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新年度

暗闇に立っていた。

手を伸ばしてみても、何かにあたる気配はない。

足元を見ると、見覚えのある、仕事道具達。


聴診器、注射器、メモ帳、体温計。

何故散らばっているのか。


面倒だな、と思いながら私は、それらを拾い上げようとした。


ふと、誰かに呼ばれた気がして、振り返った。



ーけたたましい音を立てて、目覚まし時計がなる。それを止め、窓から差し込む光に顔をしかめた。

「夢か・・・」独り言を吐き出し、時計を確認する。

いつもどおりの朝。いつもどおりの時間。

そしてとれない倦怠感。

頭の中で、本当に今日は日勤だったか自問自答してみるが、答えは疑い様もなく「YES」だ。


「今日から新年度、か。」

正直、自分には全く関係ないが、春は嫌いじゃない。

怠さの残る身体を起こし、何とかベッドからキッチンへたどり着く。

グラスにミネラルウォーターをつぎ一息で飲み干すと、身体の中に透明な冷たさを感じた。


「今日も仕事か。行きたくないな。」

今の時間、全国の労働者が感じているだろう事だ。

ふと思い出し都会で働く、通勤に二時間以上かかり自分よりも遥かに早起きな方々に同情した。


朝食は取らない派であるが、代わりに見慣れた錠剤をシートから取り出す。

薬袋を一瞥し朝に内服するものであること、錠数を声に出して確認した。

これも、職業病だろうか。


看護師になるまでは、食事を取らなければ薬は飲んではいけないものだと思っていたが、一部を除き定期薬というものは、決められた回数飲まなければならないらしい。

今では、自分と同じ勘違いをし、飲むのを拒否された日には、胸の奥にもやっとするものを感じる嫌な奴になってしまった。


「行きたくないなー・・・」

ふと勤務のメンバーを思い出し頭が痛くなる。

行きたくないで行かなくて良いものなら、是非辞退したいが、そんなことをしたらどうなるか、考えたくもない。

急に仕事に来なくなり、そのまま退職する人も稀にいるが、私は尊敬の意を示したい。

なんて、勇気ある行動なのかと。


一通りの身支度を終え、ソファーに投げていたジーンズと長袖のTシャツ。上からジャケットを羽織った。

どうせ着いたらすぐに着替えるのだ。

職場までは徒歩5分。その間の服なんて、誰も目にとめないだろう。


時計を確認。7時40分。

通勤バッグを手にとり、誰もいない部屋に向かって

「いってきます」とつぶやき、私は春の匂いがする現実へと歩き出した。

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