第四話
「希望なき世界」の西に広がる砂漠は「失楽園」にある高い建物から見ても先が見えないほど広大である。
しかも砂漠ということもあり砂漠の気温と日光による相乗効果でさらに暑いことこの上なかった。
そんな動物すら生きていくのに苦労するような暑さの中、渚たちの歩くペースは砂漠地帯に入り始めたころと変わらないペースで進んでいた。なぜなら。
「いやー、美和がいてくれて助かったぜ。」
「本当ね。珠美さんがいてくれなかったら私たちすぐにでも東の方に行っていたかもしれないわね。」
「どんと私を頼りなさい。」
那津美、華奈の言葉を聞きドヤ顔をしながら能力を発動して周りに展開していた。
珠美の能力は水や氷を操る能力のため、このように暑い地域では自分たちの周りに冷たい水を霧状にして展開しクーラーのような快適さで過ごすことが可能である。ただし能力は一種の体力勝負なので体力がなくなると同時にこの快適空間も消失してしまう。さらに言えばこのような砂漠の地でオアシスを見つけることが出来るかどうかもわからない状態なので水を創るのも珠美の仕事になる。そのため、度々能力を止め暑さに耐えながら進むこともしばしばあったのである。
「大変になったら言ってね?珠美ばかりに負担はかけられないから。」
「そうだよ珠美。いざとなったら私の風で皆を涼ませてあげるから!」
「いや、熱風で逆に体力削られるだろ!」
「うっさいわよ、雅彦!珠美に不安要素を与えないの!」
「だな。雅彦ももう少し周りの空気を読めるようになってくれ。」
「ぐっ悪かったよ。今度はちゃんと空気読んでみせるよ。」
珠美に気を使うように雑談をして適度に緊張をほぐす。いまだにここは砂漠であり敵がいつ出てくるかわからない状態なのであまりはしゃげないがそれでも雑談を交えて楽しみながら先に進んでいっていた。
「失楽園」から砂漠地帯を歩き始めて3時間ほどが経過したときだった。
不意に那津美が足を止めあたりを警戒し始めた。
「どうしたの、椎菜さん。」
「周りのの空気の動きがおかしい。魔物に囲まれてるっぽい。」
那津美の言葉に皆が緊張をする。
そんな皆を無視し那津美は意識を周囲へと向ける。
那津美の風を操る能力は戦闘でのサポートでも使えるが今回のように気配というのか生き物が動くときに生じる空気の流れを感じ取り察知することも可能なのである。
なので那津美のような存在がいればそれだけで生存確率は上がるのである。もしいなければ最悪この場でまんまと奇襲にあい、魔物たちの餌となっていただろう。
「またガルムっぽいけど数が20匹はいそう。」
「20匹か、思いのほか多いな。」
意識を再びこちらに戻した那津美の報告を受け渚は若干渋い顔をする。
前衛5人の後衛2人に対しあちらは20匹ほど、前衛が5匹相手をしなくてはならないとなると先ほどのような快勝とはいかないだろう。
例え華奈や雅彦のように雷や炎の防御膜を持っていようが魔物たちは生きるために必死になって攻撃してくる。それは先の戦いで経験した。なので防御膜による牽制は1回か2回が限度で後は爪や牙が黒こげになろうが襲ってくるだろう。だがこちらもそれは同じで武器がなくなろうが生きるために拳で戦う覚悟だってあるのだから。
「渚、相手が多かろうが今は戦うしかないだろ。」
「だな、皆戦闘態勢!巌は敵が一斉にやってこないよう。壁を作って時間を稼いでくれ!」
「わかった!」
「皆、ガルムたちが動き出した。来るよ!」
那津美の言葉と共に砂丘の向こうからガルムが現れる。
ガルムの見た目は狼に近いという他に色が黄土色であり爪よりも牙が発達した生き物で爪による攻撃よりも牙による攻撃を好む。
今、渚たちの状態は真ん中に巌と珠美がいて巌の右に雅彦、左に那津美がいて珠美の右に渚、左に華奈がいる状態である。
ガルムたちの方は雅彦と那津美の方に8匹来ており、渚と華奈の方に14匹も来ていた。那津美の予想よりも2匹多いことになった。
「でりゃあー!」
「はあ!」
まず始めに戦闘を開始したのは雅彦と那津美の二人だった。雅彦の炎を纏った鎚がガルムに迫るがガルムはその攻撃を易々と避ける。そこに違うガルムがやってきてその牙で雅彦を食い殺そうとするまさにその瞬間。
「やらせないよ!」
巌の声が聞こえたのと同時に雅彦を襲おうとしたガルムは地面から突如現れた土の杭により腹から背中にかけて貫かれたのであった。突如現れた土の杭と仲間の死に僅かにガルムたちの動きが鈍る。それを見逃す雅彦ではなく構えなおした鎚で近くにいたガルムを叩き潰す。
「まず一匹!」
一匹殺したからと言って雅彦は油断せず次の獲物へと意識を向ける。
ガルムたちも新たな仲間の死を認識し先ほどよりも警戒心を上げこちらの出方を窺っている。
「なんだ、仲間が死んで怖気づいたか?ならこっちから行かせてもらうぜ!」
自分を鼓舞する意味を込め声高々に宣言し残りのガルムを倒すため自ら攻めに行くのだった。
「おーりゃー!」
砂の上を走りながら雅彦は鎚を振り上げいつでも攻撃できるようにしながら二匹のガルムへと向かう。
ガルムは左右に分かれ、どちらかを狙ったとしても背後から攻撃できるよう距離をとる。
「へ、なめんなよ。こちとら鈍い自分の攻撃モーションの弱点くらいわかってるつうの。」
いうや否や雅彦はガルムに近づき振り下ろそうとする。
するとガルムは振り下ろされる前に雅彦を仕留めようというのか逆に自分から突っ込んできたのだった。
「へ、なんだこんじょうあるじゃねーか。だがそれは悪手だったぜ?」
そういった瞬間、雅彦の鎚の後方からロケットブースターのように火が噴き出て振り下ろす速さが上がる。
そのため....
ズドン!!
砂漠に小さなクレーターができるほどの威力が砂の上に叩きつけられたのだった。
そんな雅彦の背後から仲間の死に怒りを露わにしたガルムが雅彦の首を噛み千切らんと食らいつこうとした瞬間。
「サンキュー巌。最後の最後でまた助けられたな。」
「もう、ヒヤヒヤさせないでよ。僕もいつでも助けられる状況じゃないんだから。」
「ああ、悪かった。説教はこの戦闘が終わってからにしてくれ。」
そう巌とのやり取りをしている雅彦の近くには雅彦自身が倒したガルムのほかに巌の能力で土の杭で串刺しにされたガルムの姿があったのだった。
「てやー!」
雅彦がまだ戦っている一方、那津美の方はというと雅彦ほど危ない場面は少なかった。
槍という中距離の武器ゆえ近くまで来られたら普通は死を意識するが那津美は違った。例え槍の範囲より内に来ようが那津美は風の能力で敵の空気抵抗を上げ自身は下げることで敵との行動時間に余裕を作ることで楽に敵との距離を作り、かつ槍の攻撃範囲で仕留めるということをやっていた。そのため、初めは4匹いたガルムもすでに2匹しかおらずガルムの方も先に仲間の死にざまを見て知っているため迂闊に近づくことが出来ないでいた。
そうガルムの方は
「なーに?そんな怖がってないでさっさと襲ってきなさいよ。さっきまでの威勢はどうしたの?」
挑発する那津美だが相手は魔物、人の言葉など理解するはずもない。例え理解しようがそれで攻めてくる奴はただの自殺祈願者だろう。ゆえ、ガルムは動くことなく様子を窺っていたがそのとき二匹のガルムの後ろ足あたりの地面が盛り上がり砂丘を作り始めたのである。
この現象にガルムは反応が出来ず足を砂の砂丘の傾斜でバランスを崩し那津美のいる方へと進んでしまう。
「巌ったらエグイわね。逃がしませんてこと?」
そう言いながら那津美は武器を構え慌ててるガルムに向かって武器を振るう。
那津美の武器が一匹目のガルムの頭を斬り飛ばし勢い変わらずニ匹目も抵抗する間もなく命を散らすのだった。
戦闘シーンはいかがだったでしょうか?戦闘シーンは書いていて楽しかったのでいつもより多い文章になっていましたが作者といてはもうちょっとセリフが多くてもよかったようなといったところがありますね。あとはもうちょっと戦闘描写をうまく説明できればよかったなというのが一番思ったことです。
それでは今回はこれで。