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99、魔王殺しの剣 ~我らは一つ、勝利の剣~

「レレス! 状況は?」


 地上にいるレレスとログは、合間なく出現する悪魔の対処に手間取っていたが、そこに一人の少女の声が響いた。


 声こそ大きく出しているものの、その響きにはあまり焦りが感じられない。


「ソノラ、早かったですね。状況はご覧の通りですよ。三人ではとても対処できません」


 と言いつつ、先程からレレスは群がってくる悪魔の軍勢を範囲攻撃で振り払っている。黒い煙のようなものが周囲に広がり、それと同時に悪魔達が消失、あるいは吹き飛ばされるのだ。


「そんなこと言って、別に問題なさそうだよ?」


「量の問題です」


 ソノラと呼ばれた快活少女は辺りに湧き出る悪魔達には目もくれずに話を続ける。


「まあ、もうすぐ皆も来るから大丈夫!」


 目もくれずに、蹴り飛ばした。


 忍者のような鋭い足さばきで悪魔を蹴り飛ばした。


「またお前だけ先行して来たのか、ソノラ」


 一人黙々と大剣を振り回していたログは、平然とした顔で回転切りを行った後、会話に入ってきた。丁度三人が背中を合わせる位置取りにある。


「別に追い抜いてきたんじゃないよ? 急いできただけ」


「急いだくらいでシスマやクロイツに勝てる訳がないだろう」


「急いだだけだもん!」


 到着する順番について何やら揉め事のようであるが、会話の時間を悪魔が待ってくれるはずもなく、侵略は緩むことがない。







「待たせたな」


「うじゃうじゃしてるね、これは」


 戦闘の間にも会話を挟む程度の余裕はある三人(二人と一体?)であるが、そこに更なる増援と見られる人間がやってきた。


 人間とは言っても、普通の人間ではなかった。


 一人は、手足が鳥のそれのようになっている男。背中には羽がある。


 そしてもう一人は、手足こそ人間であるものの、背中に灰色の翼をもった少女だった。いわゆる、有翼人である。


「皆さん、やはり早いですね。実はもう近くにいたのでは?」


 レレスの素直な感心に、ソノラが少々固まる。


「……ソノラ、お前、急いだのではなく、偶々近くにいただけということか」


 レレスの言葉にログが賛同して指摘する。早いのは良いことであるはずなのだが、どうやらソノラという人物は負けず嫌いであるのかもしれない。


「た、たまたまだし! 別にレレスの様子が気になってついてきた訳じゃないし!」


 と思ったら、思わず自分で暴露していた。


 あまり頭脳で勝負するタイプではなさそうだ。


 しかし、そんな微笑ましい話題が続く中でも、悪魔達の量は増える一方である。








「到着である、ククッ」


「ごめん、ちょっと時間かかっちゃった」


「オマタセシマシタ」


 続けて増援三人が到着する。


 いや、この場合も、三人とは言えないかもしれない。


 何故なら、人間の形をしているのは一人だけだったからだ。


 優しそうな顔をしている巨漢か一名。


「ククッ」という不気味な鳴き声をする生命体が一名。顔は骸骨のようで、他の部分は鳥、しかし全体的なバランスは人間と四本脚の動物の中間くらいという、何とも奇怪な生き物だ。


 そして片言のロボットが一名。この世界に似合わず、金属系の素材でできている機械仕掛けの生き物(?)だった。








「……どうも」


「調子はどうだい?」


 さらに増援が二人。


 片方はジトッとした目を向ける少女。貴族風の服を纏っていて、髪を二つに縛っている。この中では――外見的には――ログという少年の次に年少であるように見える。


 もう片方は、レレスや奇怪な生き物とは別の意味で怪しかった。


 姿は人間、それも女性のようであるけれど、フードを深く被っていて顔が見えないのである。さながら物語に登場する魔女のようだ。ただしレレスとは違いその黒いローブから僅かに見える足はしっかりと地面についているので、人間であることは間違いない。


「ばっちりだね! これで全員揃った!」






          ――――――――――★――――――――――





 

「誰かしら……?」


 その集合の様子を見て、白邪はふと呟く。


 この距離では、白邪の方からもレレス達の姿は見えないし、レレス達の方からも白邪の顔は見えない。そもそも宙に浮かぶ黒い渦の中に人がいるなどとは誰も思っていないだろう。


 実の所、白邪の力をもってすれば今地上にいる者達の詳細を知ることはできる。しかし白邪はそれをしなかった。しても無意味だからである。


 彼女が欲しているのは綺慧瑠のみ。後のことは、どうでも良かった。


「まあいいわ。もっと、もっと増えなさい――」


 雑念を振り払って、白邪は両手を広げる。


 ああ、地上に広がるは悪魔の軍勢。


 今こそ、世界を破滅へと導く時。


 異世界など知ったものか。


「綺慧瑠君、待っていて――」


 会いに行きたい。


 愛に生きたい。


 白邪の願いは、ここまでひたすらに空回りを続け、その度に苦渋の思いを胸に刻み込んできた。


 そしてその度に、彼への愛を確信する。


 だから、もう一度。


「――――っ!?」


 その時、白邪は急に胸を押さえた。






          ――――――――――★――――――――――






「さて、全員揃ったことだし、いっちょ大掃除行きますか!」


「ソノラはまず自室の大掃除からでしょ」


 ソノラの声に、有翼人の少女がツッコミを入れる。


「い、今はそんなことはいいの!」


「せっかくの仕切り直しが台無し」


 その声は静かな少女によるものだった。


 そう、ソノラは仕切ろうとしたのだ。


 全員揃った所で、ここはいっちょ、と。




「ソノラの空回りは、今に始まったことではない」


「元気が良いな」


「お調子者、の間違いだろう? ケケッ」


「それがソノラの良い所さ」


「そうですね、少々雑な所もありますが」


「あんまりソノラの悪口を言うものじゃないよ」


「マイマスターハテンションガタカイ」


 続けて、重装少年、鳥人、怪物、魔女、レレス、優男、ロボットがソノラに対して一言を加える。


「もう! 皆後で憶えてなさい! ケーキ奢らせてやるんだから!」


「甘いものは控えるのではなかったのですか?」


「うっさいレレス!」


「……随分酷い扱いですね」


 さして気にした様子もない一行。


 皆、上空を見上げた。


 一つの暗雲を中心に振り撒かれる異形の悪魔達。


 この場にいるのは十名。


 どうやって対処すると言うのか。


「はいはい、もう一回仕切り直し!」


 しかし彼女達にそのような懸念の表情は見られない。


 皆、平静である。


「よし! じゃあ行くよ!」


 皆の目が光る。


 鋭く、光る。


 雨の降る中でさえ、その一つひとつの輝きは失われない。それどころか、その輝きは豪雨の灰色にさえ負けずに増していた。


 そして、ソノラがにやりと笑う。






「心に聳える一つの剣! 我らは一つ、勝利の剣! 『魔王殺しの剣サタナクルス・グラディウス』、出撃っ!」




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