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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
37/50

親睦を深めよう

 牛は力強く馬車を引き、回る車輪は時折石を跳ね飛ばしながらも馬車を前へと推し進める。

 デッサへの移動は順調そのものだ。

 明日の昼には門をくぐる事が出来るだろう。

 適当な所で馬車を止め、野営の準備に取り掛かるとしよう。



 焚き火の炎は人の心を落ち着かせてくれる。

 おのずとお互いの距離も縮まり、会話も弾む。

 目の前ではぺぺとテンガが「キャハハ、ウフフ」と、はしゃいでいる。

 着替えを覗いたの覗いてないなど、実にくだらない話を繰り広げている。


 この疎外感はなんだろう。

 ゴブリンでも召喚するか……。

 いや駄目だ、負けちゃいけない。

 ここは強引に割って入るとしよう。


「昔、小学校の時にな、ああ小学校というのは六歳ごろから集団で生活して色んな事を学ぶ場所なんだが、給食費、いわゆる食費だな。が無くなったと騒ぎになってな。

 友達の一人が疑われたんだ。

 元々素行が良くなかったためか、あいつが盗ったに違いないとクラスで吊るし上げになってな。

 担任まであいつが盗ったに違いない、さっさと返しなさいって責め立てるんだ。

 でも俺だけは違う、コイツじゃない、絶対取ってないって言い張ったんだ。

 だが皆信じなかった。違うと言ったのは俺一人だった。本人さえも……。

 疑われた本人は何も言わなかった。ただ俯いて下唇を噛みしめて、俺にだけ聞こえる小さな声で言うんだ。俺じゃない、俺は盗ってないって。

 俺は確信してたよ、コイツは盗ってないって。だから絶対意見を変えなかった。皆に何を言われようと。

 彼は傷ついてたよ、クラスの皆また中立であるべき大人にまで無実の罪で責め立てられて……。

 結局この件は有耶無耶になっちまった。担任も彼を疑い続けてた。

 酷い話だよな、盗ったの俺なのに……。ハハハ」


「ほんとこの人何言ってるの?」

「さあ?」


 呆れる二人。あ、よく分からなかったか。つまりぺぺの着替えを覗いていたのは俺だったんだが……。



 ――――――――


 

 部下との溝が更に広がりはしたものの、無事にデッサの街に到着した。

 以前と変わらぬ街並みに、なにやら感慨深い思いを抱く。

『男子三日会わざれば刮目して見よ』と言い、日々鍛錬する者はたとえ短い間でも急成長するものという意味だ。

 成長すればおのずと住む町が小さく感じるという、街を取り囲む城壁は以前より……広く感じた。


 ふん東京と比べたら小学校のグランドみたいなもんだ、小さい小さい。

 自分が立てたわけでもない他人の功績で、自己の虚栄心を満たしていると「あら城壁拡張したのね」なんて声が聞こえてくる。

 そんなすぐ出来んのかよ、え? 土魔法で作るから早い?

 何だよビビらせやがって、余計なお喋りしてないでさっさとギルドに向かうぞ。


 妙に小物臭を漂わせながらギルドへ向かい、仕留めた魔物の買い取りをしてもらう。

 次にチョット高めのお宿、ババアが勝手に部屋に侵入したりしない高級宿だ。そこで、これまた高めの部屋を二つとる。

 そして部屋に積み荷を運んだ後、二人に日当と僅かばかりのボーナスを渡し解散とした。



 宿屋の客室にて、人気ひとけが無い事を確認してから、人間を召喚してみた。

 まずは護衛。革の鎧の上に外套を纏い、ふっと現れると辺りを確認した後こちらの顔をじっと見る。

 その瞳に敵意の色は映っていない。色々尋ねてみると素直に話してくれた。

 彼の名前はモーリンと言い、元兵士で儲けが見込まれるなら犯罪もいとわず行ってきたようだ。

 今回の話は御者の男が持ってきた儲け話で、商品を奪うだけでお金が貰え、その商品は好きにしていいという旨い話だったそうだ。

 余りに胡散臭い話だと思うが、積み荷の貴族の焼き印を見て不安に思ったらしい。

 正直遅すぎると思うが、金に目が眩んで犯罪に走る連中などこの程度であろう。


 次に御者の男を召喚。オドオドしながらもこちらの質問に答える。

 名前はマルセイ、こちらは根っからの小悪党。監視役の男から話を持ち掛けられ、適当に人数を集めて俺の馬車を盗んだ。

 話によると俺は貴族の邸宅に勤めていたが、大事な品を盗んで逃亡した犯罪者である。

 取り返せば大金が貰え、貴族の覚えがめでたくなるとの事。モーリン達は口封じに殺されるが、自らの出世のため喜んで売り渡すつもりであった。

 それ絶対アンタも殺されるやん。しかも俺にチョット噓ついてたし。

 わが身可愛さに簡単に喋るけど、貴族も怖いので少し噓をつく。正に小物。


 続いて監視役の男。名前はガザル。

 召喚するとひざまずき、こうべれる。

 組織に忠誠を誓った暗殺者みたいだ。事実、彼の口からはやはりと言うかサラセイルの名前が出る。

 彼の指示を聞き、オニアス家の裏側で暗躍あんやくしていたのだ。

 計画の全体像までは知らされていないが、次に行動すべき指針となる情報は得る事が出来た。



 夜になり宿屋で食事を取っていると、飯を不味くする不快な雑音が響く。


「ようエム、ここにいたか。こんな高級宿でメシを食うとは儲けてんだな」


 オニールだ、例の二人も一緒だ。

 色々と思う所はあるが席をうながし、食事を奢る。

 ルクセリオでの仕事を終え、昨日帰って来たらしいが……。


「やっぱりタダメシは旨えな」


 何だろう、スゲー腹立つんだが。

 ルクセリオの情報を入手しつつ猥談していると、オニールがちょっとトイレと言って席を立つ。

 股間を手で押さえ「もれちゃう、もれちゃう」と言いながら走っていく。

 お前は小学生か。

 頭はパーだけど腕は立つんだよな。コイツから戦いを取ったら大腸菌ぐらいしか残らねえんじゃないか?

 

 皆との会話は盛り上がり、すっかり忘れてた頃にオニールが戻ってきた。

 長えーな、ウンコか。ちゃんと手洗ったか?



 さてとこれからどうするかな。サラセイルに会うのは確定として、商品はここで売りさばくかルクセリオまで行くか。

 貴族は面倒だよな、出来れば関わりたくなかったんだが仕方あるまい。毒を食らわば皿までってね。

 

 部屋まで帰り、召喚していた三人に変わった事は無かったか尋ねる。彼らには荷物の番をしてもらっていたのだ。

 ドアの前に立っていた護衛の男モーリンは冒険者風の男が部屋の前を通過したと言い、部屋にいた御者のマルセイは、え? それがどうしたの? みたいな顔をしている。うん、君には聞かない。

 監視役の男ガザルは何やら俺に耳打ちしてくる、吐息が当たってコチョバイんだが……。


 召喚した彼らには今回、日雇いという形で依頼してみた。

 最初は一か月と言ったら、全員下唇したくちびるを突き出し渋い顔をする。駄目なんだね、分かったよ。

 次に一週間、五日と徐々に減らしていき、下唇が引っ込んだのが日雇い契約だった。

 カードの力で人を雇うのは難しい、依頼が終わるとカードに戻るというのが継続性を損なっている。

 所詮仮初かりそめの力、頼りすぎると足をすくわれそうだ。

 

主人公の屑エピソードでした。

最後を除き実話でございます。

給食費は本人の勘違いでカバンの中にあったそうです。母親経由で聞きました。

担任は謝罪どころか、見つかった事すら発表しませんでした。




カードの推移


 護衛の男モーリン10➡9

 御者の男マルセイ10➡9

 監視役の男ガザル10➡9


 トロル8 × 二

 トロル7 × 二

 チェシャ狼6 × 二

 ハーピー6 × 二

 ハーピー4

 フォレストスパイダー4

 ジャイアントスコーピオン4

 ゴブリン3 × 二

 ゴブリン1

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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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