新たな仲間
太陽は完全に沈み、月の明かりが大地を照らす。
ホウホウと鳴くのは鳥か、はたまた異形の魔物か。
ジージーと虫達は鳴き、辺りを照らす焚き火の炎に誘われその身を焦がす。
俺達は交代で仮眠を取っている。
寝るといっても横にはならない。座ったまま目を瞑り脳を休める。外套を羽織り、武器から手は離さない。
今はビューイ、オニール、俺が見張り番だ。果たして俺は数に入っているのか。
川は月明かりに照らされ一本の道を作る。反面、森の奥は星の光さえ届かない漆黒の闇が広がる。とにかく怖い。暗闇をこんなに怖がったのは、いつ以来だろう。
カシュッ。ほんの僅かな音。貝殻同士がぶつかり合う様な音が聞こえた気がした。
「フッ」っという短い息と共に、ビューイが暗い森に向かってナイフを投擲する。
「オイ、起きろ!」
オニールの呼びかけに、皆が腰を浮かす。
アンは呪文の詠唱に入る。ゴディバはスッと俺を庇う位置に立つ。
敵の姿はまだ見えない。足音などの気配も感じない。虫の音さえ聞こえない。
不意にオニールがペタンと座り込む。
ビューイが叫ぶ。
「くそ、吹き矢か。奴らだ、森の民の斥候だ!」
森からヌラッと浮かび上がる黒い影。ビューイが次々とナイフを投擲するも、素早く跳ね回る影を捉える事が出来ない。
盾を構えるゴディバの方から「コツコツコツ」と木を叩く音。盾に吹き矢が当たっているのか。
ぱっと周りが明るくなる。光の玉が照明弾の様に空へと打ち上げられ、辺りを照らす。アンの魔法だ。
魔法の光は、森の民たる黒い影の姿を露にする。
皺があり老人の様な顔、吊り上がった目、頭に生える短い角、飛び出した4本の牙、そして特徴的な上に押し上げたような醜い鼻。
「ゴブリンかよ!」
浮かび上がったゴブリンの数は三。
一番近いゴブリンにゴディバが剣で切りかかろうと走り出す。
「待って、一人にしないで!!」
水の入った樽を召喚し、その後ろにコソコソ隠れる。
ビューイは、ナイフが尽きたのかゴブリン一匹とチャンバラを繰り広げている。
もう一匹はゴディバと。最後の一匹はアン…ではなく俺を標的に定めたのか、こちらに駆け寄ってくる。
野生の本能が弱者を見分けたのか。
ショートソードを腰の位置に構え、低い姿勢で走り寄るゴブリンに樽の影からクロスボウを撃つ。
軽く横に飛び、難なく矢を躱される。
次の矢を装填する時間は無い。二つ目のクロスボウで狙いをつける。
くそ、ジグザグに動いて的を絞らせない様に距離を詰めてきやがる。
ゴブリンとの距離はあと数メートル。
「ジャイアントラット召喚」
目の前に現れたジャイアントラットを見て一瞬ゴブリンの足が止まる。
「今だ、咬みつけ」
ジャイアントラットは一目散に森に向かって走り去ってしまう。
クソッ、役に立たねぇ。
注意のそれたゴブリンにクロスボウを発射する。
「ギャッ」
矢はゴブリンの耳を貫通して森の奥へと消えていく。
外しちまった。
憤怒の顔でこちらを睨むゴブリンはもう目の前だ。
もう駄目だ。剣を振り上げるその顔は醜い薄笑いをうかべている。
ゴブリンが剣を振り下ろそうとした瞬間、サバッと樽から顔を覗かせた大蛇が、ゴブリンの頭部を丸呑みにした。
「ファイヤーボール」
トドメとばかりに、指先から心臓目がけて打ち出された小さな炎の玉はゴブリンの胸深くに入り込み、内部を焼き尽くす。
ゴブリンが一枚のカードになると、役目を終えたシースネークはカードに戻っていった。
周りを見渡すと既に決着はついていた。
ビューイは他に敵がいないか警戒しており、ゴディバは遠くに行けずウロウロしていたジャイアントラットを真っ二つにしていた。
オニールは死んで……いないな、単なる虫の息だ。
そんなオニールをアンが介抱している。あっ、今鼻から何か流し込んだ。
ゴブリン IN