ぬかるみ
水面に映る青い空。踏み入れられた足が波を作り、波紋となって円を描く。
映る空は歪み、幾多の波紋を重ね合わせながらその像を消す。
「押せ、押せ」
水たまりに嵌った車輪。男達は馬車を押すも、ぬかるんだ地面に足を取られ思う様に力が出ない。
クソッ、悪態をつきながら前方の湿地帯を眺める。
俺達はルクセリオの街に向かう事にしたのだ。
最初の内は順調だった、魔物も少なく道も平坦、背の低い草が生えているものの馬車での通過に何ら支障をきたさない。
だが雨が降って状況は一変した。
所々に大きな水たまりが出来、緑に茂る草の間を流れる水が小さな川となり、やがて足元は水に覆われ浮島の様に草が点在する湿地帯へと変貌を遂げた。
こうなるともはや街道と呼べる物は見当たらず、進みやすい場所を選んで進んでいくのだが、それも限界がすぐ訪れ旅の中断を余儀なくさせられる。
小高い丘を見つけてキャンプを行い、雨が止むのを待つ事となる。
丸一日降り続いた雨は止み二日目には青空が広がるも、地面は水で覆われ巨大な沼になっていた。
それから一日待っても水は一向に引かず、更に一日待ち徐々に水が引き始めた所で業を煮やし、出発と相成ったわけだが……。
車輪はすぐに窪みに嵌り、馬車を降りて押す事を強いられる。
少し進んでは嵌り、また進んでは嵌るを繰り返す。
遅々として進まない状況にトロルを召喚して馬車を押させる事が頭を過る。
ちなみに魔物に日雇い契約は出来ないようだ。そもそも日雇いという概念が無く、当然時計なども同様で曖昧な依頼を出すのが結局一番長く召喚できるようだ。
旅の障害になるのはぬかるみだけではない、とにかく蚊が多い。
姿形は地球のものと似通ってはいるものの、その大きさたるや全身に纏わりつかれて血を吸われたら、干乾びてしまうのではないかという大きさだ。
雨の時はいずこかに隠れているのか出て来ないが、雨が上がった途端大量発生。虫よけの薬を体にぬり、特殊な草で作った香を焚く事でなんとか軽減するのだが。
さらに厄介なのが、知らぬ内に足元より這い上がってくる蛭などの吸血生物。
そのグロテスクな造形に、触る事すら躊躇ってしまう。
特にブーツの中に侵入されるため、確認しづらく進行速度をさらに遅らせる要因となる。
そして最も厄介なのが……。
「来ました」
水面に浮かぶ無数の目、背中には瘤、巨大なカエルが水面を滑るように泳いでくる。ブルフロッグだ。
馬車の上から多数の矢が飛び、カエルを数匹串刺しにする。
矢を撃つのは俺、テンガ、ぺぺ、監視役の男ガザル、護衛の男モーリン、暗殺者ABCの八人。
御者の男は当然御者台にいる。召喚した彼らにそれぞれ役割を命ずるわけだが、マルセイに御者を命じると、それはそれは嬉しそうな顔をしていた。水に足をつけなくてよいからだ。
召喚された者はこちらの命令には絶対服従ではあるのだが、隙をついては楽しようと画策するマルセイ。
皆それぞれ個性があって面白い、暗殺者の三人以外は。
多数の矢でカエルを間引きはするものの、元々の数が多くすぐに接近戦となる。
前線で戦うのはこちらもカエル。倒す度にすぐ召喚して前線に送り込む。
手駒としてためこんでしまうとカードの枠を占領してしまい、カードに戻した時、召喚可能回数が残っていても即解放となってしまう。
一度解放されたカエルが優雅に泳いでいった後、大群を引き連れて帰ってきた時は強い殺意を抱いた。
真っ先に脳天を撃ち抜いてやろうかと思ったが、個体の識別など出来ようはずがなく、皆同じに見えたため断念した。もしかしたら、今も何食わぬ顔してこちらの仲間として前線で戦っているかもしれない。
所詮は爬虫類、解放されてもすぐにこちらの事など忘れるのだろう。
前方でカエル達が組んず解れつしている所にまた矢を射る。
壁となるカエルがいる今は楽ではあるのだが、最初は苦労した。自分より大きな相手であろうと平気で飲み込もうとするのだ。
勿論飲み込み切れるはずもなく、そのまま膠着状態になっている所を頭を突いて殺すのだが、もし頭から飲み込まれていた場合、視界もなくすぐに窒息してしまうため自力での脱出が困難となる。
そして最悪なのが背中の瘤。中には毒液が詰まっていて、皮膚に付着すると激しい痛みを伴い痺れなどの症状を引き起こすのだ。
他にも長い舌での絡め取りなどの攻撃もあるが、致命的な攻撃は持ち合わせておらず、確実に仕留めて召喚、徐々にその数を減らしていく。
前回もそうだったのだが、そろそろこの辺で……来た!
低い体勢で体を水に浸け、水草などの影に隠れ接近してくる多数の生き物。
体は鱗で覆われており足の指は前に三本後ろに一本、指の間には退化しつつある水掻きがある。
手には木の先端を尖らせた簡易な槍を持ち、巨大な尻尾でバランスをとる。
二足歩行のトカゲ、リザードマンだ。
集団でこちらに近づき、一定の距離を保ち威嚇する。
好戦的な種族ではあるのだが、すぐには襲ってこない。彼らの目的はブルフロッグだ。
リザードマンは知能が高く独自の言語を使用し、このように他人の獲物を横取りしようとするのだ。
こちらが手を出さずこの場を離れた場合、ブルフロッグを回収して集落へ引き揚げる。好戦的だが被害を考え最も利益のある行動を取ろうとする。
また生きている蛙も積極的に捕まえていく。どうも養殖しているのではないかという話まである。
そんなリザードマンの集団に歩み寄る一匹のトカゲ、我が配下のリザードマンだ。
前回出会った時、彼は逃げ出した蛙を捕まえようとして不幸な事故にあったのだ。そう、あくまで事故だ。逃げたのは私の配下の蛙だった事は関係ない。……恨まないでね。
交渉は纏まり、ブルフロッグを運ぶ事を条件に彼らの集落へ招待してくれると言う。
あまり気は進まないが、商人として販路拡大のチャンスを逃す訳にはいかない、集落とやらに行ってみよう。
カードの推移
暗殺者A 11 召喚中
暗殺者B 11 召喚中
暗殺者C 11 召喚中
護衛の男モーリン8 召喚中
御者の男マルセイ8 召喚中
監視役の男ガザル7 召喚中
トロル8 × 二
トロル7 × 二
チェシャ狼6 × 二
ハーピー6 × 二
ハーピー4
フォレストスパイダー4
ジャイアントスコーピオン4
ゴブリン3 × 二
ゴブリン1
リザードマンQ(12) 召喚中 ←NEW
ブルフロッグ11➡10 ←NEW
ブルフロッグ10➡9 ←NEW
ブルフロッグ10➡9 ←NEW
数の増減が非常にウザイ。
変なシステムを作った事、後悔しております。




