出席or欠席
「保月、どうする?」
急に言われて私としたことが一瞬反応を返すことができませんでした。
皆様、こんにちわ。私の名前は保月瀞。今日も今日とて恭弥様のお側付きとして、紅茶とお菓子を皆さんの前にお出ししております。
いつもの温室、いつものメンバーでゆったりお茶の時間。本日も変わらぬ、
「保月?聞いてる?」
いけません、そのまま返事をするのを忘れておりました。
「申し訳ございません、恭弥様。どうする、とはなんのことでございますか」
「ああ、本当に聞いてなかったの。サマーパーティ、お前も出席する?って話しなんだけど」
ああ、お昼の江本の話しか。余計なことしてくれたな、あいつ。
「いえ、私は使用人なのでいつも通り、お部屋で恭弥様のお帰りをお待ちしております」
※※※※
恭弥様の元カノであり、現親衛隊のリーダーである明智様が走って私を呼びに来たのは、麻人様の彼女である水戸様、櫻井様、遠見様の四人でお弁当を広げ食べていたときのことでございました。
恭弥様からはお昼は別の人と食べるようにと言われておりますので、本日は水戸様たちとご一緒させて頂いていました。そこに息を切らして明智様が飛び込んでいらっしゃったのです。驚いた私はすぐに立ち上がって駆け寄りながら両手を軽くひろげました。
が、明智様は、私を見つけていたはずにも関わらず近くの木に寄りかかるようにぶつかり、……あれ?いつもなら明智様、私に縋り付いてさりげなく抱きつくはずなのに、どうなさったのでしょうか。
と思ったら、少し反動をつけて木から離れ私の手に縋り付いてこられました。
スカートと髪の翻り方といい、縋り付いてきたときの軽い上目遣いといい、ほんのり軽く香るお香(香水の香りではない。焚いたお香である)の香りといい。同性とはいえ、ぐっとくるものがあります。
本当にこのお二人なんで別れちゃったんですかね。もう一回くっつかないかな、とか出歯亀なことを一瞬考えたりいたします。
「明智様、どうなさったのです?なにかございましたか」
「保月さん、お願いよ。相澤くんの仲裁をしてちょうだい」
「恭弥様ですか?どちらで争いごとに」
こうしてはいられません。恭弥様が!恭弥様は力づくで解決を図るような方ではありませんが、相手が必ずしもそういう方とは限りません。恭弥様も武道などに通じてはいますが、もしも万が一お怪我をなさることがあれば気が気ではありません。
「お待ちになって。向かいながら発端を聞いてくださいませ」
確かに向かいながら聞いた方が早いかと思い、明智様の手をとり後ろを振り返った。
「皆様、お先に失礼させていただきます。申し訳ございませんが私の物はそちらに置いておいてください」
「ついて行く、瀞さん?」
「いいえ、水戸さま。男性の諍いの場に行くものではありません」
やんわりとたしなめておかないと、私ならともかく水戸様では、流れ弾なんかに当たったら大変ですからね。本当に銃なんて持ってはないでしょうが!
それから、明智様の足に合わせて少し早歩きで食堂にむかいました。
どうやら、ご飯を食べてすぐに動いたせいでしょうか。胃がムカムカして気持ち悪くなってきました。最近、身体の具合が悪くていけません。
「保月さんをサマーパーティに出席させたいのですって。それを相澤くんに絡んで一触即発になってますわ」
向かいながらそう簡単に説明を受け、小さく息を落とす。サマーパーティって再来週じゃないですか。
「サマーパーティに出席ですか。難しいですね」
「使用人だからかしら」
「それもありますけれど、私が出席したら女子生徒を独り占めいたしますよ」
「……そうですわね、あなたにはドレスを着るという選択肢はありませんの?」
「ございませんよ?ドレスなんか着てしまったら恭弥様を守れませんからね」
今でさえ、クラスでも女子に囲まれて(そりゃ、私も女子ですから女子にかこまれますよね)、男子たちに白い目で見られてるというのに、パーティに出て針の筵になんかなりたくないでしょう?まあ、それもまた嫉妬が気持ちいいんですけどね?
と、私たちは食堂のある校舎にあしを踏み入れようとした。
「保月さん」
明智様に呼ばれて振り返る。なんだろうか。
彼女は、頬に手を当てて首を傾げていた。
「あなたは思ったように行動していいのよ?」
「?」
なにを言われたか一瞬わからず、聞き返すこともできなかった。
「さあ、早く相澤くんのところに」
そう言われて、私は恭弥様の元に急いだ。胃がムカムカする。
※※※※
「そういえば、相澤くんもサマーパーティもウィンターパーティも出てなかったよね」
水戸様の言葉にふと現実に戻ってまいりました。
「ん?去年のこと?サマーパーティは最初の方は出てたよ。ウィンターパーティはでなかったけど」
恭弥様がそうお答えになると、水戸様は少し悲しそうな顔をされ
「今年のサマーパーティは一緒に出席しませんか」
水戸様、あなたの彼氏は恭弥様じゃありませんよー。隣にいる一瞬でふて腐れたお馬鹿王子ですよー。水戸様に文句すら言えないヘタレ王子め。
恭弥様も少し苦笑して、そういうことは麻人に言いなよって仰り、水戸様は気づいて真っ赤になって違うんですそういう意味じゃなくて!と必死に恥ずかしそうにのたうちまわっていらっしゃいました。
真っ赤な水戸様は可愛らしいけれど、お昼の恭弥様も可愛かった!
「だって、瀞。僕行くからついておいで」
「かしこまりました」
ということで、私もサマーパーティに出席ことが決定しました。
軽い上に早い決断だなあ、と思うことなかれ。恭弥様がいらっしゃるところ私はついていくだけでございます。
ところで麻人様。そんな嫌な顔しないでください。そんなに嫌ですか?私に愛華をとられることが。