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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
45/50

冒険者

 ポケットからカードの束を出し、周囲に投げ散らす。

 カードは次々と魔物の姿を形どり、俺を中心に一つの軍を形成する。

 ハーピー共は空へと飛び立ち制空権を確保、巨大なトロルは立ちはだかる大きな壁となり、フォレストスパイダー、ジャイアントスコーピオン、チェシャ狼、ゴブリンが壁の間から攻撃の機会を伺い、リザードマン、ブルフロッグが俺の脇を固める。


「フハハ、さすがは魔女だな。正に魔物の親玉ってな」


 これで戦闘用のカードは出揃った、一枚も残って……手に触れる感触、見ると何も描かれていないカード。召喚した暗殺者達が死んでカードに戻ったのか。


「ワー」と声がする。隠れていたのだろう武器を持った集団が草の影から姿を見せ、こちらになだれ込んでくる。

 あれは冒険者達だ、デッサの街を拠点とする冒険者の集団だ。見知った者もいる、その中には昔世話になったゴディバの姿も。


「ハンッ、お前みたいな化け物を俺達だけで相手にすると思ったか!」


 オニールは剣を掲げ大声で叫ぶ。


「人にあだなすエスタの魔女よ。人間の力を思い知るがいい!!」


 その声に呼応して冒険者達から「オオー」と自らを鼓舞こぶする歓声が上がる。


 クソ、最悪だ。ぺぺ、テンガお前達は逃げろ。俺が足止めする、馬車で突っ切れ。ルクセリオまで逃げるんだ。


 御者の男マルセイが牛に鞭を入れ、護衛の男モーリンが戸惑う二人を荷台に引き込む。

 馬車はルクセリオに向かって走り出す、オニールは気にも留めない、俺の事しか目に映ってないのか。


 このまま殺されるなんて御免だ。いいさ魔女になってやろう、貴様もカードにして我が配下にしてやるわ。



 周りを見渡す、森までは遠い。ここで迎撃せざるを得ない。

 迫りくる冒険者の集団にファイヤーボールを打ち込む。それを見た彼らは散開しつつ距離を詰めてくるが、避け切れない者は盾を構えて弾き返そうとする。

 炎の玉が着弾、数人が吹き飛ばされるも死者はいない。炎上する盾を捨てて弓でこちらを狙う。

 あの盾強化されているのか? 統制も取れてやがる。厄介な。


 ドゴンと音がして目の前のトロルが吹き飛ぶ、何だ何をしやがった、アンの魔法か?

 

 オニールが斬り込んでくる。他のトロルが棍棒を振るうも、素早く躱しその腕を切り飛ばす。

 マズイ、すぐさま二匹ともカードに戻しすぐに再召喚。

 再び五体満足のままオニールの前に立ちふさがる。

 彼はチッっと舌打ちするとトロルの間を縫って迫ってくるが、ゴブリンやスコーピオンに阻まれ一旦後退。そこにブルフロッグの長い舌が伸び、剣を絡めとる。

 そのまま武器を奪うかに見えたが、宙を舞ったのはブルフロッグ。オニールが舌を掴んでその怪力で引き寄せたのだ。

 振るわれるバスタードソード。その刀身がブルフロッグを切り裂かんとした瞬間、標的は忽然こつぜんと姿を消し、剣は空を切る。俺がカードに戻したからだ。


 そうこうしているうちに、冒険者達とトロルが肉薄する。

 巨大な棍棒で数人を蹴散らすも、怒涛の攻撃により押し込まれる。

 ゴブリン達が器用に隙間から仕留めていくが、数の差による不利は否めない。

 冒険者の集団は百人以上はいるだろうか、俺が仕留めてこちらの手駒にしていかねば負けは確実だ。


 厄介なのが弓で直接俺を狙ってくる者だ、障害物を設置し頭を低くして対抗するも、その分指示を出しにくい上クロスボウやファイヤーボールを飛ばす余裕を奪われる。

 さらに時折リザードマンが盾で受け止めている投げナイフ。何処から飛ばしているのか死角から俺を正確に狙ってきやがる。恐らくビューイだろう。


 隙をついてファイヤーボールを飛ばす。よし二人仕留めた、奴らの中心に召喚してやる。

 

 突如味方に襲われた冒険者は倒れるも、周りの者が声を出し裏切り者を特定、囲み仕留める。

 クソ、動揺してねえ。カードの力はキッチリ周知されてやがる。


 それでも多少の混乱はあり、こちらの手勢により幾人かを仕留める事が出来た。俺も数人殺し、カードにした。

 ハーピーは上空から弓を持った者を集中的に狙い、フォレストスパイダーの糸で行動を阻害。そして俺が仕留めた奴をさらに召喚してやると、完全に混戦状態となった。

 こちらは何とかなりそうだ。だが問題はオニール達三人だ。


 アンが上手く魔法でサポートしつつ、オニールが斬り込む。執拗に俺を狙うビューイの投げナイフ。

 致命傷を負う度、カードに戻して再召喚しているが、ゴブリン一匹、ブルフロッグ二匹、トロル一匹が死体となった。

 冒険者の集団に気を取られている隙に、着実に仕留めてくるのだ。


 そして次はビキビキと音を立ててジャイアントスコーピオンが凍り出した。これは以前見た事がある、アンの魔法だ。

 

「ファイヤーボール」


 魔法を使うアンに高速の炎の玉を発射する、詠唱中なら避けられまい。

 燃え上がる魔力の塊が杖を構えるアンに迫る。そして着弾、壁にぶつけたペンキの様に炎が広がる。

 あれは……アンの手前一メートル程に透明の壁があるみたいだ。その魔法の壁がファイヤーボールを防いだのだ。

 詠唱を必要とし俺のように連発は出来ないが、多彩な魔法を駆使する厄介極まる相手だ。

 遠距離攻撃は無駄か? 別動隊として誰かを向かわすか? しかし……。


 オニールが斬り込んでくる、狙いは凍ったジャイアントスコーピオンだ。

 バスタードソードの一撃を食らった巨大な蠍は粉々に砕け散った。


 おのれ、囲んでぶち殺せ。

 ゴブリンが剣で、リザードマンが槍で仕掛けるもオニールは素早く後方に下がり距離を取る。

 動きが速い、魔法の靴でも履いているのか。


 このままではマズイ何か手はないか?



 ん? ハーピーがある場所に群がっている、一匹切り殺されたがあれはビューイだ。

 見つけたぞ、意外と近くに居やがった。仕留めてカードにしてやる。

 クロスボウを撃ち、ファイヤーボールを飛ばすも素早い動きで避け続ける。小癪な。


 よし、チェシャ狼。横から回り込んで離れた場所にいる……アンを襲え。

 そして俺は魔法の鎖を取り出し、ビューイに投擲。彼は横にステップして躱すも、鎖は避けたはずの体に絡みつき手足を拘束する。


 疾走する狼、すべもなく縛られているビューイ。オニールは両方を見てから猛然と走り出す、行き先はビューイの元だ。

 ビューイの方が近い、こちらなら間に合うと思ったか、甘いな、クロスボウを撃つ。動けないビューイの胸に突き刺さる。

 オニールが駆け寄る、その動きは速いが間に合うものか。トドメだ、さらに頭目掛けて矢を発射する。


 矢がビューイの眉間に刺さる直前、オニールの剣がビューイの首をポーンと跳ね飛ばした。


 え? 頭を失った体は大量の血を飛ばしながら崩れ落ちる。


 助けに入ったんじゃない、こちらの手駒になる前に殺したのだ。間に合わないのは承知の上で駆け寄ったのだ。



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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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