ホームズ
スッキリとした目覚めだった。昨日の吐き気も頭痛もまるでない。
昨日聞いた三人の評判を調査してみよう。ジャックの事を話すには慎重に行動すべきだ。
「欲するならば、まず与えよ」と偉い人が言っていたらしいが、与える物が命だったらシャレにならん。
とりあえず、情報収集だ。なんか俺、こればっかりだな。探偵じゃないつーの。…名探偵エムか悪かないな。
情報収集のついでに教会に行って光の精霊を瓶に捕獲する。すっかり忘れてたが、建物を見て思い出したのだ。
一日情報収集に費やし、ある程度三人の情報を得た。
オニールという剣士、20代中盤、身長180程、黒髪短髪、両手剣をつかう。
ビューイは斥候に長けた剣士で投げナイフを得意とする。髪は長め、身長170弱。
最後の一人、アンは20代前半、フード付きローブを着て顔はあまり見せないが美人らしい。ブロンド、身長160ぐらいか。
ジャックとはオニールが特に仲が良かったらしく、四人でパーティーを組む事も多かったんだとか。
オニールが少々喧嘩っ早いがあまり悪い噂は三人共なかった。
宿屋に戻り夕飯を食べる事にする。食堂は満杯だ。一つ空いているが相席になるな、仕方ない。
軽く挨拶をして席に着く。シチューをがっつきながら思う。この世界に来てメシを食べるが、どれも旨く感じる。調味料が充実してるわけでもなかろうに。
これは予測だが、食材には魔力が含まれているのではないだろうか、人は足りない栄養素を摂取すると旨く感じるという。大型の生き物がいるのも、魔力という栄養素の所以ではなかろうか。
人もそうであろう、現に前に座る男は20代中盤、身長180程、黒髪短髪で持っている両手剣を軽々と振り回しそうな程逞しい。
ん?何か嫌な予感が……。
目の前の男と目が合う。
「俺はオニール、あんたエムって言うんだろ。俺達の事嗅ぎ回っているらしいじゃねぇか」
周りで「ガタッ」と席を立つ音が聞こえる。
フードを被った女とボサボサ頭の男だ。
バレんの速ぇよ!
三人に詰め寄られた俺は、あっさりゲロった。だって怖いんだもん。宿屋の女将は迷惑そうに見てるだけだし。俺に味方はいないのか。
「こいつの話が本当だとして、亡骸は残ってないだろうな」
「あんた」から「こいつ」に格下げですわ、死体見つけただけなのに。
お金もう使っちゃったから返せないよ。剣は別にいいけど、ゴブリン倒したナイフは記念に持っときたいし。
え、いいの?見つけた奴の物ってのが冒険者の流儀だって。カツアゲされなくて良かったよ。
「その代わりその場所まで案内してもらうぞ」
そうだよな、そう来ると思ったよ。嫌だよ、道なんかあんま覚えてないし。森の奥で「はいサヨウナラ」って置いてけぼりやバッサリ切られちゃうかも知れないじゃん。
「噂が広まれば冒険者として生き辛くなるぞ」
恫喝かよ、別にいいよ。今は冒険者だけど俺は商人目指してんだ。
……冒険者に嫌われると行商できなくなるな。しゃあねぇな。
「それは依頼か?ギルドを通してもらおうか」きっぱり言ってやる。
「なんだと!」
三人の雰囲気が変わった。怒らせたか。
暫くの沈黙の後「こいつの言う通りだよ、依頼として扱うべきだと思う」とビューイが言う。
他の二人も納得したようだ。そのままギルドへ連行されて行くのであった。
俺、まだ食べてる途中なのに……
ほんとは別の街にすぐ移る予定だったのに……




