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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
34/50

スコッパー

 土に金属の湾曲した板が突き刺さり、それに連なる木の柄を軸にして土が持ち上げられる。

 金属の板に乗った土は外に放り出され、土の山を作る。そしてまた土に金属が突き刺さる。

 規則的な運動が夜通し続く。穴を掘っているのだ。


 掘る、掘る、掘る。スコップによって土は掻き出され、大きな穴を作る。

 防空壕を掘る兵士の様に一心不乱に手を動かす。


 見張りを残し、皆で作る幾つかの罠。

 まずは落とし穴。トロルの巨体を沈めるため大きな穴がいる。

 とは言っても全身を沈める必要もなければ時間もない。足さえはまれば良いのだ。

 少し深めに掘り、中に先端を尖らせた杭を設置する。無論痺れ薬を塗布しておく。

 落とし穴は多めに掘っておき、自ら嵌らないよう目印も忘れない。


 力仕事にはオークが役に立った。トロルとの決戦が済めば彼は解放される。出来れば生きて笑顔でお別れしたいものだ。


 次に森の中に蜘蛛の糸で足を引っかける為の罠を設置する。胸ほどの高さで、こちらは見やすく敵は見えにくい位置……のはず。

 他にもいくつか細工をし完了とする。不十分だが暗い中での作業、皆頑張ったと思う。

 

 僅かな仮眠と休憩、早めの朝食を皆でとり、日の出前の奇襲に備える。

 ちなみに召喚モンスターも食事を取った。召喚中は腹が減るようだ。


 馬車は何時でも逃げられるよう少し離れた位置で反対向きに街道脇に寄せ、ゴブリン一匹を待機させておいた。




 太陽が顔を覗き始める前、薄明りの中トロルへの奇襲に出撃する。


 トロルの集団にじわじわ近づいていく。彼らは地面に横になって寝ているようだ。焚き火も既に消えている。

 残り三十メートルで立ち止まる。これ以上は危険だ、逃げられなくなってしまう。



 上空をハーピーが旋回する。そのかぎ爪には瓶が握られている。中身は油。それが上空より投下されるのを合図とし、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

「放て!!」


 ゴブリン達から放たれたクロスボウの矢は真っ直ぐに飛び、寝ていたトロルに突き刺さる。

 それと同時に指先から放たれたファイヤーボールは一番近くにいた個体の肩に命中した。


 「ギャゴッ」と呻き声を上げるトロル達の真ん中に落下してきた瓶が地面に当たり粉砕、辺りに油をまき散らす。

 すぐさまぺぺより放たれた火矢が弓なりに飛んでいき、地面に突き刺さる。

 油の撒かれた中央に射られるも、油には引火せず矢に括り付けた布が燃えているのみである。

 

 トロル達は状況が把握出来ないのだろう、辺りをキョロキョロ見回す。そこへ第二射が放たれる。


「次弾放て!!」


 矢が装填されたクロスボウに持ち替え、さらに撃つ。命中。

 胸に矢を受けたトロルは、ここでやっと敵の存在を認識、雄たけびを上げる。


「ゴアアアー」


 空気が震える。三十メートル離れているにもかかわらず、空気の振動が腹を揺さぶる。

 七匹、計十四の瞳がこちらを見据えてさらに雄たけびを上げる。


 めっちゃ怒ってますやん。さっさとずらかろう。


「てっ撤収ぅ~」


 思いとは裏腹に擦れる声、力の入らない足。ヨタヨタとよろめく。


 突如トロルの集団の中心から火が燃え上がり、一気に広がっていく。

 やっと油に引火したか。

 手ではたいて火を消すもの、ゴロゴロと転がり消そうとするもの、素早く距離をとり延焼を免れた者などがいる中、体に付いた火を物ともせず駆け寄ってくる個体が二つ。


 1つはクロスボウの矢が胸に数本刺さるも、裏手でパンとはたくと簡単に地面に落とす。

 全然深く刺さって無い。かすり傷よりちょっと深いぐらい。

 もう一つは左肩をファイヤーボールで大きくえぐられ、千切れそうな左腕を燃やしながら憤怒の表情を見せる。


 二匹は明らかな殺意のこもった目で走り寄る。


「ヒィ~」と情けない声をあげ、覚束ない足取りで逃げ出す。

 ゴブリンは言わずもがな、ぺぺも既に逃げ出しており十メートルは先を走る。

 作戦とは言うものの、本能に従い蜘蛛の子散らす様に逃げ惑う我が軍団。



「狼、召喚」


 すぐさまふさふさの毛にしがみつく。振り返ると棍棒を振り上げたトロルの姿が……。


 走り出す狼、一瞬の差で振り下ろされる棍棒。

「ズシン」と大きな音を立て、大地が揺れる。

 間一髪、ギリギリで躱し、そのまま引きずられながら西へと逃げ出す。

 かっこよく背中にまたがりたかったのだが願い叶わず、トップスピードに乗った狼に足すらも浮かせて必死で掴まる俺。


 ゴブリンは既に散らばり森へ身を隠す。

 全力で走るぺぺを抜かし、一足早く所定の位置へ到着。

 雄たけびを上げるトロルの哀れな獲物となったのは今度はぺぺ。

 頑張れ、もう少しでクロスファイヤーポイントだ。


 目の前でミンチにされるのは嫌なので、迫りくるトロルの顔面にファイヤーボールをお見舞いする。

 脅威の反射神経で撃ち落とすべく棍棒を振るうトロル。

 両者はぶつかり合って対消滅する。

 あれを防ぐか。恐ろしい。まともに戦っても勝ち目がない。

 棍棒を無くし、素手で襲いかかるトロル。


「飛べ!!」


 俺の叫びと同時に横に飛んだぺぺ。掴もうとしたトロルの手が空を切る。

 そのまま数歩進んだトロルは落とし穴に足を取られて転倒、続くもう一匹も別の穴に嵌り転倒。

 凄まじい音を立てて倒れ込む。

 

「今だ、集中砲火クロスファイヤー!」


 とはいえ皆クロスボウを捨てて逃げたため、撃つのは俺のファイヤーボールのみ。

 至近距離で顔目がけて放たれた炎の玉はトロルの頭を吹き飛ばし、残骸を燃やすとカードの出現と共に消え去る。 


 まずは一匹。だが息をつく暇などない。すぐ隣で落とし穴から足を引き抜こうとして、苦痛の声を上げるトロルの姿がある。

 設置した杭が足に刺さっているのだろう、痛みと怒りが入り混じった顔をこちらに向ける。


 ガラガラガラと背後より車輪が回る音、破城槌はじょうついだ。

 車輪付き荷台に先端の尖った丸太を括り付けた、城門を破る時に用いる簡易の破城槌を模した物が後方より勢いを付けて、もがくトロルの腹部に突き刺さる。

 押すのはオークとテンガの二人。巨大な質量を持った鋭利な杭はトロルの硬い皮膚を突き破り背中まで貫通した。

 

「ギガザァマラウァ、ゴボッ」


 ゴボゴボと口から血を吐き、何かを訴えながら体に刺さった杭を引き抜こうとしている。

 怖っ! さっさとトドメを刺そう。「ファイ……」


 ドガッと何かが地面に当たる音がする。向こうを見ると複数の何かの点が見える。

 それは山なりの軌道を描いて、こちらに近づくにつれ巨大になる。石だ、巨大な石。


 そのバレーボール大の石が地面に当たり、大きく土を削る。

 ドガ、ドガ、ドガと降り注ぐトロルの投石攻撃。その一つが目前のトロルの頭部に当たり、一部を削りながら首をあらぬ方向へと押し曲げる。


 あいつら味方ごと……。


「逃げろ! 森だ、森に逃げ込むんだ」


 わらわらと散開しつつ森へ逃げる。隣を走るのはオーク、彼も必死だ。

 無事森に駆け込み木の影に隠れようとした瞬間、巨大な木の棒が目前を通過しオークの体を掬い上げる。

「ドン」という大きな音と共に舞い上がったオークの巨躯は十メートル程飛んで再び森の外へと投げ出された。

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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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