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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
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王都への旅―後篇

 見渡す限りの草原に一陣の風が吹く。生い茂った草は波となり、遥か遠くの山々へ向かって走り続ける。

 空には白い雲が徐々に形を変え、西へと流れていく。

 人の手では成しえないこの壮大な空間を進んでいると、人の力の届かない魔物の領域である危険な場所だという事を忘れ、不思議な安らぎと充実感を感じさせる。


 そんな人工物の無い景色の中で、僅かに道と呼べる代物しろものを進んでいると前方に黒い点が見えた。

 近づくにつれ人が横たわっているのだという事が分かる。行き倒れだろうか?

 身体つきから女だと思われるが、うつ伏せで倒れ動く気配が無い。

 馬車を止め徒歩で徐々に近づくも、遠巻きに様子を伺う事に留める。

 生きてんのか? 呼吸により僅かに体が動いている気がする。

 怪しい、魔物にやられたにしては綺麗すぎるし一人だけというのも……何か違和感を感じさせる。

 行き倒れなら助けてやりたいが近くによるのは嫌……


「うぐっ」


 突如右肩に痛みが走る、見ると腕から矢が生えている。

 弓で射られたのか? 何処からだ?

 周りを見まわそうとした時、倒れていた女が素早く立ち上がりショートソードを構えこちらに走り寄る姿が目に映る。

 慌てて四人召喚。

 護衛の男モーリンが駆け寄る女と俺の間に割って入り、両脇をテンガとぺぺが守る。

 暗殺者ABCの三人は、散開し狙撃手を索敵、迎撃に向かう。


 彼らは急に呼び出された狼狽などまるで無く、状況を全て察しているかのように対応していく。

 カードになっている間も意識、もしくは目を俺と共有しているのか? あまりの情報伝達の速さに驚きもするが、都合がいいので今は放置だ。


 急に現れた男たちに困惑の色を隠せない女は立ち止まり、首を左右に振った後、背中を向けて一目散に逃げていく。

 逃がすか! ハーピーを三羽召喚。進路を塞ぐと共に索敵の役割を担う。


 ビンと弦が音を立てる。ぺぺから放たれた矢が逃げる女の首に吸い込まれ、貫通。

 糸の切れた人形の様に崩れ落ちる女……即死だ。

 思わず「あっ」と声がでるも、時すでに遅し回復魔法も効果は見込まれない。


 上空を旋回するハーピーが警戒を解き戻って来た頃、三人の暗殺者が弓と男の死体を引きずって帰ってきた。

 敵は二人だけだったか、尋問したかったが仕方あるまい。正当防衛だ、冒険者の慣わしに従い身包み剥いで放置するとしよう。


 金目の物を漁っていると気になる物を見つけた、一枚の紙だ。

 手配書、その人相書きは……俺だ。

 ギルトや酒場によく貼られており、罪人の似顔絵と懸賞金が描かれているあの手配書だ。

 懸けられた賞金は金貨二十枚。滅多に見ない極悪人だ。


 そうか、そうきましたか。おのれぇー、商売が軌道に乗り始めこれからという所で。

 問題は個人が懸けた懸賞か、何らかの組織が懸けた物であるかだ。

 個人ならなんとでもなる。最悪なのは国家だ、国が懸けたものであるとするならば商売はおろか生存すらも難しい。



 

 馬車の荷台で荷物に背を預けて座る。御者をするのはマルセイ。クソッ、力が入らねえ。

 毒だ、矢に毒が塗られていたのだ。買っておいた毒消しは気休め程度にしか効きやしねえ。

 回復魔法で症状の悪化は抑えてはいるものの、毒が抜けきるのは時間を要するだろう。


 今はアーケの城下町に向かっている。もうすぐ途中にあるダリアの街に着く頃だがこのまま進んでいいのだろうか?

 デッサの街では俺の手配書は見かけなかった。タイミングの問題か、手配書が発行されたのがダリアもしくは……王都、アーケ。――嫌な予感がする。


 先行していた暗殺者の一人が戻ってきて俺に告げる。ダリアの門では手配書を持った衛兵が出入りする者達を一人ずつ確認していると。

 これはマズイぞ。王都なんぞに向かっている場合じゃねえ。引き返すぞ。


 馬車を反転させ、デッサの街へ進路をとる。

 くぅ~、どうすればいい? ポケットに手を入れる、違和感を感じる。最悪だ、最悪のシナリオだ。



 マルセイが言う「前に誰かいます」と。

 見ると一人の男が立っている、ゆっくりと馬車は速度を落としお互いの顔が確認出来る距離に近づくと停車した。


「よお、エムじゃねえか? 元気だったか?」


 オニールだ。さらに後方にローブを着た魔術師がいる、アンだ。


「それ以上近づくな、何でここに居る」

「おいおい、どうしたんだよ。ダリアに向かうとこだよ、お前こそ何で引き返してるんだ?」


 周りを見回す、アンとオニールしかいねえ。暗殺者ABC、辺りを探れ。


「ビューイはどうした? 一緒じゃねえのか」

「ビューイはあれだよ、……あ、お前怪我してんのか、ちょっと見せてみろよ」


 クロスボウをオニールに向ける。


「近づくなと言っただろう、俺達をつけてたんだろ理由を言え」


 こちらに向かって歩き始めていたオニールは再び足を止める。


「なんだ、やっぱり気付いてたのか。しゃーねえな、コイツを返そうと思ってな」


 ほらよとオニールが投げる黒い塊。それは黒い影を引きながら、ボールの様にコロコロと転がり止まる。

 後を引く黒い影は人の髪、転がったのは首、人の生首。その虚ろな目に映るのは俺の姿か。


「ごめんな……ガザル」



 オニールが投げたのは、監視役の男ガザルの首。

 デッサの街でオニールに会った時、後を付けて挙動を調べるように依頼していたのだった。


「それ、お前の配下だろ? コソコソ付き纏っていたからチョット話を聞いたんだ。何も答えてくんねぇから熱くなっちまってな、気付いたらそうなってた」


 ハハハと笑うオニール。


「召喚! 全員出てこい。奴を……殺せ」


 


 

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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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