冒険者
ポケットからカードの束を出し、周囲に投げ散らす。
カードは次々と魔物の姿を形どり、俺を中心に一つの軍を形成する。
ハーピー共は空へと飛び立ち制空権を確保、巨大なトロルは立ちはだかる大きな壁となり、フォレストスパイダー、ジャイアントスコーピオン、チェシャ狼、ゴブリンが壁の間から攻撃の機会を伺い、リザードマン、ブルフロッグが俺の脇を固める。
「フハハ、さすがは魔女だな。正に魔物の親玉ってな」
これで戦闘用のカードは出揃った、一枚も残って……手に触れる感触、見ると何も描かれていないカード。召喚した暗殺者達が死んでカードに戻ったのか。
「ワー」と声がする。隠れていたのだろう武器を持った集団が草の影から姿を見せ、こちらになだれ込んでくる。
あれは冒険者達だ、デッサの街を拠点とする冒険者の集団だ。見知った者もいる、その中には昔世話になったゴディバの姿も。
「ハンッ、お前みたいな化け物を俺達だけで相手にすると思ったか!」
オニールは剣を掲げ大声で叫ぶ。
「人に仇なすエスタの魔女よ。人間の力を思い知るがいい!!」
その声に呼応して冒険者達から「オオー」と自らを鼓舞する歓声が上がる。
クソ、最悪だ。ぺぺ、テンガお前達は逃げろ。俺が足止めする、馬車で突っ切れ。ルクセリオまで逃げるんだ。
御者の男マルセイが牛に鞭を入れ、護衛の男モーリンが戸惑う二人を荷台に引き込む。
馬車はルクセリオに向かって走り出す、オニールは気にも留めない、俺の事しか目に映ってないのか。
このまま殺されるなんて御免だ。いいさ魔女になってやろう、貴様もカードにして我が配下にしてやるわ。
周りを見渡す、森までは遠い。ここで迎撃せざるを得ない。
迫りくる冒険者の集団にファイヤーボールを打ち込む。それを見た彼らは散開しつつ距離を詰めてくるが、避け切れない者は盾を構えて弾き返そうとする。
炎の玉が着弾、数人が吹き飛ばされるも死者はいない。炎上する盾を捨てて弓でこちらを狙う。
あの盾強化されているのか? 統制も取れてやがる。厄介な。
ドゴンと音がして目の前のトロルが吹き飛ぶ、何だ何をしやがった、アンの魔法か?
オニールが斬り込んでくる。他のトロルが棍棒を振るうも、素早く躱しその腕を切り飛ばす。
マズイ、すぐさま二匹ともカードに戻しすぐに再召喚。
再び五体満足のままオニールの前に立ちふさがる。
彼はチッっと舌打ちするとトロルの間を縫って迫ってくるが、ゴブリンやスコーピオンに阻まれ一旦後退。そこにブルフロッグの長い舌が伸び、剣を絡めとる。
そのまま武器を奪うかに見えたが、宙を舞ったのはブルフロッグ。オニールが舌を掴んでその怪力で引き寄せたのだ。
振るわれるバスタードソード。その刀身がブルフロッグを切り裂かんとした瞬間、標的は忽然と姿を消し、剣は空を切る。俺がカードに戻したからだ。
そうこうしているうちに、冒険者達とトロルが肉薄する。
巨大な棍棒で数人を蹴散らすも、怒涛の攻撃により押し込まれる。
ゴブリン達が器用に隙間から仕留めていくが、数の差による不利は否めない。
冒険者の集団は百人以上はいるだろうか、俺が仕留めてこちらの手駒にしていかねば負けは確実だ。
厄介なのが弓で直接俺を狙ってくる者だ、障害物を設置し頭を低くして対抗するも、その分指示を出しにくい上クロスボウやファイヤーボールを飛ばす余裕を奪われる。
さらに時折リザードマンが盾で受け止めている投げナイフ。何処から飛ばしているのか死角から俺を正確に狙ってきやがる。恐らくビューイだろう。
隙をついてファイヤーボールを飛ばす。よし二人仕留めた、奴らの中心に召喚してやる。
突如味方に襲われた冒険者は倒れるも、周りの者が声を出し裏切り者を特定、囲み仕留める。
クソ、動揺してねえ。俺の力はキッチリ周知されてやがる。
それでも多少の混乱はあり、こちらの手勢により幾人かを仕留める事が出来た。俺も数人殺し、カードにした。
ハーピーは上空から弓を持った者を集中的に狙い、フォレストスパイダーの糸で行動を阻害。そして俺が仕留めた奴をさらに召喚してやると、完全に混戦状態となった。
こちらは何とかなりそうだ。だが問題はオニール達三人だ。
アンが上手く魔法でサポートしつつ、オニールが斬り込む。執拗に俺を狙うビューイの投げナイフ。
致命傷を負う度、カードに戻して再召喚しているが、ゴブリン一匹、ブルフロッグ二匹、トロル一匹が死体となった。
冒険者の集団に気を取られている隙に、着実に仕留めてくるのだ。
そして次はビキビキと音を立ててジャイアントスコーピオンが凍り出した。これは以前見た事がある、アンの魔法だ。
「ファイヤーボール」
魔法を使うアンに高速の炎の玉を発射する、詠唱中なら避けられまい。
燃え上がる魔力の塊が杖を構えるアンに迫る。そして着弾、壁にぶつけたペンキの様に炎が広がる。
あれは……アンの手前一メートル程に透明の壁があるみたいだ。その魔法の壁がファイヤーボールを防いだのだ。
詠唱を必要とし俺のように連発は出来ないが、多彩な魔法を駆使する厄介極まる相手だ。
遠距離攻撃は無駄か? 別動隊として誰かを向かわすか? しかし……。
オニールが斬り込んでくる、狙いは凍ったジャイアントスコーピオンだ。
バスタードソードの一撃を食らった巨大な蠍は粉々に砕け散った。
おのれ、囲んでぶち殺せ。
ゴブリンが剣で、リザードマンが槍で仕掛けるもオニールは素早く後方に下がり距離を取る。
動きが速い、魔法の靴でも履いているのか。
このままではマズイ何か手はないか?
ん? ハーピーがある場所に群がっている、一匹切り殺されたがあれはビューイだ。
見つけたぞ、意外と近くに居やがった。仕留めてカードにしてやる。
クロスボウを撃ち、ファイヤーボールを飛ばすも素早い動きで避け続ける。小癪な。
よし、チェシャ狼。横から回り込んで離れた場所にいる……アンを襲え。
そして俺は魔法の鎖を取り出し、ビューイに投擲。彼は横にステップして躱すも、鎖は避けたはずの体に絡みつき手足を拘束する。
疾走する狼、為す術もなく縛られているビューイ。オニールは両方を見てから猛然と走り出す、行き先はビューイの元だ。
ビューイの方が近い、こちらなら間に合うと思ったか、甘いな、クロスボウを撃つ。動けないビューイの胸に突き刺さる。
オニールが駆け寄る、その動きは速いが間に合うものか。トドメだ、さらに頭目掛けて矢を発射する。
矢がビューイの眉間に刺さる直前、オニールの剣がビューイの首をポーンと跳ね飛ばした。
え? 頭を失った体は大量の血を飛ばしながら崩れ落ちる。
助けに入ったんじゃない、こちらの手駒になる前に殺したのだ。間に合わないのは承知の上で駆け寄ったのだ。




