純粋は美徳
孫子曰く「敵を欺くには先ず味方から」
エム曰く「敵を欺くどころか自分を見失った」
そう私は今、危機に瀕している。
怒り狂った狼達が私の肉を欲して群がって来るのだ。
「クソ、油って爆発しねぇのかよ」
高価な油は一瞬でゴミと化した。
だが音に驚いて足が止まった狼に、矢が突き刺さり出鼻を挫く。
どっちの矢か知らんがいいぞ。
魔法は触媒を使った。
アンに教えて貰った火の魔法の触媒「炎石の欠片」あれ高かったんだぞ。
だが完全に無駄という訳ではなかったようだ。顔に掛かった油の匂いが不快らしく、胸に擦り付けている個体が邪魔して足並みが乱れている。
ぺぺとテンガの二人は端により、樽の影から少しでも数を減らそうと、必死で矢を放つ。
「エムさんこの先に岩場があります。馬車で入口を塞げば少しは持ちます」
君、一度しか通った事無かったよね。
ホンマか、ホンマに信じてもエエのんか?
前方に巨大な岩が見えてきた。なるほど岩が折り重なる様に立ち、浅い洞窟のようになっている。
隊商の休憩ポイントなのだろう。今は誰もいないが。
「打つぞ、フレイムなんとか」
指先から火炎放射器の様な炎が出る。おお!油に引火した。転げ回って火を消そうとする狼でパニック状態だ。
その隙に岩場へ逃げ込む。牛も必死で走る。彼女も食われたくはなかろう。
頭から突っ込み荷台で入口を塞ぐ。
「召喚! 樽、樽、樽」
水の入った樽を召喚しバリケードとする。
「ぬおおー来た」
バリケードなどお構いなしに大きな口で襲い掛かってくる。
「ファイヤーボール」
マズイ、クラッと来た。あと二回が限度か。
炎の玉は狼の口から入り、「バグン」という音と共に頭を破壊、そして炎に包まれる。
そして狼はカードとなり、ひらひらと舞い落ちる。
そこへ他の狼が我先にと雪崩れ込み頭を突っ込む。
大口を開けて、こちらを食わんとひしめき合っている。
今はお互いの体が邪魔で入れないが時間の問題だろう。
超怖い。テンガは腰が引けている。ぺぺは涙目。俺はもう腰が抜けている。
だが「狼、召喚!」
群がる狼達の後ろに召喚してやった。ケツに咬みついてやれ。
突如背後から仲間の狼に襲われ、パニック状態になる。
ここぞとばかりに弓矢で反撃。足元に嫌がらせのスライムを召喚するのも忘れない。
俺はファイヤーボールを飛ばす。さらに狼がカードとなる。
すぐさま召喚。さらにパニックが加速する。
もうひっちゃかめっちゃか、敵味方関係無しで咬みつきあう。
怖いので遠くからクロスボウで、ちまちま援護。だが俺にもどれが味方か、もはや分からん。
フレンドリーファイヤーしてたら許してちょ。
混戦を制したのは我が精鋭の狼君。ケツに刺さった矢は俺のじゃないよね。役目を終えた彼は、カードに戻る。
残念ながらもう一頭はお亡くなりになっていた。死んだらカードに戻らないのね。
しかし二人にはカードの召喚をばっちり見られたな。どう誤魔化すか。予想より馬鹿だと助かるのだが…。
チラッと見るとペペがネッチョリとした目でこちらを見ていた。
「今の召喚魔法ですか? オイラ初めて見ました」
「お、おう」
流石テンガ君純粋ですな。ペペさん、オクラのような粘っこい目で見るのは止めて下さい。




