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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

冥龍さんと幼女ん

作者: 鈴月Haimu

これはとある冥界にすむ竜のお話。



昔々まだ神々と人が行く末へ違えようとしていた時のこと、死者の世界──冥界で日がくれて間もない頃、満月が美しく輝く夜に産まれ落ちました。


龍の体は優しい夜闇の色を纏い、その瞳は清浄なる川の流れが如き色をしており、その力は誰がみてもとてもとても強いものでした。


ちょうどその時、神々は人間に負けそうになっていたので、産まれた龍の名を縛り自分達の物にしました。


その時、龍の体は禍々しい闇の色へと代わり、瞳は清浄なる川の色から地獄にある血の池のような色に。



それを冥龍と神々は呼びました。


冥龍はとても強く次々に人々を屠り、ついに人間は神々に敗北しました。


そして神々は自分達が苦戦した人を簡単にやっつけた、冥龍を怖がり攻撃して冥界にまた戻しました。

それを知った冥府の神々や一部の冥龍をよく知る神々は怒りました。


神々の中でも戦いが起こりかけたとき冥龍は言いました。


「せっかく私が血に濡れながら戦いを終わらせたと言うのに、また戦うのですか?」


それを聞いた神々は自分達がとても醜く見え冥龍に謝りました。


「私たちが出来ることはあるだろうか?」


神々の中でも一番、偉い最高神が冥龍に問いかけます。


「ならば、戦いのない静かな生活を………。」



そして冥龍は冥界の一部を冥府の神々よりもらい受けそこに住まいました。




神々は思いました。いつか誰かが、この禍々しくも優しい冥龍の真名を呼び龍の呪縛を解いてくれることを………。


それから幾年月が流れその中で人は神々を恐れ、神々に美しい男や女を生け贄として差し出すようになりました。

それは冥龍も同じで沢山の生け贄が毎年、必ず贈られてきます。


けれど冥龍を見た人間は誰であろうと冥龍を恐れほとんどが発狂し自ら死んでしまいます。

けれども冥龍はとても優しいので何とか帰します。

けれど帰した者は皆がみな冥龍を恐れているので、冥龍は恐ろしい物とされ時々冥龍を殺すために生け贄になります者が現れました。

その度に冥龍は血の瞳から涙を一筋流し冥福を祈るのです。




────


そしてあるとき、贈られてきた生け贄の中でも一番に幼く、まだ神の子(七歳にならない子)であろう美しい娘がやって来ました。


美しい娘にたいして、元は白だったのだろうボロボロの服がとても浮いています。




娘の髪は金にも銀にも見える美しい色に輝き虹の光沢を持ちます。

そして瞳は空のような無垢な色を映し冥龍を見ました。

これは人なのだろうか?そう冥龍は思いました。


娘は言います。


「私の名前はマリです。」

冥龍はとても驚きました。その娘マリは冥龍を怖がらなかったのです。


動揺とそして喜びを持って冥龍は言いました。

「私に名前は無い……が冥龍と呼ばれている。」


「メイリュウ?」


「あぁ。」


冥龍の口は知らずゆっくりと弧を描きます。


それが冥龍とマリとの出逢いでした。



それから冥龍はマリと共に冥界で過ごし始めました。


何せ、冥龍を恐れ無い者は初めてなのです。

大切にしなくてはと冥龍は思いました。

マリはとても好奇心旺盛だったので、冥界にあるものすべてに興味を示し冥龍に沢山の質問をします。

それに冥龍が答えると、とても嬉しそうに笑うのです。




「あぁ、あの赤いのはなんですか?」

遠くにある地獄を見て言います。


「あれは……。」


こう言うとき冥龍はとても困ります。

だってマリはここがどこなのか理解してないように見えるのです。


───知れば怖がるかもしれない。


「あれは彼岸の花が赤いからだ。今度つれていこう。」


冥龍は嘘をつきます、優しい嘘を。


「楽しみです。」





冥龍とマリは冥界の入り口──彼岸の花、咲き乱れる川原にやって来ました。


「全部、赤いです。綺麗!」


一面の赤に絹糸の如き髪がふわふわと舞っていて冥龍はとても綺麗だと思いました。


「エヘヘ。」

───こんなものの何が良いのだろう。




「彼岸花……死人花や曼珠沙華とも言う。」


「赤くて綺麗なのは冥龍さんの瞳と同じですね。」


「私の瞳は血の色だぞ?」


「言い方向に考えて見ましょうよ!苺ジャムの色とか!」


「どうしてそこで苺ジャムになる!」


「えっ?にてませんか?じゃあイクラ?」


「……」


ピクピクと表情筋が痙攣しています、

主に口許。

このマリと言う幼女、見目はともかく中身は残念なことを冥龍は知っています。



「毒があるからあまり触ってはならん。とは言え鱗茎の方屠る】、毒を抜けば食べれるようだ。」


これ以上は無駄と話をぶったぎり彼岸花の説明をしていくことにしました。



「こんな綺麗なのに毒があるのですね。と言うか食べてみたいです。」



「そうか…。」



「あっ!」


幼女の心はくるくるくるくる色んな物に


「あの人たちは何をやっているのですか?」

遠くで人が船にのっています。


「あれは、川をわたっているのだ。三途の川という。」


──人が冥界で審判を受けるために渡る。


「へぇ、楽しそう。」


「何時かわたるだろう。」


「その時は一緒にわたりましょうね。」



「あぁ。」



「泣きそうな顔してどうしたんですか?」


真ん丸つぶらな瞳できょとんと見つめるマリに冥龍は「何でもない。」そう答えました。


──君は死を望むのか?そんな問いは唾と飲み込んで。



「明日の夜は月がとても美しく輝くだろう。」


「じゃあ、明日はお月見ですね。お団子食べたいです。」


「なら、用意させようか。」


「はい。」


「これなら…。」


明日の月見を考えて冥龍は口許をゆるませ、マリは顔を綻ばせました。




その夜、せっせと月見団子を運ぶ白兎がいたりいなかったり。




「冥龍さん、月見団子がベランダにありました!」


「ベランダじゃなくてバルコニーと言わないか? 露台とか。」


少しばかりプライドを刺激され崩れた言葉になってしまいました。


城なのだからベランダという言い方はちょっとというのが冥龍の主張である。


「同じじゃないんですか?」


冥龍は遠い目になりました。


「そう、そうか。」


「はい!」


「……それより、夜更かしするのだから今のうちに寝ておいた方がいい。」


「えぇー。」


「月見をするのに宵の口までしか起きていられぬのでは意味がない。私は良くても君にはきつい。」


「わかりました。その代わり一緒に寝ましょう。」



「……わかった。」


「珍しいですね、いつもは寝てくれないのに。」




冥龍が先に目を覚ましマリを起こします。


「んぅーー。」


「起きないと月がみれない。」


その言葉でマリは目を覚ましました。


「みます!」


「行こう。」

城の露台には赤の敷布が敷いてあり、秋の草花とススキが飾ってあり、お団子に芋や栗そして豆がありました。


「用意してみたが、こんなものでいいのだろうか?」


ちょっと、目を丸くしつつ「十分すぎますよ」とマリは答えます。


「ならば、月見をしよう。そちらの酒瓶は触ってはならんぞ。」



「はい。」



冥界の夜空に酷く美しい月が輝いてます。

ふと、冥龍は悲しくなりました。


「私が産まれた夜もこんな夜だったと言う。」



「へ?」

───いまは関係ない。



「何でもない。」


「何もないことはありませんよ!」


ぎりっと冥龍の歯が音をたて、つっと口許から赤が一筋。


「冥龍さん!?」


「じゃない……冥龍じゃない。」


頬が濡れて滴がポタポタ、血の瞳が一瞬だけ青をうつしました。


───この日は不安定になる…。

目の前の幼子を安心させなければいけないのに。


足に力が入らない。


「冥龍さん?ねぇ冥龍さん。」


「少し不安定になっているだけだ、安心していい。」


「でも。」

そっと下から顔を覗きこむマリが冥龍には愛しくて、たまらなって震える手でそっと袖に包みます。


「冥龍さん?」


お願いだから独りにしないでそんな言葉を言えたならと冥龍は思い、あたたかいその体をぎゅっと抱き締めるのです。


ポタポタ、ポタポタ涙は止まりません。

この日はいつもいつも不安定になるけれど泣けたのはマリがいたからなのでしょう。




「私は、わたしが産まれたのはこの日なのだ。宵の口、空に満月が爛々と輝く夜に産まれそしてすぐに名を奪われ戦いに身を投じた。」


さらに抱き締める腕に力をこめます。


「そして、本来の名は失われただただ冥界の龍ということで冥龍と呼ばれた。」


マリはただ黙って話を聞きます、頷きもしません。その方がいい気がしたのです。


「私の名はなんだと思う?」


そう聞かれて少し固まったのを冥龍はみてとりました。


「すまない、こんなことを言っても仕方ないのに。」


「本当に分からないんですか?」



冥龍は冥龍は瞠目しつつ分かるのか?と聞きます。


そっと、マリは視線を冥龍からそらしました。

「だって目の中に青で描いてあるんです。だから……。」


そのとき冥龍は気がつきました。


神々は冥龍のことに罪悪感を感じ、そして案じここを与えました。

結局は冥龍を殺そうとするものばかりでしたが、寂しくないようにと言う可笑しな理由でいつも贄を送ってくるのです。


それは静かな生活を望む冥龍にとって迷惑なことで、何時も贄をやめるようにいっていました。

それを無視し続けたのはもしかすると、冥龍を恐れず、そして良く見てくれる者が現れ、真名を呼んでくれるのではないかと言う淡い期待だったのかもと。


「何てかいてある、マリ?」



「宵月とかいてあります。」


その言葉と共に血の瞳は清涼なる水の色へそして禍々しき闇の色は優しく包み込むような月夜の色へと変わりました。




そうしてその日から冥龍は宵月となり、マリと共に暮らします。

ある時、宵月は気がつきましたマリが成長していないことに、けれど宵月はとてもとても幸せだったので、すぐに忘れてしまいました。


今と比べたらどうでもいいことだと思ったからです。

だって幸せが壊れてしまうかもそう無意識に思ったのもあったのかもしれません。


けれどそこでなぜ成長しないのか聞いていればあんなことで悩まなかったでしょう。





ことの発端は宵月がマリの部屋に忘れ物をしたことです。


いつも訪れるときは先触れを出してから訪れるけれど、すぐに使うものだったのでそのまま訪れました。

マリは手水にでも行っているのでしょう部屋にはおらず、あったのは龍を殺すために作られた、一本の小さな剣でした。


なぜこんなものをと宵月は考えるけれど答えは出ています。

だって宵月は冥龍、冥龍は人にとって悪いもの。


───悪いものは殺される。


瞳から水が流れ宵月はマリにあってから泣いてばかりだと思いました。



どのくらいそのままだったのでしょうか永遠のようにも刹那にも感じる時間がたって遠くからマリの声が聞こえました。



───見つかったら今が壊れる。それは嫌だ。


───それに最期をあれの手で迎えるならそれはそれでいい。



そう思えるほどに宵月にとってマリとは大切な者になっていました。


だから音をたてずに戸を閉めて一度部屋に戻ります。


そして先触れを出してから部屋を訪れるのです。



それからは表面上は何時も通りけれども宵月の心のなかは冷たく凍りついています。


何時もならマリと話をすれば胸にあたたかいものがあふれ、一緒に眠ればいつも眠れなかったのが嘘のように眠り、そして食事はいきるために必要な物ではなく楽しむための物に。


けれども今は話をすればいつまでこうしていられるのかと言う不安が広がり、一緒に眠れば殺されてしまうのではという疑いが、そして食事は毒が入れられているのではないかと考えると味がしません。


なのにマリの態度は変わらないから宵月はあれが幻だったのではないかと、そうであってほしいと思うけれどこっそりマリの部屋に入るとやっぱり龍殺しの短剣があるのです。


だんだんと宵月は眠れないことで折角の美しい瞳の下に隈ができ、ご飯が食べれないことで少しずつ衰弱していきます。


「宵月さん、大丈夫ですか?」


「大丈夫だから気にしなくていい。」


「でも……。」



最近はこんな会話の繰り返し。


───私を殺すのだから弱ってる方がいいだろう?


心が凍って冷たいのにじくじくと熱くて宵月は訳がわからなくなってきます。


「すこし、外の空気を吸ってくるそうしたら良くなるだろう。」


「じゃあ、私も!」


「人型ではなく龍のままで行くからついてこれない。大人しく待っていなさい。」


「わかりました。」


自分で待っていろと言ったのに、ついてきてくれたらと思う自分が嫌で、堪らなくてなって疾風のごとく風をまといその場から消えました。


嘆きの咆哮をあげながら、のたうちまわるように空をかけ、瞳からは大粒の雫が空に儚く散っていきます。


悲しいのに今の宵月は何よりも美しく地獄の苦しみを味わう亡者どもですら見惚れるほど、それを神々は見ていました。


そして理由を知って怒りマリをさらってしまったことに宵月が気がついたのはその日から三日後のこと。


城に帰ったらいつも出迎えてくれるマリがおらず、寝ているのかと先触れを出してから部屋を訪れたのに部屋にはいません。


焦っていろいろな部屋を宵月、自ら探すけれど居なくて、悪いと思いながら手水場まで見たのにそこにも居なくて城の外もなにも食べずに探すけれどどこにも何処にも居ませんでした。



それでも泣きながら探していると、見かねた宵月と仲の良い冥界の神が宵月に教えてくれました。


「あの娘ならもうすぐ殺される。」


探すために声を出し過ぎて枯れた喉が木枯らしの音をたてます。


「あっ、あぁ。」


声を出そうとするけれど言葉にならなくて、涙は枯れていて、その代わりなのでしょうか瞳が清浄の青から血の赤に変わってしまいました。


「宵月!?」



「いらない、あの娘が居ないなら宵月の名など必要ない。」


一瞬だけ瞳が青にそまりそして一筋の涙が落ちました。



冥龍は咆哮をあげながら神々の住む空に向かってかけ上がります。



───私はどうなってもいいけれど君が死んでしまうのは嫌だ。


宵月──いえ冥龍は決めましたマリを守るためにいつかそうしたように今度は神々を屠ろうと決めました。



そうしてやって来たのは天界の最高神おわす壮麗な虹の城。


緑の蔓草が虹に巻つき、まわりは緑にあふれ透けて見える中庭にはとある高貴なかたの住まいへとつながる泉があり、門の前には騎神たちが門を守っています。


「騎神たちよ、我が愛し子が最高の神によって害されようとしている。そこを退いてほしい。」



「お待ちください、宵月様。」


「あれは貴方を害そうとしていたのでしょう。助ける必要など…っあ。」



それでも助けたいと冥龍は思います。


───そしてもしも助けたなら…そばに居てくれないだろうか。このまま。


門の前には沢山の騎神たちが倒れています。

───殺してしまわなかったのはしまえなかったのはどうして?


冥龍は虹の城の最上階にむかって龍の姿のままかけあがり、そして扉の前で人型に戻りました。だって龍の姿は見せたくなかったのです。


そばにいてとそう伝えたい。そう思うのは我が儘なのか。



扉を開いて中に入るとあの短剣で貫かれ赤に染まる少女が一人。

他の神もいたけれど冥龍の瞳に映るのは宵月の名を取り戻したマリだけ。


すべての血管から血がなくなっていくようだと冥龍は思いました。


───間に合わなかった?


「あっあぁマリ?どうして。」


冥龍の声にマリが振り向きました。

沢山の赤が流れたのでしょう胸と対照的に顔は蒼白でした。


「宵月さ…ん…?」


こんなときなのにそう呼ばれて胸にあたたかい何かが広がります。


「あぁ、宵月だ。」


最初に名を呼ばれたときのように瞳が青に戻りました。



「ごめんなさい。でも最初から使う気なんてなかったんです。」



嘘かも知れないそう思うのにその言葉は甘く極上の美酒のこどく宵月を酔わせてくれるような言の葉です。

例え嘘でも信じたいそう思って優しく割れ物を扱うように抱き締めます。

「それに、言ったら宵月さんに嫌われると思ったから。」


その言葉で酔いは覚めました。


「そんなことはない!」


「本当に?」


「あぁ、私は君に殺されるならそれでいいと思っていたほどだ。だから嫌わない。」


「はい!」


空の瞳から涙が流れ、それを宵月は拭います。


「直してあげるから少し眠りなさい。」


そう言って自分の指を噛みきりそっとマリの口の中に入れて自分の血を飲ませました。


「嫌かもしれないが私と同じ龍になろう。」



マリはその円らな瞳を見開いてからぷっと吹き出して嬉しそうに笑いました。


「元々半分はそうなのですから、全部になっても構いませんよ。じゃあお休みなさい。」




「えっ?じゃあその色と短剣は……あっ、待ちなさい。」



「はぁ、私の苦労はなんだったのか。」

そんな最高神の言葉は二人には届きません。





目覚めてからの第一声はこうでした。


「えへへ、宵月大好きです。」


「あぁ、私も大好きだ。」

心からの笑顔を浮かべ、言いました。

名を呼ばれたときに勝るとも劣らないあたたかい幸せが胸に広がります。





冥界の空には優しい夜色の龍と夜空に輝く金とも銀ともとれる月の色をした龍がくるくると楽しげにかける姿があります。


そしてそのあとを太陽の色をした幼龍と青空の色をした幼龍がついていく姿が見られたそうです。


めでたしめでたし。















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