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君がいるから  作者: 智遊
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走ってでも手に入れたいもの(水戸愛華)

なんでどうして、体調が悪いとは聞いていたけど静養に出ないといけないほどなの?そこまで悪かったっていうの?なんでそんなに辛かったなら教えてくれなかったの?

水戸様と呼ばれるたび、瀞さんとの距離が遠いことに気づかされて、それでも一緒に過ごすことで少しずつ近づいたと思っていた。

それじゃあダメだったの?



※※※※



夏休みが始まってすぐ、皆でショッピングして遊んで、皆でどれだけ海に行けるかとか、ペンション行けるかとか話をしていて。

相澤くんのマンションに戻ったら、いつも笑顔で迎えいれてくれる瀞さんはいなかった。

その代わり、瀞さんをもっとキャリアウーマンみたいなステキな女性にしたかんじの女性が迎えいれてくれた。

瀞さんのお母さんらしい。初めて瀞さんのお母さんをみた。

だって瀞さんが事故にあったとき、相澤くんのご両親と瀞さんのお父さんは病院でお会いしたのだけれど、ついにお母さんにお会いすることはなかったから。美人さんよ美人さん!

少しテンションが上がって莉子を見ると、莉子も私をチラ見していた。これは、莉子もテンションが上がっている。

けれど、沙穂のほうを見てビックリした。

沙穂が相澤くんの後ろに回ってそっと肩を支えているのだから。その相澤くんは、どんどんその顔を蒼白にしていった。


「亜希さん、お久しぶりです。瀞は?」

「娘は、体調を崩しまして静養に出しております。本日は私が身の回りのお世話をさせていただき、明日より久保田が参ります。さあ、お連れ様もお暑いでしょう。中にお入りくださいませ」


丁寧に中を指して中に入るように促す瀞さんのお母さん。けれど、その目は全く笑ってなくて、麻人くんが沙穂に代わって相澤くんを支える。麻人くんの表情が訝しげ。


「……亜希さん、瀞は戻ってこないの?」

「静養が長引けばあるいは」


その言葉は至って簡単だった。あるいは、とは言っているけれど、それは肯定ととっていいんだとおもう。


「亜希さん、瀞はどこが悪いんだ?」


横から麻人くんが割って入った。


「如月様、ご無沙汰をしておりました。娘は、しばらく体調を崩しておりまして、恭弥様はもちろん如月の若様に感染してはならないと判断いたしまして静養にだしました」

「じゃあ新しいお付きいれるほどでもねえだろ。少し休んだら帰ってくるんだろ?実家もどりゃいいんだな」

「いいえ。静養がどのくらい必要かわかりませんので、新しいお側付きをとの相澤の方針でございます」


訳がわからない私たちを置いて、麻人くんが亜希さんと話し出す。けれど、私には瀞さんが二度と戻ってくることはないという風に聞こえた。


「麻人くん、瀞さん、戻ってこないってこと?」


思わず聞くと、麻人くんは私の顔を見なかった。それが答えなのはすぐにわかった。


「瀞にあわせて」


ポツリと相澤くん。亜希さんは首を横に振っていけませんとだけ答えた。



※※※※



だれか知らないだろうか。だれか瀞さんがいなくならないといけない理由を知らないだろうか。今、どんな体調で一人で堪えてるのか知ってる人はいないだろうか。

事故の後遺症なのだろうか。別の病気なのだろうか。

あれから寮に戻って階段を上がっていたら、明智さんとバッタリ会った。


「あ、明智さん、寮にご用事ですか?」

「お友達のところにお茶に招かれてましたの」


明智さんはおっとりと微笑んでくれた。

去年は、私に厳しく色んなことを注意してくれた明智さん。それが本当に私のためだったのだけれど、そんなことを気づかずに傷つけてしまった人。今では、会ったら話しをしてくれるようになったけれど、本当に素敵な人の一人だった。

明智さんは、麻人くんみたいにマンションななの住んでるのだけど、今日みたいに寮のお友達のところに遊びに行くこともある。


「あら?櫻井さんと遠見さんは?」

「あー、あの二人は……今、麻人くんの部屋にいて……」


相澤くんを励ましているのだけど。

そんなことは言えないし。


「珍しいこと。水戸さんだけ戻っていらしたの?」

「あ、そうです!あたしの部屋にあるカモミールで気持ちを落ち着かせようってことになって」

「カモミール?ハーブティーかしら。でも、相澤くんはカモミールお嫌いだからあまりお勧めしないけれど……相澤くんはいらっしゃらないのかしら」

「え⁉︎そうなんですか?」

「ええ。保月さんはなにも言ってなかったかしら」


あ……

瀞さんの名前が出てあからさまに動揺した自分がいた。その動揺は、明智さんも気付いたらしい。


「保月さん、がどうかなさったの」

「あ、と、ええと」

「おっしゃって」


明智さんの瞳が真剣味を帯びる。威圧感というのだろうか。

そういえば。明智さんと保月さんは仲が良かったな、と思い出した。二人は出会うたびに芝居がかった様子で抱き合ったり、気がつけば二人で談笑してたりしていた気がする。

なにか、保月さんから聞いてないだろうか。


「この前の事故でどうも身体が不調みたいで、今日から静養にでたみたいなんです」

「静養?いつまでですの」

「瀞さんのお母様いわく、身体がよくなるまでって。でも、相澤くんは戻ってこないかもって言ってて」

「体調不良は事故のせい?」

「事故のせいじゃないのかって、皆で言ってるんですけど……理由は教えてもらえなくて」

「静養は長期なのね?戻らないかもしれないと言われたのね?」


明智さんが私の肩を掴む。その勢いにビックリすると、後ろにいた神南辺さんが慌てて「お嬢様!」とたしなめてくれた。

神南辺さんは同じ年の、明智さんのお付きだそうだ。


「ごめんなさい。でも、そうなのね?」

「なんか、瀞さんから聞いてませんでしたか?」

「そうね、相澤くんは相当ダメージをおってるでしょうし、お話してもいいかもしれませんね」

「何か知ってるんですか?」


明智さんは、口元に手をやって、それからゆっくり首を横に振った。神南辺さんも興味津々というふうに明智さんをみていた。そうか、神南辺さんは知らないのか。


「私は何も聞いてないの、ごめんなさいね。でも、なにがあったか予想はついているし、多分それが事実だとおもうわ」

「教えてください!」

「私は、本人から聞いてないから予想の段階でしかないわ。でもね、多分遠見さんはご存知よ。遠見さんにお聞きなさい。それでも、遠見さんが教えてくれなかったら私が予想をお話するわ」

「沙穂?がなんで」

「あら、だって体調悪そうにしている保月さんを一番気遣ってたのも、色々お話ししてたのも遠見さんじゃない」

「え」


気づかなかった。そうだったの?それならなんで教えてくれなかったんだろうか。


「あ、でもヒントさしあげるわ。遠見さんにこう言うといいと思うの」



『最近、保月さんふっくらしてきましたよね』


って。

それが一体なんだ。


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