表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
41/50

わらべ歌

「もういいかい」

「まあだだよ」


 商業区の市場へ向かう道すがら、子供達が路地裏で遊んでいる。かくれんぼだろうか、俺も昔よくやったな。

 おや? 

 少女がひとり地面に絵を描きながら、何かを口ずさんでいる。皆と遊ばないのかな。

 耳を傾ける。歌を歌っているようだ。

 わらべ歌だろうか、なんとなく気になって目を向けていると、いつしか近くまで来ていた。


「新しい母がやって来た、私の名を呼ぶその声は、前と同じ。

 父の名を呼ぶその声も、前と同じ。

 新しい父がやって来た、私の名を呼ぶその声は、前と同じ。

 母の名を呼ぶその声は、前と少し違うかも。

 エスタの魔女が来る。

 私はその名はとっても嫌い、だって凄く怖いんだもん。

 母は言う、エスタの魔女だよ。父も言うエスタの魔女だよ。

 なんだか怖く無くなって来た。

 今ではすっごく好きなの、だって遊んでくれるんだもの。

 私は妹に言うの、エスタの魔女だよって」


 少女は振り返りこちらに気付くが、特に興味もなさげにまた背をむけ絵を描き始めるのだった。

 ただの歌ではあるのだが、どうも耳に残る歌詞だ。

 少し悲しく、何処どこか怖さを感じさせる。

 やがて市場の騒音や活気のある街の様子に興味をひかれ、その歌は頭の片隅へと追いやられていくのだった。



 買った串焼きを頬張りながら露店を眺めてみる。

 移動式の屋台で販売する者や、テントを張り地面に腰を落とし怪しげなパイプをふかす者、地面に木の板を並べその上に商品を載せて販売する者、籠を手にし何かを売り歩く者など様々だ。

 商品も日用品から、何の変哲もない壺を魔道具であると高値を付けていたりする。

 中には本物の魔道具が混ざっており、目利きが確かなら掘り出し物を探し当てられるのだろうが。


 気になったのは蛇を自由に操る事が出来るという笛と、映し出された姿そっくりの者が身代わりに戦ってくれるという鏡だ。

 つい買ってしまいそうになるが、ぺぺに止められ思い留まる。


「そんな無駄金使うなら、給料上げて下さい」


 はい、すいません仰る通りでございます。笛を地面に置き、後ろ髪引かれる思いでその場を後にする。

 足元にある商品を踏まないよう気をつけながら歩いていると、一つのテントが目にはいった。


 テントの外に幾つもの檻があり、中には猿のような生き物が数匹閉じ込められている。

 檻の外にも数匹、鎖付きの首輪で拘束されている。その鎖は地面に刺した杭へと続き、猿が逃亡しようする度それを引き留めている。

 この猿はれっきとした魔物で子供がよく被害にあい、小さいながらも集団となると大人だけでなく家畜なども襲う。

 どうもペットとして売られているようだが、魔物なので当然人に懐く事などないだろうが。

 逃亡しようとして、杭を軸にクルクル走り回る猿に同情する気持ちもあるが、気になったのは鎖だ。

 一本だけ他の鎖とデザインが違っており、色も僅かに赤みががっている。

 これはもしかして古美術商で見かけた鎖ではなかろうか。だとすると魔道具の可能性が高いのではないだろうか。


 店主に値段を聞いてみると、一匹10銀だと言う。

 もちろんこれは吹っ掛けた値段で、ここから価格交渉するのが露店での醍醐味となっている。

 時間が無いので10銀で、鎖をつけたまま買い取るむね伝えると、少し考えたがすぐに杭から外し手渡してくれた。

 やはり魔道具だとは思っていなかったようだ。


「そんなもの買ってどうするのよ」とうるさいぺぺを無視して、猿を引っ張って歩く。

 もし魔道具なら大儲けだ。銀貨どころか金貨何十枚、何百枚になるかもしれない。駄目元で買ってみるのもいいだろう。

 問題は猿だな、正直要らないんだが……カードにするか。でも殺すのなんか嫌だな。


「よし、ぺぺ」

「私だって嫌よ」


 ですよねー。

 しかしこの猿、魔物の割には大人しいな。こちらを攻撃しようともしてこないし。とりあえず鎖の代わりに紐で拘束しておくか。


 鎖を外し紐に繋ぎ直そうとした瞬間、猿はするりと手から抜けて一目散に城壁へと駆け出した。

 近くにあった木にするすると登ると、跳ねるようにジャンプしながら城壁の上に。そしてそのまま街の外へと姿を消してしまった。


 ……まあいいか。今更魔物の数が、一匹増えようが減ろうが大差あるまい。

 それより鎖だ。俺の予想が正しければ……こうだ。


 あきれ顔でこちらを見詰めるぺぺに鎖を投げつける。

 当然のごとく簡単に躱されるのであるが、鎖はおかしな軌道を描き避けたはずのぺぺの脚へと絡みつく。

 そしてまるで生き物のようにスルスルと体を這い上がって行き、両手、両足を絡めとってしまった。

 蛇のように体に巻き付く鎖。その締め付けによりボディーラインは強調され、浮き出る二つの秘丘が何ともなまめかしい。

 

「ちょっと、何やってんのよ! ほどきなさいよ」


 ん~、どうしようかな~。

 暴れれば暴れるほど食い込む鎖が更に胸の膨らみを際立きわだたせる。

 これはけしからん、じつにけしからん。


「ほんとに解きなさい。後で酷いわよ」


 恫喝どうかつしてきた。

 ん~、そんな事言っていいのかなー。それが人に物を頼む態度かなー。


「胸が苦しいのよ、早く外しなさい」


 ん~、もう一回言ってくれるかなー、どこが苦しいって? ん~、ちゃんと言ってくれなきゃ分かんないよー。


「外しなさい!!」


 あ、本気で怒っていらっしゃる。調子乗り過ぎたか。

 しかしどうやって外すんだ? 四苦八苦しながら外していると、「くすぐったいじゃない、何処触ってるのよ」などと言ってくる。

 そう言われましても触らないと外せないじゃん。


「ん~、どこがくすぐったいんだい? 言って……ぐぼぉ」


 腹に蹴りがめり込んだ。

 悶絶して倒れる、地面に横たわる芋虫が二匹になった。


 そして俺のあだ名は「んーおじさん」になった。

 




短編で悪代官マローンをUPしております。

良かったら読んで下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ