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95、災禍の神獣大会 ~実に美しい~

「ふふふ……『コロジウム』か……久しぶりに来たな……」


 その男は歪な威圧感を放ちながら、街を歩いていた。


 街中を、堂々と。


 歩いていた。


『神獣大会』の開かれているこの街では、その周辺の道が混雑する代わりに、王都の端の方は人が激減するのだった。


 王都は広い為、『神獣大会』見学の為に王都の人間が宿を借りる、ということも頻繁に起きる。故に現在、彼の歩く場所に、人は殆どいなかった。


 だが、殆どいないのであって、ゼロではない。


 しかしその僅かな人間も、彼の放つ只ならぬオーラによって身を隠していた。彼のことを知っているかどうかに関わらず、人々はその放たれる気迫に、完全にやられていた。


「弱者よ……そのまま這いつくばっているがよい……惨めにのたうち回り、恐怖におびえながら、終焉の刻を待つのだ……ふふふふふ……」


 大地を踏みしめるその足は帝王のそれに相応しく、ただの犯罪人という言葉では収まらない程の力が滲み出していた。







          ――――――――――★――――――――――






「ふう、ようやく休憩だな」


 同じく、王都『コロジウム』。すっかり捜索の気が失せた四人は最早遊び半分で旅まがいのことをしていた。


 国王にヘレヘス討伐の命を受けて歩いて来たのも忘れ、完全に観光気分である。


「おう、次はどこ行くよ?」


 王都内を散策していた四人。その中の海王が休憩という言葉を口にすると、四人とも道の脇に座り込んだのだが、西治はまだ観光する気満々であるらしく、早速次の行動を海王に尋ねている。


「何か人が少ないと思ったらさ。今この街で『神獣大会』っていう大規模な大会がやってるらしいんだ」


「おおっ、マジか!? それってバトルのやつか!?」


「うん。各地から武闘家達が集まる、結構有名な大会らしい」


「おっしゃ! それ見に行こうぜ! な、綾ちゃんも友ちゃんも、見たいだろ!?」


「女子はそういうの、あんまり興味ないんじゃないか……?」


 西治がノリノリであるのに対し、海王はあまり積極的ではないようだった。


「いいよ~ 何か面白そうだし~」


「それにほら、アタシ達だって一応戦わなくちゃいけない身だからさ! そういうのを見るのって、結構勉強になると思うんだよね!」


「そ、そうか。じゃあ、それを見に行ってみようかな」


 女子二人が意外にも積極的だったことを受けて、海王も行く気になったようである。海王も男であるから、元々は行きたかったのだろうが、チームの総意を優先する彼としては、あまり自分の欲を全面に押し出す訳にはいかなかったのかもしれない。


 西治は皆を引っ張る役。


 友理は皆を盛り上げる役。


 綾火は皆を繋げる役。


 海王は皆を纏める役。


 集団として、これ程までに整ったものはそうそうないはずであるけれど、それはあくまでも集団としての意味であり、戦闘集団としてのものではない。


 若者という観点からすれば、彼らは紛うこと無きリア充である。


 青春を謳歌せし者達である。


 しかし、この世界においては、そのぬるい意識こそが仇となる。





『魔王戦』開始まで あと 331日→330日







          ――――――――――★――――――――――







「何体、呼べるかしら……」


 ゆらゆらと体を揺らして、白邪は最後の準備に取り掛かる。


 積まれた枯れ木の山。


 苔の生えた岩。


 生物の残骸。


 そして、甘い、甘い、絶望。


「必要なものは、全て揃ったわ……」


 ざわざわと揺れる木は、存在しない。


 悲しげに泣く木々も、嘆く風も、存在しない。


 すっかり枯れてしまったその土地の真ん中に、白邪は一人、立ち尽くしていた。


 元々枯れていた大地が、更に枯れていく。


 無彩色が、無彩色で覆われていく。


 何度も、何度も。


 幾重にも、幾重にも。


 折り重なった魔法陣は次第にその存在感を示す。


 じわじわと大地が揺れ、光り輝く。


 淀んだ光が、辺りに広がっていく。


 風が、白邪の周りに吹き荒れる。


 一瞬前まで何も返事を返さなかった大地が、突如白邪を中心として唸り始める。


 大地だけではない。空までもが、白邪に呼応して無彩色に染まっていく。


 白邪は風に包まれ、次第に宙へと浮いていく。


 地面に描かれた魔法陣は浮かび上がり、地面に散乱した無彩色は散り始める。


 鈍い輝きを持ったその円は白邪を包み、更に上へと運んでいく。


 空。


 何もない空。


 空虚。


「ああ、美しい……」


 大空に浮かぶ白邪。


 その場所を中心に、黒い雲が広がっていく。


 邪悪な力が、解き放たれようとしている。






          ――――――――――★――――――――――






「まさか一日かかるとはな。王都も広いもんだ」


 一晩宿に泊まった彼らは、大闘技場の近くまで来ていた。流石にここまで来ると、辺りは人で埋め尽くされている。


「ああ、そうだな」


 海王は西治にそう返しながらも、栄えている街並みの様子を眺めていた。


「どうするん? もう始まってるみたいだけど」


「ああ、もう予選は終わったらしいな。さっき話してるのを聞いたよ」


「じゃあ丁度良い所って感じなのかな~」


「そうだね。混んでるけど、中に入ってみようか――」


 一日かけてきた王都中心部。


 人が沢山いる。


 だからこそ、波は早く伝わる。


 人がいればいるほど噂が伝染しやすいように、街中に人がいればいるほど、不穏な空気というものは伝わりやすくなる。


 しかしこの場合、その邪気が伝染するのに、人数は関係なかった。


「ぎゃああああああああっ!」


「な、何だ!?」


「きゃあああああああ!」


 最初に響いた男の声を始めとして、辺りで悲鳴が聞こえた。


 その発生源は――


「あ、あいつは……!」


「ふふふふふ。我が復活に相応しい舞台だ。『神獣大会』。懐かしいものだな。檻の中で蠢いていた絶望、吐き出すには絶好の場所であろう!」


 直後、風が周囲を薙いだ。


 戸惑う人々が一度に吹き飛ばされる。


 握られた拳に打たれた者は、その場でばたりと倒れる。


 殺戮。


「ああ、美しい。破壊の衝動は、実に美しい!」




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