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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
43/50

王都への旅―中篇

 デッサの街の路地裏に一軒の酒場がある。冒険者が数多く集まり、様々な情報が乱れ飛ぶ。

 誰かが意図的にまいたデマも有れば、知らなければ命取りになる情報など様々だ。

 その酒場の片隅で俺はグラスを傾け、上質の果実酒を堪能する。


 隣の席では珍しく女性冒険者二人が井戸端会議いどばたかいぎを繰り広げている。

 弓を背負った若い女とローブを着込んだ魔術師の女だ。エール片手に熱く語っているようだが、男の俺にはまるで理解出来ない、結論の出ない不思議な会話だ。

 覗かれただの、縛られただの、尻に擦り付けられただの聞くにえない卑猥ひわいな話まで飛び出してくる。この世界でも若年者の性の乱れは社会現象になっているのかもしれない。


「かあー、たまには果実酒もいいな」


 瓶ごとラッパ飲みしている目の前のゴリマッチョはお馴染みのオニールだ。それ高えんだから一気に飲むんじゃねえよ。


「結構儲けてるみたいだな、今度護衛に雇ってくれよ」

「何だ、今受けてる依頼で忙しいんじゃないのか?」


 オニールの手が一瞬止まるも、すぐに瓶を大きく傾け中身を飲み干す。

 そして一点を見詰めたまま、なおも瓶を傾けるも酒は残っておらず、名残惜しそうに呑み口を覗き込む。

 ふん、しゃーねえなもう一本やるよ。果実酒の瓶を手渡してやると、こちらを見て口を開く。


「おう、ありがとよ。別に今受けてる依頼はねえ。少し纏まった金が入ってな、今ゆっくりしている所さ。で、これから何処に商売にいくんだ?」

「……そうだなダリアまで行こうと思っている」


 この後は他愛もない話を続けていたが、ふと気になった事を尋ねてみた。


「エスタの魔女って知ってるか?」


 オニールだけでなく、隣でチビチビと酒を飲んでいたビューイも動きを止める。

 二人共知っているのか、それにしても反応が大きいな。ヤバい話なのか?


「知らねえのか? 何処のド田舎から来たんだお前」

「子供でも知ってると思うけど……歌なんかも幾つかあるし」


 俺が肩をすくめると、オニールはグイっと酒をあおり、ジロっとこちらを見ると酒臭い溜息をついた後、話し出した。


「悪い奴がいてな、魔法使いで一杯殺して、それからあれだ、そうドカーンと軍隊にやられたわけだ。わかるか?」

「全然わかんねえ」


 コイツ説明下手くそ過ぎんだろ。

 ビューイが「ははは、僕から話すよ」と助け船をだす。


「ある所に悪い女魔法使いがいました。彼女には人を自由に操る力がありました。

 その力を使って好き勝手に生きる彼女を皆はうとましく思っていましたが、怖くて誰も逆らえませんでした。

 その話はやがて王様の耳にも入り、心を痛めた王様は彼女に言うのです。人の心を操るのはとても悪い事だ、今すぐやめるんだ、と。

 彼女は言いました、好き勝手に生きて何が悪い。力を持った者が一番偉いんだ、文句があるなら力づくで止めてみろ、とね。

 そして王様を取り囲みます。そう城の中の人達は既に彼女の手下になっていたのです。

 それでも王様は一歩も引きません、お前の力など真に強き心までは操る事はできはせん、と。

 取り囲む人の中から、一人また一人と王様の方に味方する者が出てきます。

 そう彼らは真に王様に忠誠を誓った人達だったのです。王を守る親衛隊もその中にいました。

 やがて両者は戦い傷つくも、真に強き心を持つ者にはかなわず悪い魔法使いは逃げていきました。

 逃げた先はエスタ山、魔物が沢山住む山です。

 それから数年後、彼女は帰ってきます。多数の魔物を従えて。

 人と魔物の争いは何年も続きました。そして最後に勝ったのは人でした。

 王様の親衛隊が悪い魔法使いを倒したのです。

 しかし彼女は最後に言い残しました。必ず復活してお前たちに復讐してやる、と。

 彼女はエスタの魔女と呼ばれ皆の心に残り続けましたとさ、おしまい」


 オニールは俺の顔を覗き込んで「スゲー美人だったらしいぜ、魔女」と言う。


 ふーん、なるほどね。その話はいつ頃の話なんだ?


「もう百年以上も前の話らしいよ。でも、たまに魔女を見かけたって人が出てくるんだ」

「生きててもババアだな」


 魔力的なやつで生き返ったり、長生きしたりとかないのか?


「おとぎ話でしか聞かないね、宮廷の魔術師とかも取り分け長生きってわけでもないし」

「アンも最近、小皺こじわが出て来たしな」

 

 飛んできた皿をオニールは器用にキャッチしている。アンが投げたのか、こっちの話聞いてたのかよ。


「もしかしたらエスタの魔女って一人だけじゃないのかもね、例えば代々引き継ぐ名前だったり」


 ふむふむ、この手の話は権力者によって都合のいいように歪められるものだが、参考になった。

 高い酒を奢った甲斐があったというものだ。


「じゃあまたな、ご馳走さん」と言うオニール達の背中を見送り、宿へと向うと明日の出発に向け体を休めるのだった。



――――――――



 ゴトゴトゴト、荷馬車は揺れる。


「……」


 ゴトゴト……揺れる。

 つい目で追ってしまう。


「何見てるのかしら」

「別に……」


 そう、馬車が揺れる度にぺぺさんのぺぺさんが揺れているのだ。


「ほんと、いやらしいわね」


 いや、ちゃいますねん。目に入るんですよ。

 ほら、例えばズラの人が居たとするでしょ? それがズレてて御覧ごらんなさい、見ちゃうでしょ。

 しかも百八十度ですよ。前髪が顎まであって後頭部むき出しです、超刈り上げですよ。見ない訳がないじゃない。

 何なら直してあげようかとすら思っちゃうでしょ。

 ですから動かないようにですね、私も手を……「ビタン!!」

 ぶたれた。


 こうして魔物の襲撃は多少あったものの、アーケの城下町への旅は順調に進んでいるのであった。


 


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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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