岐路
薄暗い部屋の天井には幾らかのランプが吊るされており、柱や梁の影を作る。
石畳の床には木で出来た頑丈そうなテーブル、それを囲む椅子、大きな樽が置かれており、椅子に座るのは屈強な男達。その周りを忙しそうにエールの入ったジョッキを持って走り回るのは看板娘のルイナ。
ここはギルドから程近い酒場シャム。今日は冒険者達でごった返している。椅子に座れ無かった者は樽をテーブルとし、立ったままエールを飲みつまみの豆を口へ放り込む。
下水施設での依頼を終えた一団は受け取った銀貨を握り締め、ここになだれ込んだのだ。
「それからどうなさったんで」
ゴディバの語る武勇伝に上手い具合に合いの手を入れるこの男、初級から中級といったとこだろうか他の者より少し良い防具を身に着けている。
目が大きく、少々出っ歯で猫背、時折「キシシ」と笑っている。猜疑心の強そうな目は、今はゴディバのご機嫌を伺おうと注視しているようだ。
出来ればあまり関わり合いたくない手合いではあるが、相手をせずとも情報を得れるため助かるのは間違いなく、目立たぬ様うまく輪の中へ入り込みエール片手に情報収集に努める。
「しかしジャックの奴、もう駄目なんだろうな」
誰?ジャックって、ゴディバさん教えて。
「ああ、お前は参加してなかったな。あれは4日いや5日前だったか。
領主主催の月に一度の大規模な狩りでな、簡易な拠点を作って街の周りのモンスターを狩るんだ。食える奴も食えない奴も、所謂間引きってやつだな。俺達冒険者も毎回ほとんどが参加してるんだが、ジャックの奴が行方不明になってな。
ほとんどの奴は皆で罠に追い込んだり、網を引っ掛けたりして安全に狩るんだが、あいつはなまじっか剣に自信があるせいか、一人で森に入っちまいやがった。
捜索はしたんだが見つからなくってな。人間の領域なんてほんの僅かだ。探すにも限界がある。
自己責任の名の下に捜索は打ち切られたよ」
「それでも仲の良かった奴らは探してはいるんだがな」と言いながらゴディバはエールを流し込んでいた。
俺は思った、話なげーなと。違う、いや違わないか。
とにかくジャックだ。この世界に来て初めて見た死体、ゴブリンに殺られたであろう、へっぽこ剣士、あれがそうなんじゃないか?
さて、この話を伝えるべきか否かなんだが……。俺、身ぐるみ剥いでるからなぁ。
身の安全を考えると話す選択肢はあり得ない思うのだが、話さずバレた時のリスクも考えると…さて、どうしたもんか。
会話はやがて捜索している者達の話へと移っていく。
熱心に探しているのは三人、内一人は女魔法使いだと、ぜひお近づきになりたいもんだ。
宴も酣、宿屋に戻り、まずはカードの確認。1のカードはマトショーシカ状態の樽、貴重品を入れたカバンだ。
2のカードは大きな蛇シースネーク、スライム二枚、大きな鼠ジャイアントラットだ。
倒したスライムが2匹という事はなかろう、もっと多いはずだ。全てがカードになるわけではなく、任意でカードにするかを選べると考えていいと思う。
ジャイアントラットはスライムと一緒に焼いてしまったのだろう。これでこちらが認識してない物も、望んでいれば倒した時カードに出来ると予想出来る。
宿屋の裏庭にて松明片手に魔法を試す。人に見られ無い様に手早く済ます必要がある。
指先から炎を出す。今度はガスバーナーの様な火。一つの松明が触媒ではこんなもんか。指先以外からも出せるか試みるも難しい。訓練すれば何とかなりそうな気もするが…。
他の形状を試してみる。ビー玉ぐらいの大きさの火の玉が出せた。
近くにあった石に向かって飛ばしてみると、真っ直ぐに進み命中。石は暫く火に包まれる。
なかなか興味深い。可燃物では無い石が暫く燃えていたのだ。
恐らく火の性質を持った魔力の塊が飛んで行き、その魔力尽きるまで燃えたのではなかろうか?
当たれば火炎放射器の様に、火を当て続けるより効果が高いかも知れない。
魔法を四回ほど使った所で、頭痛と吐き気に襲われた。五回目には立っているのも辛くなってきた。
限界だ。裏庭から建物へ入ってすぐの瓶に入った飲料水をコップ一杯頂戴し、転がるようにベッドへ潜り込んだ。
主人公が街にたどり着く事が出来たのはたまたま魔物が間引きされていた事と、ゴブリン君のおかげですね。
ジャックの事を話すか否かですが、話すと当初の予定から少しずれるんですよね。
でも放置するとモヤモヤするし…