は外せ。
報酬は税金と、年の初めの人頭税の支払いを引いた金額を渡す。しっかり働かねえと奴隷になっちまうぞ」
なかなか厳しい世界のようだ。どうせ仕事もブラックだろ。働きたくないでござる。
しょんぼり宿屋に帰って楽な道を模索する事にする。
依頼ってどうせゴブリン殺せとか、でっかい蜘蛛の毒やら糸やら持ってこい、だろ。
銃でもなきゃ、現代人のもやしっ子がそんな事出来るわけねぇよ。
あとは商売か。字が読めなくて常識が無くて、コネもない。…無理やん。
急にノックも無しにドアが開く。
「あんた、掃除するんだから出ていっとくれ。夕方まで帰ってくるんじゃないよ」
部屋を追い出された。ちくしょう、今にみてろよ。
やっと主人公の名前が出てきました。
MENの頭文字でエムです。
ちなみに初めての小説なのでアドバイス頂けたら幸いです。