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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
36/50

馬車

 吹きすさむ風が大地を走り、照りつける太陽が足元を焼く。

 大地を貫く一本の道、それは東西に長く続き目に映るのは乾いた土に残る轍の跡のみ。


 そう、あるのは車輪の跡だけ。そこにあるべきはずの馬車が無い。

 大事な俺の馬車が無い。

 これは……うん、盗られたな。


 いや待て、確かゴブリンを見張りに残していたはずだ。ちょっと茶目っ気を出して何処かに隠れているに違いない。

 分かってる。ゴブリンがそんな事するはずないの、これは現実逃避だ。脳が現実を受け入れる事を拒んでいるのだ。

 落ち着け、まだ大丈夫だ。取り返せる。轍の跡を追えばいいのだ。

 行き先はダルアの方角に間違いない。とっ捕まえて魔物の餌にしてくれるわ。


「狼、召喚」


 ついでに非常用の水と食料を詰めた背嚢を二つカードから取り出し、ぺぺとテンガに渡す。

 

「ゆっくり追ってくるんだ。俺は一足先に向かう」


 そう言うと狼の毛を掴んで、背中にもそもそと登る。

 走れ! の合図で颯爽と駆けるチェシャ狼。テンガ達をぐんぐん引き離し街道を進む。


 一キロほど進んだ所で地面に何か落ちてるのを発見。

 あれは……ゴブリンだ。我が配下のゴブリン君だ。カードには戻らない、死んでいるのだ。

 おのれ、絶対に許さん。

 憎悪の炎を燃料に街道をひた走る。というか振り落とされないようにお毛々けけにしがみ付く。

 

 やがて前方に一台の馬車。俺の馬車に間違いない。

 馬車は一台のみ、相手は徒歩だったか。複数の馬車で荷台を積み替えられてなくて良かった。

 こちらが接近すると荷台から矢が放たれる。


 ひらりと躱し馬車と並走、御者の姿をこの目に捉える。

 フードを被り顔は見えぬが、手綱を握るその手は太い。恐らく男であろう。

 放たれた矢は数本、揺れる馬車にも関わらず正確な射撃。手練れなのかこれがこの世界の標準なのか。

 敵の数は四以上七未満といった所か、荷台から蟻んこみたいにぞろぞろと出てくる事はなかろう。 ……ないよな?


 カードをパラッと落とし馬車を追い抜かすと魔物を召喚。

 馬車の行く手を遮る様にトロル二匹、狼二頭、忘れがちなジャイアントスコーピオンが立ち塞がる。

 馬車は慌てて停止し、方向転換を試みるも後方からさらにトロル二匹が現れ、挟まれる。

 続いてゴブリン三匹、存在を今思い出したハーピー三匹を召喚し、こちらを監視する者がいないか探させる。

 動かぬ馬車、その馬車から三人の男が下りてきて、流れるような動きで馬車を背に展開、クロスボウを構えた所で……固まる。


「ゴアアァー」


 響き渡るトロルの絶叫。次々と咆哮ほうこうがあがる。

 馬車を取り囲む魔物の群れは、じりじりと包囲を狭めており、取り囲まれた者達の顔面は蒼白で、構えるクロスボウは激しく上下に揺れている。


「コ、コ、コイツら何処か……」


「ドゴッ」と大きな音。振るわれた巨大な棍棒が口を開いた者を地面に押し潰したのだ。

 飛び散った血痕は、横に居た男の体を赤く染める。

 男はペタンと腰を落とし、四つん這いになると這って逃げようとする。


「ドゴッ」


 這いずる男の頭上から非情にも破壊の一撃が振るわれ、その命を刈り取る。


 もう一人の男は動かない。体は小刻みに揺れその表情は哀れなほど怯えの色が見て取れる。

 恐怖で体が動かないのであろう、極度の恐怖が男の体の自由を奪ったのだ。


 さらに振り上げられる棍棒。ここで我に返る。


「ストーップ」


 待て待て待て、全員殺す気か。殺すのは情報を吐かせてからだ。


「おいお前、死にたくなかったら質問に答えろ」


 すごい勢いで首を縦に振る。まあ、あんなもんで殴られたくはなかろう。

 色々質問しようとして、ふと考える。人間もやっぱりカードになるのかな?


「ファイヤーボール」


 炎の玉が胸に突き刺さる。

 心臓を貫かれた男は驚いた顔をしたまま燃え上がり、静かにカードとなった。


 人の物盗むのは良くないよね。自分の意志で差しだしてもらわないと。

 さて、後は御者台に座って微動だにしていない男だね。

 そこの君、ちょっとこっちへいらっしゃい。


 御者の男に呼びかけるも動かない。

 ん、どうしたの? 手綱から手が離れないの? 大丈夫、うちには力持ちがいるから。

 すぐに外れるよ。


 ねえ何で俺の馬車盗んだの? 怒らないから、ね、教えて。

 トロルに体を掴まれ、チェシャ狼に足元をクンクンと匂いを嗅がれている男は「知らない男に頼まれた、何処の誰だか知らない。本当だ」と繰り返す。

 んー、どうなんだろう。どの道カードにしてしまえば情報を簡単に手にいれられるんだよね。

 手駒として使ってもいいんだけど、解放された時困るんだよね。散々こき使っといて殺すというのは流石にねえ。


 考える俺の元へ、バーピーのかぎ爪に掴まれた血だらけの男が運ばれてくる。

 監視者か、やはりいたか。

 なかなかの手練れだったのか、ハーピー、ゴブリンに血を流す者がいる。

 上手く連携して追い詰めたようだ。ほんと君達賢いね。


 さてこの二人は面識あるのかな? 

「助けて、助けて」と、うわ言のように呟く男は知らないと言う。

 今捕まえた男は無言を貫いている。手駒にするならこちらだよね、何か知ってそうだし。


 無言の男にファイヤーボールを飛ばすと、「魔女め」と小さく発する声と共にカードになっていった。

 魔女? 俺、男なんですけど……何やら秘密の匂いがしますな。

 さて、ここから手繰り寄せる糸は何処に繋がっているやら。


 残る男もカードになって貰い、死体を綺麗に片付けた後、積み荷をゴブリンに確認させる。

 ほら、誰か潜んでたら嫌じゃん。樽を開けたら刃物が突き刺さったなんて御免ですよ。

 しかし、俺が死んだらカードの中の物ってどうなるんだろうな。解放されるのか、永遠に消え去るのか。

 試す訳にはいかないけどね。答えは死んでも分からないんだろうね。

 

 積み荷の数を数え、紛失がない事を確認。そして封蝋ふうろうが破られてないかをくまなく見ていると、テンガとぺぺが追い付いて来た。

 二人に積み荷が無事だった事を伝えると、安堵の色を顔に浮かべ盗人について尋ねてくる。

 肩を竦め「残らずあいつらの腹の中だよ」とおどけて言うと、青い顔をして黙りこくってしまった。

 

 見知らぬ他人より飼い犬の方が可愛いって言うじゃない。ましてや盗人ぬすっとなうえ、こちらを殺そうとしたし。


 まあ難しい事を考えるのはやめにして、とにかくこの世界を楽しもう。

 まずは荷物を届け、盗みを指示した者を調べるとしますかね。

カードの推移

 ゴブリン4➡3

 ゴブリン4➡3

 ゴブリン2➡1

 ゴブリン2➡死亡

 ハーピー7➡6

 ハーピー7➡6

 ハーピー5➡4

 チェシャ狼7➡6

 チェシャ狼7➡6

 フォレストスパイダー  4

 ジャイアントスコーピオン5➡4

 トロル9➡8

 トロル9➡8

 トロル8➡7

 トロル8➡7

 

 護衛の男10

 御者の男10

 監視役の男10

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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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