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消えたカードの行く先は  作者: ウツロ
第一章 冒険者編
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ファーストミッション

 下水処理施設の前に屯している柄の悪そうな集団に声を張り上げる男がいる。

 今回の引率の中級冒険者で名前はゴディバ。身長は180センチぐらいだろう、ブラウンの瞳、短く刈り込んだ髪、引き締まった体、軍曹や鬼教官といったいで立ちだ。


 「いいか、やる事は簡単だ。スライムがいたら松明で焼け。動きは遅いが天井にへばり付いてる奴には気を付けろ。倒したからって金が出るわけじゃねぇ、作業員を守る事だけ考えてろ」


 なかなかの貫禄を備えた男のようだ。酒場で飲んだくれてゲロを吐いていた男とは思えない。


 そう、先日酒場に情報収集に行ったおり、酒をおごって色々教えて貰ったのだ。有益な情報を得るたび酒を追加していったら最後グデングデンになってたっけ。呂律ろれつが回らなくなった頃、他のテーブルに移ってたから俺は被害に遭わなかったけど。


 「おいエム、お前も参加してたのか」


 スライムは排泄物を酸で溶かすため、下水施設で飼っているらしい。定期的に増えすぎた個体を間引くと同時に施設の点検もするそうだ。火に弱いため松明が有効で、固まって周囲を警戒すれば危険が少ない。


 「無視すんじゃねぇよ」


 ゴディバのむさ苦しい顔が目の前に迫っている。どうやら俺に話かけていたみたいだ。

 誰だよ「エム」って。あ、俺か。適当につけた名前だから忘れてたわ。


 「先日はお世話になりました。初依頼なので迷惑をおかけしますが、宜しくお願いします」

 「お、おぅ。なんか気持ち悪いな」


 ゴディバは「俺たち本隊からあんま離れんじゃねーぞ」と言って松明を2本手渡してくれた後、冒険者の集団を連れて地下へと続く下水施設へ入っていった。勿論俺も後に続く。



 松明の光が通路を照らす。冒険者と作業員で30人にもなる一団の照らす光は中々の光量を生む。

 水路を流れる少量の水、その横を歩く。ガラガラと台車を押す音の他には、自分達の足音、ボボボと僅かに松明の燃える音が聞こえるのみだ。

 目の前には見たくもない冒険者の尻。最初は警戒して天井や壁を見回しキョロキョロしていたが、スライムが出ると先頭のゴディバがいち早く発見し、油を掛けて焼いてしまう。

 一番安全そうな集団の真ん中やや後ろに陣取ったが、やる事がなくて段々緊張感が薄れていく。



 集団の動きが止まった。ゴディバが振り向いて皆に伝える。


 「この先は貯水槽になっている……なっている……ている……いる」


 壁に反響してエコーがかかる。


 「あっ!……あっ!……あっ!」俺も叫んでみた。


 周りもまねしだして大合唱となった。


 「俺の話を聞けや。次やったらスライムの餌にすんぞ」スゴむゴリラ。


 ゴディバが怒った。チョー怖かった。馬鹿にするのはやめよう。


 

 前に進むと開けた場所に出る。広さは20メートル四方ぐらいだろうか、幾つもの水路が交わり大きなため池となっており、中には多数のスライムが蠢いている。

 頭上に注意しつつ一団は素早く展開する。


 「A班は退路の確保、B班は左に展開、C班は右だ。油を半分流して火を付けたら退避。全部流すんじゃねーぞ、息が出来なくなんぞ」


 C班の俺は竹筒に詰めた油をながす。松明で必死に火をつける。俺の炎で倒すんだ、スライムのカードが欲しいんや。

 

 ダメ押しに松明を投げ入れてから、元来た通路に一旦退避する。心の中でスライムのカード2枚欲しいですとお願いする。


 通路の先の広場では炎が一面に広がっている。焼却炉を覗いているようで、顔に熱を感じる。

 やがて火の勢いは弱まり、灯篭流しのような幻想的な姿になると、一団は再び足を踏み入れるのだった。


 「生き残りに注意しつつ、別の通路を警戒。作業員は素早く点検」


 ゴディバの指示に従い来た道とは違う通路を警戒しようとして松明が無い事に気づくと、スペアの松明を取り出し火を付ける事にする。

 どうせなら魔法で火を付けるかと思い、意識を指先に集中して念じる。

 炎の精霊フェイはその思いに答え、炎を呼び起こす。その炎は周りの炎を糧としてより大きな炎を生み出す。

 火炎放射器のような火が指先から放射される。


 「うおおぅ」


 びっくりして思わず声が出る。注目を浴びるが、なんでもないと手を振りごまかすように通路の警戒につく。

 なるほど、精霊といえども魔法には何らかのエネルギーを必要とするのだろう。触媒しょくばいってやつだな。フェイさん、しょっぱいなんて思っててごめんよ。

 火以外に持ち運べる触媒ってないのかな?魔法使いから話を聞きたいな。

 魔法も無限に使えるというわけではあるまい、魔力あるいは精神力なんかを消費するはずだ。自分の限界を知る必要がある。

 情報収集の他に街を探索して商品の値段や価格差なんかも調査すべきだろう。

 やる事が多い、しんどいな。だが何だろう、ワクワクする。熱い、興奮で体が熱を帯びるのがわかる。


 「よし、終わったな。持ち物を点検して帰るぞ」


 考えているうちに作業が終了したようだ。ゴディバの掛け声と共に一団は帰路に就く事となった。

 もちろん、帰りも周囲の警戒は怠らない。ぼけっとしてたらゴディバに怒られたからだ。

 「気を抜いた時が一番危ないんだ」と。おっしゃる通りで。

 


 


今更ながらルビの振り方を覚えました。

下水施設で火使ったら爆発しませんかね?スライム処理だから大丈夫って事でお願いします。


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ハードボイルドなファンタジー小説も連載しております。よろしければどうぞ 失われた都市ジャンタール
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