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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第一章 冒険者編
3/50

遭遇

 微睡の中、キー、キーと猿が威嚇するような声が聞こえる。

 風でゆれた何かが顔に当たる。草の臭いがする。顔がやけに熱い、日光に照らされているようだ。

 やがて目を開けた男の呼吸が一瞬止まる。


 「ここは何処だ?」


 キョロキョロと辺りを見渡すと前方には果てしない草原が広がり、後ろには鬱蒼と茂った森が見える。

 たしか…バスに乗っていたはず。頭が混乱するが、大きく深呼吸をすると声に出して状況を確認する。

 名前、住所、生年月日を言う。…大丈夫だ言える。夢や頭がおかしくなったわけではなさそうだ。

 次に手をつねる。痛い、痛覚は問題ない。手首の脈を測る。スゲー速い。動揺しまくりだ。

 ジャンプする。体に支障はなさそうだ。次は耳、動物の鳴き声が聞こえる。ゲオッ、ゲオッと聞こえる。


 段々吠え方が変わっているような…。


 背筋が凍る。森の方から聞こえるその声は、近づいている気がする。ヤバい。

 素早く辺りを見回すと、ペットボトル、座席の下に置いてあった鞄を見つけ、拾うと森から距離を取り始めた。

 振り返って、鳴き声の主の姿が見えない事を確認すると安堵の息をつくのだった。


 「クソッ、どうすんだよ。」


 草原をトボトボではなくコソコソと歩く。遠くの方にバッファローのような群れが見えたのだ。

 対象物が無いため大きさは解らないが、かなり大きな気がする。

 上空には鳥が飛んでいる。なんとなくだが、これも大きそうだ。



 3時間は歩いただろうか、やがて草も背丈が低くなり歩きやすくなった反面、身を隠しにくくなった事に不安を感じつつもペットボトルの水を少しずつ飲みながら歩く。

 水は既に半分を切った。徐々にだが死を意識し始める。混乱からの興奮が覚めるとともに自らの危険な状態に気づいてしまう。

 持ち直す為にも一旦休憩しようと思い、右前方に身を隠せそうな大きな岩を見つけると、そちらに進路をとる。


 岩まで辿り着くと、周囲を見渡した後、岩を背にして草むらに身を隠すようにしつつ腰を下ろす。

 バックの中から、お土産用のクッキーを取り出し、水と共に胃に収める。


 「とりあえず、持ち物を確認するか。」


 バッグに中にはパスポート、ティッシュ、古美術商で買ったアルコールランプ、鳥の絵が描かれた金色のコイン数枚、ブレスレット、クッキー、チョコレートだけだった。

 一緒に入れていたトランプが無い事に気づいたがどうでもよかった。

 着替えなどの生活用品が入ったスーツケースはバスと共に消え去った。いや、たぶん消えたのは俺の方だろうななんて考えつつ、ポケットをまさぐる。

 スマホ、ライター、ハンカチ、財布、……そしてトランプ4枚。

 なんで4枚だけ、それも全部1(A)のカード。しかも絵が描かれておらず、数字とマークが左上と右下に小さく書かれているだけだ。

 いらねぇと呟き、食べたクッキーの包み紙と一緒にポイ捨てする。

 少しでも荷物を軽くしようと食べ物以外は捨てようとして思いとどまる。

 人がいたとして金が使えるのか?物々交換になる可能性を考えて捨てるのをやめる。

 ブレスレットを腕にはめ、スマホ、ライター、ハンカチ、財布、コインを服のポケットに分散して入れる。コインは無駄に重く、服は斜めになったが、バッグを持ってまた歩きだした。



 30分ほど歩くと地面に石を見かける様になり、やがて小川を発見し、警戒しながら近づく。

 ペットボトルの残りの水を飲むと、小川の水を詰める。生水は危険だと知りながらも鞄の外に括り付け、紫外線による殺菌効果に期待しつつ下流へと向かう。


 ふと遠くの方にうずくまる黒い影がみえた、立ち止まり目を凝らす。

 動いてる様子はない。慎重に近づく。熊?いや人間じゃないか?歩く速度が自然と速くなり、気が付くと走り出していた。

 距離が近づくとやがて異変を感じる、嫌な予感がする…、ああやっぱり。座ったまま息をしない死体がそこにあった。

 ブーツを履き、皮鎧の上から外套 を着た男だった。

 片腕はちぎれ、足は普段向く事の無い方を向き、顔には噛み千切られたような跡があり、地面と体を赤黒く染めている。

 到底生きているとは思わなかったが、首の脈に触れ、拍動が無い事を確認すると、懐をまさぐる。

 追いはぎの様だったが何とも思わなかった。そうしなければいけないと強く思った。

 布の巾着袋を見つけると中を確認する。

 茶色のコイン25枚、銀色のコイン12枚、金色のコイン1枚…「あっ」


 …鳥肌が立った、金色のコインだ。鳥が描かれたコイン、古美術商で買ったコインと同じものだった。

 しばらく立ち尽くしていたが、ハッと我に返り、周りを見回す。

 男の持ち物だったと思われる背負い袋を発見する。

 さっと中身を見ると、水筒らしき皮袋と食料があるのがわかると、素早く背負い、外套を剥ぎ取り、男の腰のベルトに挟んであった15センチほどのナイフを抜き取ると、すぐにその場を後にした。


 歩きながら考える。

 何かに襲われたのは間違いない。死体を食べられてないから、肉食動物でもないだろう。

 皮鎧を着ているが武器がない。元々持ってないとは考え難く、何らかの理由でなくしたのであろう。

 あとは3種類のコインだ。懐に入れていた事を考えると、貨幣である可能性が高い。

 古美術商で買ったコインと同じであるならば、あの老婆がこの男、もしくはこの場所と何らかの関わりがあり、俺に起こった出来事について知っているかもしれない。

 そして一方通行ではなく、方法は解らないが、帰る手段も存在するってことだ。

 男の持ち物を考える。キャンプ道具は無かった。恐らく、町が近くにあるだろう。



 思考により注意力が分散したためか、足元に点々と続く血痕に気付く事無く川沿いを歩き、緑色の人影に気付いた時にはかなり接近していた。

 背中は曲がり、手は人より長く足は短い、チンパンジーに似た体形の生物の後ろ姿だ。

 河童?

 こちらに気付いたのだろう、ゆっくりと振り向く。

 皺があり老人の様な顔、だが吊り上がった目、頭に生える短い角、飛び出した4本の牙、そして特徴的な上に押し上げたような醜い鼻。


 鼻フックをしたような顔の怪物、ゴブリンか。


 その目には明らかに敵意の光が宿っている。

 飛びかかろうとしたのだろうか、僅かに腰と脚にタメを作った瞬間、ゴバッと血を吐いてうずくまる。


 「怪我をしている…それも深い。」


 腕や腹そして胸からも出血しているようだった。

 ゴブリンは視線を彷徨わせた後、一点を見詰める。……剣だ。剣が数メートル先に落ちている。


 俺とゴブリンは同時に剣に向かって走り出す。

 全力で走る。横目で見ると、ゴブリンはよたつきながらも、手足を使い跳ねるように走る。

 速い。間に合うか?


 手を伸ばす…取った!こちらの方が剣に近かったため僅かに早かった。

 その瞬間背中に衝撃が走る。ゴブリンの体当たりだ。


 もみ合う二人。噛みつこうとするゴブリン、剣を盾にして必死で凌ぐ俺。

 そのまま剣をゴブリンの顔に押し当て斬ろうとするも、刃を掴み抵抗される。

 今度は剣の奪い合いになる。

 すごい力だ。…たしかチンパンジーの握力は300kgぐらいあるんだっけ?なんて事を考えていると、あっさりと剣を奪われる。

 ゴブリンは剣を振りかぶる。だが体重が軽いのだろう、少し体が泳ぐ。

 素早く腰に挿したナイフを抜き、ゴブリンの心臓に突き刺す。

 驚いた表情のゴブリンは剣を落とすと地面に倒れ起き上がらなくなった。





















背負い袋、リュックの事ですね。こういう古い表現が好きです。

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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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