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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
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オニール

 頭を失っても心臓は暫く動き続ける。

 頭部の無いビューイの体は心臓の鼓動に合わせて、数回ビュッビュッと血を噴出すると、地面を赤く染める。

 

「いやああ、やめて、私の脚返して!」


 アンの悲鳴が聞こえる、狼に襲われているのだ。

 助けてと伸ばす手に差し伸べられる手などない、虚しく空を掴みやがて力無く垂れ下がる。

 オニールはそれを一瞬だけ見たが、すぐにこちらに視線を向ける。


 そうか、アンが死んでも手駒にはならない。俺が直接手を下していないからだ。助ける気など毛頭ないという事か。

 胸糞悪い、ならば貴様をカードにして永遠にこき使ってくれる。




 既に大勢たいせいは決していた。こちらは更に魔物を失ったが、それでも冒険者の数を着実に減らしていき、数が半数以下になると逃げだす奴が出てき始める。

 そしてこちらを囲む包囲網が櫛の歯が欠けたようになると、一気に形勢はこちらに傾き、気付けば残されたのはオニールだけになっていた。


 残りはオニールただ一人。だがこちらも殆どの魔物を失った。

 ゴブリンは全滅、ブルフロッグ、ハーピーも同様だ。

 残った手駒は、チェシャ狼一頭、リザードマン一匹、トロル一匹のみだ。

 オニール達で手一杯になり、新に手駒を増やす余裕がなく消耗戦をいられたからだ。


 だがオニール、貴様だけは絶対に仕留める。



「オニール、貴様の目的はなんだ?」

「言うまでもねえ、人類の敵を殺してやるのさ」


 真っ直ぐ俺を見詰める瞳は何の揺らぎも見せない、狂信者の目か? これがオニールの目なのか?


「俺が人類の敵になるというのか?」

「誰であるかは関係ねえな、魔女だという理由だけで十分なんだよ」


 サッと身をひるがえし走っていくオニール。

 何だと、逃がすか、追え。

 チェシャ狼にしがみつき追うが、恐るべき速度で疾走していく。

 やはり魔法の靴でも履いているのか、上り坂でさえ人間離れしたスピードでのぼっていく。


 コイツを逃がしてはならない。逃せば体勢を立て直し、更に辛辣しんらつな手で襲ってくるだろう。今、ここで仕留めるのだ。


 やがてオニールは坂を上り切った所で少しスピードを落とし、こちらに振り向く。

 何だ、罠か? 警戒しながら囲み込……


 登り切った坂の上から目前の光景を見て絶句する。

 人、人、人。無数の武装した人間が陣を張ってこちらに対する。

 あれは軍隊だ、領主もしくは国の軍。

 それが一斉に弓を絞り……矢を放つ。

 迫りくる無数の黒い点、その巨大な黒い塊が弧を描き飛翔、降り注ぐ死の雨と化す。

 くそぅ、狼、リザードマンはカードに戻れ、トロルは俺を守れ。


 トロルが上に覆い被さると同時に、大量の矢が降り注ぐ。豪雨だ、矢の豪雨が辺り一面に突き刺さる。

 トロルの体が力を失い崩れ始める。マズイ、カードに戻れ……戻らない、まさか死んだのか?


 慌ててトロルの下から抜け出すと、その巨体はドウと音を立てて地面に横たわる。

 どうする? どうしたらいい? 逃げ出すか? 無理だ、隙間なく降り注ぐ広範囲の矢など躱しきれん。


 オニール、そうだオニールはどうなった? 見渡すと全身を矢で貫かれ、こちらを見据える血だらけの男。まさか生きているのか? だがもう助かるまい。

 口が僅かに動く、何だ何を言っている。


「これが俺からの餞別せんべつだ、有難く受け取りな」


 そう言って事切れるのだった。



 更に放たれる大量の矢。迫りくる確実な死。

 餞別だって! あんなもんいらねえ。 うう……死にたくねぇよ。


 飛んでくる矢に無意識に手をかざす。あれが突き刺さるのか、痛いんだろうな。

 あの矢が俺の体に……俺への餞別……俺の……物? あれが俺の……


 空を埋め尽くす矢の雨が突如消え去る。

 そして舞い落ちる一枚のカード。無数の矢が描かれたカード。


 そうか、これがカードの……俺の力か。

 そして放たれる更なる矢。だが、もはやこんな物、何の意味もさない。


「無駄だ」


 矢は俺の体に届くまでに全て消え去る。

 矢を放った軍隊に騒めきが起こる。動揺、あるいは恐怖か。


「チェシャ狼、召喚」


 颯爽と巨大な狼にまたがり、背を向けて走り去る。目指すはルクセリオ、そこで力を蓄え反撃に出るのだ。逃げ回るのは御免だ、全てを飲み込んでやる。




 以前から疑問に思っていた事がある、カードの力とは何であろうか。そもそもこの世界にトランプなど存在するのか? 

 エスタの魔女は人と何年も戦い続けたという。トランプのたかだか五十枚程度でそんな事が可能なのか?

 カードの力とは純粋な力そのものではないのか、俺にはトランプでもエスタの魔女には別の何かに見えていたのかも知れない。

 俺にとってその力がトランプならば、それは一組だけなのか? 一つである必要など無いのではないか?


 己の疑問に答えるかのように、体から力が湧き出す。手に現れるカードの束、百枚、二百枚、まだまだ出せそうだ。


 もはや怖いものなど無い。全てはこの手の中に……


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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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