探索
オニールが獲物を解体してる間、皆で周りを警戒する。
巨大蜘蛛はやはりフォレストスパイダーで、まだ小さめの個体だそうだ。
取るべき素材はあまり無い。頭部にある毒腺のみで、ものの数秒で終わる。
その後、少し奥へと進みフォレストスパイダーの蜘蛛の巣を見付けると、木の枝を使いクルクルと巻き取っていく。この作業は見張りのビューイを残して、皆で行う。
十本の糸巻き棒が出来上がるとそれぞれ背嚢に仕舞い、また歩き出すのだった。
俺が巻き取った棒は一本。戦闘に全く参加していないが俺の取り分となった。
有り難いが、喜べない。俺は先程の闘いで一歩も動く事が出来なかった。魔法を使うなんて勿論、クロスボウを構える事さえしていない。
陰鬱とした気持ちのまま、足を前に進める。
幹に苔が付着した木が増えてくると、やがて川のほとりへと辿り着いた。
ここを起点とし、東西に川沿いを探索する。
記憶を手繰り寄せながら歩いていくも、分からない。何処も同じ様に見える。
かなりの間ウロウロしていると、なんとなくゴブリンと戦った場所らしき所を見つけた。
このまま進めばジャックポイントへ辿り着くだろう。
辺りを警戒する者、地面と睨めっこする者の二種類となり探索を続ける。
やはりと言うか、ビューイが地面に付着した血痕を発見するも、ジャックの遺体は見当たらなかった。
そもそも遺品といっても俺がほとんど奪ったわけだしなぁ。これ以上何を探すのよ。死体なんぞ獣に食べられてるだろ。
太陽は既に大分傾き、急いで帰ればなんとか日没までに街に帰れるかなぁなんて思っていると、
「よし、今日はここで野営するぞ。各自準備を行え」と不吉な事をオニールが言う。
抗議をしてみるも「この場所で間違いないんだろ?探索せにゃならん、やり方がある。お前は薪でも拾ってろ」と一蹴される。
ビューイは辺りに罠を張る。オニールは簡易の拠点作り、俺とゴディバは薪を拾う。アンは何をやっているか良く分からん。
太陽が沈みかけ夕暮れ時となった時、アンを中心に皆が集まる。
アンは何やら呪文を唱え、白い粉を風に飛ばす。灰かもしれない、薄いグレー掛かっている気もする。
その粉は不自然に空中を漂い、やがて人の様な形を模る。
ぼんやりとした姿だが何故だか分かる。あれは見つけた死体、ジャックの姿に他ならない。
ジャックの表情は分からないが、一点を指差している。
皆で松明を掲げ、指差す方へ歩いていく。
森に入り100メートル程だろうか、銀色のブレスレットを見つけた。
そのブレスレットは何者かに噛まれたのだろうか変形し、血痕と思われる赤黒いシミも付着している。
ブレスレットを拾うオニールの腕には、よく似た形のブレスレット。
そして、小さな声で言う。
「ジャック、一緒に帰ろう」
火を囲む様にして皆で携帯食料を食べる。俺は疑問に思った事をアンに尋ねてみる。
魔法だ、俺の魔法とアンの魔法が違い過ぎるのだ。
「そうね、私は沢山の魔法を使えるわ。先程使ったのは闇魔法、残された人の思念を模る事が出来るの。
フォレストスパイダーに放ったのは水の魔法。ツンドラ草を触媒に使うのよ」
へぇ、凄いね。何種類ぐらいの精霊と契約してるんです?
「いいえ、精霊とは契約してないわ。私は魔術師、精霊術師ではないわ」
何ぞいな、それ違いがよく分からんのだが。
「がははは、お前魔術師になりたいのか?
やめとけやめとけ、幼少の頃から訓練してほんの一握りがなれるって世界だ。大人になってからじゃ無理だ」
ゴディバが口を挟む、うるさいな。あっちいってろ。「ゴディバ、ハウス!」
「魔術師はね、周りに居る精霊に働きかけて魔法を使うわ。どうして欲しいか伝えるの、それが呪文ね。精霊は捧げた触媒に応じてその力を貸してくれるの。
精霊術師は契約してるから言葉は必要ない。気持ちが伝わるもの」
なおも精霊術について尋ねてみるも「契約してる人なんてほとんど居ないわ、教会の司祭ぐらいしか知らない。私が教えて欲しいぐらいよ」と拗ねられた。