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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第一章 冒険者編
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追憶

 吹き矢には麻痺毒が塗られていた。これはまず筋肉が麻痺、やがて心臓、呼吸器などの器官も麻痺し、死に至るようだ。

 慌てて体を確認する。あった、外套に刺さっている。

 木の枝を箸代わりにして、つまんで捨てる。


 ビューイがナイフでゴブリンの歯を折っている。それ売れるの?ああ、魔法の触媒で使うんだ。

 え?召喚魔法で使う?やめろよ、俺の存在が薄まるじゃないか。


 解毒薬を飲んだオニールが回復する頃には朝になっていた。荷物を纏めて出発する。

 ちなみにゴブリンの数が合わないと言っていたが、しらを切りとおした。コブリンは夜空に輝く宝石になったのだ、ダイヤの3になったのだ。


 今回でカードの秘密が少し解明した。

 ジャイアントラットなど知能の低いものは、こちらの命令を理解出来ないようだ。シースネークの行動は運が良かっただけだ。味方が近くにいればそちらに襲い掛かっていたかもしれない。分の悪い賭けだったが助かった。

 そしてシースネークのカードの数字が2から1になっていた。数字は残りの召喚回数を現すのだろうか?

 


 森の中を進んでいると、なにやら甘い匂いが鼻をくすぐる。何だろう、ワッフル?いや香ばしくはない、蜂蜜か?


 「こいつはツイてる。シュガーフラワーだ」


 ビューイはそう言うと匂いの元へと足を進める。


 やがて木々が開け、まるで人口的に作られたような広場に出る。

 そこには辺り一面の黄色い花。背丈は一メートル程だろう幾千、幾万の花が咲き乱れ、その黄色の絨毯じゅうたんに色とりどりの蝶が蜜を集めようと飛び回る。

 暫く見とれているとゴディバの声がする。


 「おいエム、ボケっとするな花を集めるぞ。こいつは香水の原料になる。結構な値段で売れるんだ」


 何だと早く言え。黄金や、黄金の絨毯や!全部むしり取ってハゲチャビンにしてやる。


 一心不乱に集めるも、持てる量には限界がある。背嚢に入る程度に花を摘んだあと、休憩を取り出発となったのだが、ゴディバが嫌な事を提案し出した。


 「ここからエムに先頭を歩いてもらおう」


 アホか。速攻迷子になるわ。ど素人に先導させる気かよ、だいたいオニール達が納得するかよ。

 え?いい経験になるからやってみろ?


 ……お前らグルだな。先歩かせといて振り返ったら誰もいないってパターンだろ。俺は騙されんぞ。


 昔の記憶がフラッシュバックする。





 「もういいかい」

 「まーだだよ」


 さて、ここに隠れればそうそう見つからないだろう。

 校舎の裏庭、一段高くなった場所にある秘密の小部屋だ。俺の取って置きの隠れ家。


 「もういいかい」

 「もういいよ」


 息をひそめて耳を澄ます。


 「トオルみっけ」


 一人見つかった。馬鹿な奴だ、すぐ見つかる所に隠れやがって。


 やがて何人もの名前を鬼が呼ぶ。俺はまだ見つかっていない。


 ……暇だな。ちょっと難し過ぎたか。

 もう少し分かり易い所に移動するか。


 そっと扉を開け様子をうかがう。人の気配はない。

 小部屋から出る。さて鬼は今どの辺だ?この近くにはいないようだな。

 足音を立てないように移動し、建物の影から校庭を覗いてみる。


 「トオル、こっちだ」

 「パスパス」

 「中にボール入れろ」


 …………サッカーやっとる。


 ………帰ろっか家に。遅くなると母ちゃん心配するもんな。今日は俺の好物のハンバーグって言ってたっけ。


 「カァー、カァー」


 カラスの鳴き声が遠ざかっていく。お前も家に帰るのか。気を付けてな。



 やがて俺は中学生になった。勉強はそこそこ出来た。友達も多くはないが、それなりに出来た。

 高校になり私立に入学。遅めの反抗期に入って、母ちゃんが鬱陶しかったっけ。色々話しかけて来たけど余計にイライラして、返事もしなかったよな。

 大学に行ったら一人暮らし初めてさ、ほとんど家に帰らなかったよな。

 それから社会人になったらスゲー喜んでくれたよな。いいとこ就職できたねって。

 そうだ、会社に先輩がいるんだけどさ。ゴディバって言って色々教えてくれるんだ。いい先輩だよ。


 ………ゴディバって誰だ?


 そうだ、今度帰ろう。お土産に黄色い花を一杯持って帰ろう。

 大丈夫だよ、カードにしちまえばそんなに嵩張らないから。


 ………カードって何の事だ?


 何だ、何かおかしいぞ。

 今は何時いつだ。俺は何処どこにいる?


 急に目の前が真っ暗になる。何も見えない。息苦しい、顔に何かまとわり着いてるのか。

 手で剥ぎ取……れない、手が動かない。足もだ。拘束されているのか。


 マズイ、死ぬ。良く分からないが命の危機に瀕している。

 どうしたらいい。そうだ、カードだ。


 「ゴブリン召喚。助けてくれ!」


 ブチュという音と共に視界が開ける。ヌッと覗き込む醜悪な顔、ゴブリンだ。

 救世主補正で格好良く見えるかと思ったが、ブサイクなままだった。ゴブリン君に幸あれ。


 手足もやがて自由になる。ゴブリン君が花びらのような物を引き裂いている。

 花の魔物か何かか?


 周りを見渡すと、2メートルはあろう花のつぼみから足が生えている。

 あの足はゴディバの足か?


 ブハハハ、ゆるキャラみてぇだ。

 いや笑ってる場合じゃねぇ。ゴディバが死んじゃう。





 他のメンバーも巨大花に食べられていた。

 ゴブリンと手分けして助ける。良かった、全員寝ているだけで死んでない。

 ゴブリンがカードになったのを確認した後、皆を起こして回る。

 オニールの鼻に花弁はなびらを丸めて詰めておく。特に意味は無い。ただの嫌がらせだ。


 巨大花は食虫花で、眠ってる間に獲物を消化してしまうのだそうだ。

 蜜を集めていた蝶の中に、睡眠作用を持った鱗粉を振りまく蝶がいたらしい。誰も気付かなかったのか。皆、金に目が眩んでいたのだろう。

 シュガーフラワー、蝶、巨大花、全てが共存関係にあるようだ。何と凶悪なコンボなんだ。


 夢を見ていたのだろうが、何処から夢だったのだろうか。皆、休憩を取った所まで記憶が一致していたため、眠らされたのはその頃だろう。

 『油断した時が一番危ない』俺もゴディバも教訓を生かす事が出来なかったワケだ。


 

 

砂糖の原料を香水の原料に変更

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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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