第五話
那津美と雅彦達がまだガルムと戦闘中、華奈と渚の方はというと。
「はあー!」
華奈の雷を纏ったショートソードがガルムの体を電力で肉を焼きながら真っ二つに裂けたのだった。
肉塊となったガルムの体はすでに息絶えているというのに体内に残った電気によるものなのか時折ビクンッと動いている。
「さあ、次は来ないのかしら?」
ショートソードを正眼に構え、ガルムの方を見る華奈の顔には余裕の表情があった。初めの頃は数の不利さに少し慌てていたが今ではすっかり緊張すら解け、挑発するような口調ですらいる。
それもそうだろうすでに華奈はものの数分で4匹は倒しているのだ。ガルムも恐怖で逃げ出したかったがこの砂漠の中、次の獲物がいつ現れるかわからないのだ。ここで餌を手に入れられればしばらくは持ちこたえられるのだ。そのためガルムは華奈と恐怖そして空腹と戦いながら今この場にいる。
しかし、覚悟を決めていてもこの状況が変わるわけではないガルムたちはただ立ちすくむしかないのだった。
「ふー、やっぱり来ないわね。しかも逃げないなんて。そんなにお腹減ってたのかしら?」
そんなガルムの心情を知らない華奈は呑気なことをいうのであった。
「それより渚の方が心配だわ。さっさと倒して渚の応援に行かなきゃ。」
そしてついに告げられた死刑宣告。
言葉のわからないガルムたちは言葉でなく雰囲気で華奈が動き出すことを察していつでも動けるよう構えを取る。
構えを取ったガルムを見て華奈は走り出す。
「ごめんね。私たちもまだ死ぬわけにはいかないの。」
わかるはずのない言葉でガルムに語りかけ、ショートソードを振るり下ろす。
その一撃をガルムは横に避ける。振り下ろした状態の華奈に他のガルムが牙で噛み殺そうとする。
しかし....
「ハア!」
華奈はショートソードを握っていないもう片方の手をガルムに向けるとその手に雷を集めると小さな雷の球体を創り放出させる。
「ガウゥ!?」
見事ガルムに命中させた雷球だったが倒すには至らず傷は負ったもののバックステップで距離をとる。
「(やっぱり左手で雷を操ると威力が足りない。)」
心の中で呟くがすぐに意識を元に戻す。先ほどのガルムは先の攻撃で痺れているのかしばらく動けそうになく代わりに他の二匹が前に出て華奈を倒そうと走り出す。
先ほどの走り以上に素早い動きに加え時折ジグザグ走り攻撃のタイミングをずらそうとする走りを見せてきた。先までとは違う戦法に惑わされそうになるが。
「それでも!先輩たちのフェイントの方がよっぽどわかりずらかった!」
咆哮と共に放たれた華奈の一閃。その先にはまさに攻撃モーションに入り、口を開き華奈の喉笛を食いちぎろうとしているガルムの姿があった。さすがに攻撃をやめようにも完全にタイミングよく狙われたためもう止めることも出来ない。そのまま熱したナイフでバターを斬るかのようにガルムはきれいに真っ二つになったのだった。
「ガウ!!」
そこに仇をとるためガルムが爪で華奈を攻撃する。これにはさすがの華奈もタイミングが悪く、カウンターも間に合わず回避に移る。
だが完全には避けきれず、横腹に少し傷を作ってしまう。
しかし傷を負ったのは華奈だけではなく。
「きゃうん!!」
華奈が纏っている雷の衣の電圧で体に電流が流れダメージを負う。ダメージと感電しているその瞬間を華奈は見逃さず袈裟斬りでガルムを倒す。
「あともう一匹。」
そう言いつつ周りを見渡す華奈であったが残りの一匹の姿はどこにもなかった。
「逃げたのかしら?でも浅い傷とはいえあれだけの電流を流されたんだから長くは持たないはずだけど。」
暫しの間考えてはみたものの答えは出ず頭を振って頭の奥底に追いやることにした。それよりも....
「それよりも待ってて渚今から行くから。」
視線の先には珠美のサポートを受けていまだ戦う幼馴染に姿があった。
華奈が戦い始めた少し後に渚の戦いも始まった。
渚のところにはガルムが七体確認できた。雅彦と那津美の方に八匹いて、華奈の方に七匹行ったことを知っているので目の前のガルムは七体いることになる。
正直能力のわからない自分が珠美のサポートがあるとはいえ楽に倒せるかといえば正直に言ってそうではない。やはり能力のあるなしでは大きな違いがあるのは今まで「失楽園」で訓練をしてきて身に染みてわかっている。なんせ元が神様の力である。自分は仲間たちが他の能力者たちと稽古する姿しか見ていないのでわからない部分もあったがそれでも自分は他の仲間の足を引っ張っていると思い焦りを感じていた。そんな自分に出来る最大の努力、それは剣の修行であった。
先輩の中には能力者じゃない人もいるわけなので共に素振りから始まり筋力トレーニング、稽古ととにかく体を鍛えては実戦形式に近い形で稽古をして経験を積んでいったのである。
稽古をつけてくれた稽古を無駄にしないため渚は今も剣を振るっている。
「くっ!」
しかし実戦に近い稽古を受けたといっても相手は人間でしかも二足歩行の相手である。渚が今戦っているガルムは四足歩行で人間とは違い体長が低い。さらに言えば武器が木剣ではなく牙や爪であるため対処の仕方が変わってくる。他の皆は火力でごり押しで行けたが渚は違う。筋力や体力は一般人よりあるだけだし剣の腕前もまだまだ未熟なところがある。そんな渚に三匹のガルムが前と左右から時間差で攻撃してきた。一番近いのは前から襲ってくるガルムでジャンプして渚の頭を噛もうとしてくる。右のガルムは渚の右手を狙い篭手ごと右手に噛みつき武器封じを狙ってきている。左からくるガルムは左足を狙い動けなくさせようと迫ってくる。どれかを選ぶと何かを失うそんな状況で渚の後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。
「ショット」
短いしかし確かな意思の強さを滲ませ渚に迫るガルムのうち左右のガルムが水の球体に当たり吹っ飛んでいく。
そのことを瞬時に理解しすでにジャンプしているガルムに向かいながらすれ違いざまに敵を斬る。
「ありがとう。珠美助かった。」
「うむ、苦しゅうない。でもお礼はこの戦いが....終わってから。」
「そうだな。すまないがまたサポート頼む!」
「了解。」
珠美の返事を聞き、今度は渚の方からガルムの方へと走り出す。
そんな渚にまた三匹のガルムが走り出すがその瞬間今度は三匹とも珠美の水球が命中し吹っ飛んでいく。
「はあ!」
まず渚が狙ったのは先ほど渚の左足を狙おうとしたガルムを攻撃した。頭の上あたりまでに振り上げた剣を今度は振り上げる速度以上の速さで振り下ろす。しかし攻撃は避けられ空振りに終わり剣先は砂漠を割くだけだった。その隙だらけの渚をガルムが牙で攻撃しようとした瞬間、渚は振り下ろしていた剣を横に寝かし迫るガルムの頭を逆袈裟斬りで斬り殺す。
他に迫るガルムは逐一珠美が水球で吹き飛ばす。
そして態勢を整える前にさらに一匹を唐竹割りで仕留める。
「やっとあと四匹か。」
「大丈夫。たぶんもう少しで....華奈ちゃんがやってくるはず。」
「それまで持ちこたえろってことか。これは王子役失格だな。」
「なんかその言葉....金山君が言いそうだから嫌。」
「だな。なんか俺らしくない発言だったかな?」
三匹も殺されたからか。ガルムの方も一筋縄じゃいかないと分かり、こちらの様子を窺い始めた。
その間に渚たちも軽い会話を挟みクールダウンをして次の行動に移る。
「さてさっきはそっちから来てたんだ。今度はこっちから行かせてもらう!」
剣の剣先を右膝前にまで下げると渚はガルムの群れへとかけ始める。
向かってくる渚を見てガルムたちは警戒しながら陣形を整える。
まず初めに正面から来たガルムが口を開け攻撃してきた。
「もうだいぶそういう単調な攻撃にも慣れてきたんだよ!」
いうや否や渚はガルムの攻撃をさらりと避ける。しかし避けた先には別のガルムがいてすぐそばまで迫っていた。それでも渚は焦った様子もなくそのまま剣を振り上げる。
「ギャウ!」
胴体を真っ二つにされ倒れるガルムを一瞥し先ほど攻撃してきたガルムの方へと方向転換して剣を片手に持ち替え方より少し下あたりにまで持ってきて剣先を前方に向ける。
そこにはちょうど攻撃するためジャンプして迫るガルムの姿がありそのまま渚は剣を前方へと思い切り突く。
「.....っ」
苦しみの声を上げることなく眉間に剣を突き刺され絶命したガルムを確認すると渚は剣を抜き血のりを飛ばして他の二匹に目を向ける。
するとそこに他の二匹が渚めがけ迫りくるところであった。二匹は左右からやってきて渚の行動にすぐ対応できるよう駆けてくる。
そこに珠美の水球が一匹に当たりその向こう側にいたガルムも巻き込みながら吹き飛ばす。
「ありがとう珠美、助かった。」
「ブイ。」
ちらりと珠美の方へと視線を向けるとこちらに向けてブイサインをしている姿があった。その姿に心癒されながら渚は起き上がろうとするガルムに近づく。
剣を両手に持って振り上げると起き上がったばかりのガルムへと振り下ろす。そのガルムは僅かに避ける素振りをしたが避けきれず倒される。
もう一匹にも攻撃しようとした瞬間、渚の体に衝撃が襲う。次に背中から衝撃を感じたことから誰かに押し倒されたらしいということだった。もちろんその相手はガルムでようやく捕らえた獲物に歓喜の顔色が見て取れる。
そこに珠美の水球がガルムめがけて飛んできた。
「(よし、こいつが避けた瞬間に攻撃を....)」
そう思った瞬間、渚は突然襲った浮遊感に疑問を感じたと同時に。
「ガア!?」
体を襲う強烈な痛み、そして濡れた自身の体。痛みに耐えつつ何が起こったのか状況を確認するため、いまだ霞む視界を彷徨えさせるとまず初めに驚きの表情を浮かべる珠美の姿があり次に自身を持ち上げているガルムの姿があった。
「(持ち上げる?)」
その考えに至ってようやく理解した。こいつは珠美の攻撃に察知して俺を盾にしたのだと。
「(まずい、これで珠美は攻撃できない。)」
今俺はガルムに豪具の一部を咥えて持ち上げられている状態なので珠美が俺ごと水球で吹き飛ばせばもしかしたら俺は解放されるかもしないが珠美はそういったことはしないはずである。
しかもさっきの水球の衝撃で思わず武器を手放してしまったらしく手元には武器がなかった。
現状万事休すとそう思った刹那。
「渚くんを放しなさい!」
聞きなれた幼馴染の声が聞こえたのと同時に俺は地面に投げ出されたのであった。