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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第二章 行商編
33/50

不安な夜

 カラカラと回る車輪が地面に溝を作る。荒地を走る一台の馬車。

 その馬車に乗り、だだ目的地へと進んでいく。

 後方にあるべき街の姿は遥か遠く、とうの昔に地平線の彼方かなたへと過ぎ去った。


 頭上にあった太陽は次第にその身を沈ませ、大地を赤く染める。

 やがて辺りは闇に包まれ、静寂が支配する夜の世界へと移り変わっていく。



 地面に腰を落とし、炎を見詰める。暗闇に灯るささやかな火は、見る者に僅かばかりの安らぎを与える。

 焚き火に薪をくべる。少し弱まった火は徐々に勢いを増し、周囲を照らし出す。

 パチッとぜる薪の音がやけに大きく聞こえる。

 さらに薪をくべる。炎の揺らめきは周囲の景色を揺れ動かす。

 

「静かだ……」

「ギャッ」


 返事をしたのはゴブリン。

 交代で火の番をしていたが、あまりに暇でつい召喚してしまったのだ。

 焚き火に照らされて揺れ動くその顔は、実に気持ち悪い。


 おや? 遠くの方で松明の明かりが見える。

 揺れ動く炎は徐々にその数を増やしていく。そして列をなし街道を進んでいく。

 こちらに向かう進路をとっているようだ。集団で夜通し歩いているのだろうか。


 隣で警戒を露わにするゴブリンに胸騒ぎを覚え、仮眠をとっている二人を起こした。


「何でしょう? トロル討伐に軍を出したのでしょうか」

「にしては不自然ね。こんな夜中に歩くかしら? 歩く方角だって反対だし。討伐に成功して帰る途中かもしれないけど」


 こちらの積み荷を狙った襲撃の可能性もある。素早く焚き火を消し、街道を少し離れた岩の影で息を潜める。


 

 遠くに見えた炎はやがて、その姿を捉える事の出来る距離まで近づく。

 これは……思わず息を飲む。


 ローブを身に纏った人達。その頭部は燃え、周囲を照らす。

 ゆらゆらと燃える炎は人の顔を映し出しており、虚ろな目をした者、苦悶に顔を歪める者、悲しみの表情を浮かべる者がおり、「うぅー、おおぇ」など呻き声を出しながら目前を通過する。


 数は三十程だろうか、息をひそめたこちらに気付く事なく進んでいくのだが、足音など呻き声以外の音は発せず、ただダルアの街の方角に向けて進んでいるようだ。

 さながら幽鬼、亡霊といったたぐいのものであろうか、時折顔を左右に動かし何かを探している様な仕草を見せる。

 

 これ見つかったら仲間にされちゃうパターンですよね。

 おっちょこちょい担当がクシャミなんかしてバレると一斉にこちらを見るとか……。

 この中で一番当てはまるのは……俺か。


 絶対に音を立てないよう注意していると、謎のオナラを出したい症状に見舞われる。

 すかしっ屁なら大丈夫か? いやいや駄目だなどという心の葛藤かっとうをしている内に、彼らは去っていった。


「鬼火ね」


 えらく和風な名前が出た来たが、確かに人の魂が形を成したものとしてはピッタリ当てはまる名前であろう。

 いずれにしてもこの先で何らかの良くない出来事があったのだろうと想像出来る。



 早朝になり朝食を終えた後、寝不足気味で重い目蓋をこすりながら街道を進んでいく。

 すれ違う人や馬車など一つもないばかりではなく、魔物にも出くわさない。

 元々月に一度の大規模な隊商以外では街道を通る者も少なく、馬車とすれ違う事など稀ではあるが、魔物とすら出会わないのは、楽というより不安でしかない。


 こちらの不安をよそに順調な旅路は続き、日も暮れて野営場所の確保をするに至ったのだった。




 ん? またまた遠くで炎の明かりが見える。

 今度は複数の明かりではなく、一つの明かり。焚き火だろうか、何者かが野営をしているのだろう。

 こちらはまだ火をおこしてはいないため、気付かれていないだろう。隊商ならいいのだが、安全のため調査する必要がある。


 ぺぺを残し、俺とテンガでコソコソと近づき確認する。


 一つの焚き火を囲い、裸の男達が夕食をとっている。棒に突き刺した肉に齧り付く。鍋などの調理器具は使用せず、豪快に噛みつき咀嚼する。

 ふと棒に突き刺された肉の形が気になった。

 あれは腕? 人の腕か? こいつら人を食ってるのか。

 しかも小さい、子供の腕か?

 いや違う、こいつ等が大きいんだ。大きすぎる体の為、持っている腕が小さく見えたんだ。


 胃の酸っぱい物が込み上げる。

 こいつ等がトロルか。火を使うとは驚きだ。数は七。

 不味いな。こちらの全兵力を終結しても勝つのは厳しかろう。奇襲で一匹倒せばいけるか?

 いや、ここに居るのが全てとは限らない。戦闘中に背後を突かれたら最悪だ、焼肉の仲間入りであろう。


 避けて通るか? しかし馬車で森を通る事は出来ない。迂回しようにも、丁度左右の森が押し迫っていて馬車が通れる道が狭くなっている場所に陣取っている。

 明らかに道を封鎖しようという意思の表れではなかろうか。裸とはいえ、なかなか高い知能を有するようだ。


 ここは一旦引いて罠でも仕掛けるがよろしかろう。

 まずは一匹、必ず仕留めるのだ。駄目なら全力で逃走するしかあるまい。


 夜の内に罠を設置すべく、馬車まで引き返す事にした。今夜は眠れそうにない。


魔物のカードの推移

 ゴブリン4➡ゴブリン3


 ハーピー8―――――――――― 二枚

 チェシャ狼8――――――――― 二枚

 ハーピー6―――――――――― 一枚

 ジャイアントスコーピオン6―― 一枚

 ゴブリン5―――――――――― 二枚

 フォレストスパイダー―5――― 一枚

 ゴブリン4―――――――――― 一枚

 ゴブリン3―――――――――― 二枚

 オーク 1―――――――――― 一枚

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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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