総力戦―後篇
牛に回復魔法をかける俺をテンガとオークが守り、森に身を隠したゴブリン達は連携して襲いかかってくる狼達に奇襲をかけるべく息を潜める。
スルスルと木の上に登ったフォレストスパイダーは、周囲の木や枝に糸を張り巡らせ、拠点を強化していく。
ジャイアントスコーピオンは壁として狼達の注意を引き付ける囮となり、ぺぺはそれを弓で援護する役だ。
ハーピーを上空へ飛ばし群れの中に紛れさせ、トロイの木馬とする。
すぐに狼が馬車に殺到するが、待ち構えていたジャイアントスコーピオンに驚き後方に飛びすさる。
さぐさまぺぺが矢を射るも躱される。
狼達は半円にジャイアントスコーピオンを取り囲み牽制しつつ、数頭はこちらの背後に回り込もうとする。
一頭が間合いを詰め注意を引き付ける隙に反対側から一頭が接近、スコーピオンが尾を振り回すと後方に飛ぶ。こうやって連携しつつ半円を少しづつ狭めてくる。
嫌らしい戦い方だ。隙を見せると一気に食らいついてくるだろう、だが……。
「ギャン」
後方からのゴブリンの奇襲だ。一頭の狼に的を絞り四匹が連携して切りかかったのだ。
まずは足を切り付け動きをとめ、胴体、首、眉間とほぼ同時に攻撃する。狼は為す術なく倒れた。
突如出現したゴブリンを取り囲まんと別の半円を描く狼達。そこへスコーピオンの横の円運動から繰り出される尾の一撃が加わり、二匹が吹き飛ばされる。
いいぞ、狼はあと何匹だ、七……八……九……
「バン」とすぐ傍で大きな音がする。見ると狼二頭とオークがもみ合っている。
背後より忍び寄ってきた狼が俺を襲おうとしたのであろう。それをオークが盾で叩き落としたのだ。
危なかった。背後に回るのは見えていたのに、前方に意識を取られてしまっていた。
後方にいる狼は二頭。一頭はオークともみ合うも、横からのテンガの槍の一撃で喉を貫かれ、戦闘不能だ。
残すは一頭。こちらは大丈夫だろう。回復魔法を中断して前方のスコーピオン達を援護するべきだ。
「ファイヤーボ……」
「キュエー」
この声は? 頭上からハーピーが襲ってきたのだ。その数四。慌ててターゲットをハーピーに変更するも間に合わず、巨大な爪で頭を鷲掴みにされる。
「いたたた、頭取れちゃう」
上空へ飛び立たんと羽ばたくハーピー。そのまま大空へ舞い上がるかに思えたが、俺の足が地面から数センチ浮いた所でドスンと下に落とされる。だが爪は頭にめり込んだままだ。
木の影から竹筒を口に咥えたゴブリンが見えた。吹き矢による痺れ薬か、助かった。
体の自由を失ったハーピーは俺の頭を鷲掴みにしたまま地面に落ちていく。
「もげる、もげる」
ハーピーと一緒に地面に這いつくばる。この野郎。
ファイヤーボールをお見舞いする。動かないので百発百中だ。ハーピーはカードとなった。
他のハーピーは? 慌てて回りを見回すと、オークの斧の一撃で一匹、フォレストスパイダーの糸に引き寄せられ丸かじりで一匹、残りの一匹は狼の大きな口に咥えられ、だらりと舌を垂らしていた。
どうやら狼達は獲物をハーピーに変更したようだ。潮が引いた様に引きあげていく。
「逃がすな、撃て」
逃げる背中に、飛び道具で総攻撃を加える。吹き矢、弓、クロスボウで穴だらけにされ一頭、ファイヤーボールでさらに一頭仕留める事が出来たが、残りの数頭は逃げて行った。
一息ついた後辺りを確認すると、蜘蛛の糸に絡め取られて身動きが取れないハーピーと狼を一匹ずつ発見。トドメを刺してカードにする。
死体の残った魔物達は解体、使える部分を馬車に積み込み残りは放置し、この場を離れる事にした。
召喚し送り出したハーピーは、落とした肉に群がった者達を上手く扇動して巣に帰らせたようだ。
上手く分断してくれた。一度に攻められたら危なかった。
人の頭を持つだけあって知恵が回るようだ。
今回ほぼ損害無しで切り抜ける事が出来た。運に助けられたとはいえ、戦力の補強も出来たし8のカードまで扱える様になった。満足のいく結果といえるだろう。
そのあとは休憩をとり、牛の世話と治療、馬車の破損部分の確認と補修を行い、ゆったりとしたペースでダルアの街に向かう事とする。
魔物のカードの推移
ゴブリン6―― 二枚
ゴブリン5―― 二枚
ゴブリン4―― 一枚
オーク 1―― 一枚
フォレストスパイダー 5―― 一枚
ジャイアントスコーピオン6―― 一枚
ハーピー6―― 一枚
ハーピー8―― 二枚←NEW
チェシャ狼8―― 二枚←NEW
数字は一部例外(行商の結果)を除いて漢数字で表しています。
トランプの数字はマークの一種なのでアラビア数字で表記しています。




