タイトルなどなく、明日には忘れるだろうさ
扉を開けると「おかえり」の声
当たり前だと思っていた
けれど、今はない
毎日この扉を開けて、今日もときは進んでいく
扉を元気に開けて、ランドセルを投げ、ブロックを取り出す
今から数十年前の日課だった
扉を開けて、カバンを置き、誰もいない部屋でため息をつく
幾多にも広がる道のどこかを、選び進んだ先に僕はいる
笑顔でのブロック遊びから、生気の抜けたため息に日課は変わった
過去に過ちがないかと聞かれれば、過ちと後悔ばかりの日々だったと答えるだろう
だが、今の僕は昨日の僕を攻めるつもりはない
昨日も一昨日もずっと前の僕も、そのとき僕ができる最善を行ったんだ
あの時、こう動いていたらと、かあの人にこう言っていればと思うことはある
でも、それができないから僕なんだ
だから今日、僕はため息をつく
今の僕が変われていないことを噛み締めながら
でも僕も変わったところはある
嫌いな食べ物が日々減っていくとか
数メートル走っただけで息が上がるとか
別にそういったことだけじゃない
好きとか嫌いとかそういったものじゃなかった家族
いることが当たり前で、多少イライラさせられてもそこが普通だった
それが今ではいない
特に何かあった訳じゃない
ある日、そうある日
僕は家を出た
家族と何かあったわけじゃない
ただ、そうすることが必要だと思ったから
扉を開けて「ただいま」の声がなくなった
それに馴れてきたころ
僕は少しだけ家族に優しくなれた気がした
歩きながら思い出す
昔、母と二人で歩いたことを
今僕は一人で歩いている
別段、夢や希望に満ちた幼少期だったとは思っていない
けれど、あの頃、母と歩いていた頃の僕は……
今僕が、僕を思い出していることを想像すらしていなかった
結局のところ、過ぎ去ってから始めて僕の中に記録されるのだろうさ
今日より明日は辛いだろうと僕は思う
そのときは是非、今ではなく、もっと昔の、今よりも輝いていた頃の僕を思い出してほしい
まぁ、全てはそのときの僕に任せるとしよう