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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
40/50

集落

 水に浮かぶ複数の板、括り付けた縄でそれを引く。上に乗るのは醜い蛙、ブルフロッグだ。

 リザードマンに案内され、彼らの集落へ移動中だ。

 馬車は置いてきた。こんな人気ひとけの無い所で盗まれはしまい。

 最近盗まれたばかりの記憶など、とうの昔に捨て去った。

 その為、皆でブルフロッグを板に乗せ引っ張っているのだ。だが一人例外がいる。牛を引く御者の男マルセイだ。

 彼はすっかり気落ちした様子でトボトボと牛を引き、時折立ち止まり足の裏を見る。水に浸かるのがそんな嫌か。

 こちらの視線に気づいたマルセイは卑屈な笑いを浮かべる。よし、リザードマンの集落で食事が振る舞われたら、真っ先に食べさせてやろう。何が出てくるかは知らんが。

 

 やがて大きな沼へと辿り着く。

 リザードマン達はザブンと体を潜らせ中央の浮島目指して、尻尾を巧みに使い泳いでいく。

 ちょっと待て、あそこまで泳げってか? 

 流石に嫌なので丸太を組んでいかだを作る事にした。

 えっさほいさと作る事二時間、途中リザードマンが数匹引き返してきて、こちらを見て何やら喋っている。

「早くしろ、ウスノロ」なんて言ってるんじゃないだろうな。

 配下のリザードマンに目配せする。あっ、目を反らしやがった。そうなのか、そんな事言ってやがるのか。

 そして筏は完成し、チャップチャップと浮島目指して進んでいくのであった。


 エンジンは三匹のブルフロッグとリザードマン。九人乗った筏もなんのその、瞬く間に浮島に到着した。

 恐らく人工的に作られたその浮島は、しっかりと足を踏みしめる事が出来、地面の上と何ら遜色ない重厚さを感じさせる。

 沼の周りに時折生える大きな木と真っ青な空を、色鮮やかに映し出した水面にポカリと浮かぶこの浮島は、まるで天空に浮かんでいるかのような幻想的なたたずまいを見せる。

 

 島の上には草を束ねて円形に立て掛けた簡易的な小屋が立ち並び、また木の柵で覆われたゲージにブルフロッグが押し込められている。

 辺りをうろつくリザードマンは手に槍を持っており、小屋の中から顔をのぞかせこちらを注意深く見る者までいる。

 どちらも警戒の色が濃く見て取られ、招かれざる客である事を痛感させる。

 お腹が痛くなってきた。はやくも後悔する俺の元に、いかにも長老といった者が何匹かのリザードマンを伴ってこちらに歩いてくるのだった。


 一際大きな小屋で複数のリザードマンに脇を固められた長老らしき者と、九人を従えた俺が通訳のリザードマンを間に挟み会話する。

 相手のリザードマン達は通訳する者を非常にいぶかしげに見ており、こちらの話があまり頭に入っていないようだ。

 そらそうだよな、お前いつの間に人と話せるようになったんだって話だよ。


 多少苦労しながらも、こちらは商人で何らかの取引を希望していると伝えると、商品は何処にあんねんと突っ込まれる。

 少し悩んだが、取引できそうな物をカードから召喚する運びとなった。


 突如目の前に現れる木箱に詰まった銀細工、ガラス細工、染料、そして食料。それを目にしたリザードマンから驚きの声が上がる。


 フハハハ、恐れいったか。私をただの商人かと思うてか、この力を……何やら様子がおかしい。


 長老を中心に何やら真剣に話し合っている。ただ驚いているにしてはおかしな反応だ。

 やがてこちらに体を向け、まっすぐ見詰めた後、頭を下げる。

 何これ? 朝一、百貨店に行って従業員に一斉に頭を下げられた時を思いだす。


 配下のリザードマンから状況を尋ねるも今一伝わって来ない。考えている事、気持ちなどはお互いに理解出来るが、他者の考えを伝えるには言葉がないと上手く伝達しないようだ。

 それでも断片的だが分かってきた。以前同じような能力を持った者に世話になったようだ。

 俺の腕にはめたブレスレットを指差す姿も見られるため、関係者と考えたのだろう。

 これ以後は非常に友好的となり、食事を振舞ってくれるに至った。


 様々な果物が並べられ、山菜、木の実、そして生肉。これはマルセイにあげよう。

 こちらも食料を提供し、宴会の装いを呈する。

 泊まっていかないかとのお誘いを受けたが、先を急ぐためと商品の取引だけに留め集落を後にする。

 長老は何かあれば何時でも力になると言い、配下のリザードマンはそのまま連れて行っても構わないと送り出してくれる。


 商品の取引だが、当然貨幣など存在せず銀細工などにも興味を示さなかったため、ドライフルーツなどの保存食を提供する代わりに、新鮮な果物、木の実、それに湿地帯を抜けるまでの護衛を引き受けてくれた。

 

 かなりの大所帯のためか、魔物の襲撃など全くなく馬車が通り易い地形の誘導もあって、すんなり湿地帯を抜ける事が出来た。

 護衛のリザードマン達はこちらの姿が見えなくなるまで見送ってくれ、その心遣いに感謝の念を抱く。

 配下ではないが非常に強力な味方が出来た。かなり運が巡ってきたのではないだろうかとの思いを胸に、馬車をルクセリオへ進ませる。さあ街はもうすぐだ。

 まだ見ぬ新たな街は俺に何をもたらすのだろうか。



――――――



 ルクセリオ、ちまたでは魔法都市とも呼ばれる程魔法が盛んで、近隣では最も魔術師が多く集まる街として知られている。

 店には魔術の品や触媒が多数並び、ギルドに所属する魔術師の数もそれなりに居る。

 そもそも魔術師の数自体少なく、大半は危険な冒険者より安定した宮仕みやづかえを選ぶため、あくまでそれなりだ。


 商業地区では市場が開かれ、小規模なテントによる個人売買が行われており、かなりの活気を感じさせる。

 いかにも掘り出し物がありそうで興味をくすぐられるが、まずは商家を巡り纏まった数の売買を行う。


 ギルドで売却した魔物の素材と、新鮮な果物などの売却費用は大所帯となったため、武器や食料に消えていった。

 そしてダルアの街でグランカーと交換した品の売却価格はこうなった。


 1、ガラス細工――――――――200銀➡495銀

 2、銀細工――――――――――500銀➡1210銀

 3、染料―――――――――――100銀➡160銀


 会計―――――――――――――800銀➡1865銀


 そもそもデッサの街で商品を仕入れたのが504銀。グランカーとの交換を経て1865銀となった訳だ。なんと三倍以上!! 1361銀の儲けである。高笑いが止まらない。

 1361銀、金貨にすると13枚ちょっと。……多いのか? 命を懸けた割にはそんなに……。

 いや、仲間も増え、物資も充実し商売も軌道に乗り始めてきたのだ。レッツポジティブシンキング、確実に上に向かっている、自分を信じるのだ。

 



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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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