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90、対話の神獣大会 ~ただ過ぎるんですけど~

「神獣大会も四日目! 予選、準決勝です! Aブロック、第三戦、一試合目は――おっと、これは期待の新人! あの『絶対怪力』を初戦で破ったニューカマーの再来です!」


 先に紹介された俺は、場内に入る。そうやってもてはやされると何だか萎縮してしまうな。


「対するは! またしても二つ名持ち! 『漆黒豹』、カイナ・ドグマティウス!」


 俺の時と同じくらいの歓声が上がった。


 ここの観客達は一体何に対してそんなに盛り上がっているのだろう。そこまではっちゃけられるのはある意味羨ましい。


 しかし、カイナもまた二つ名持ちだったとは。痛いとかそういうことは置いておいて、二つ名をつけられるくらいの実力者であるということは、『絶対怪力』と同じくらいかそれ以上の力を持っていると考えて間違いないはずだ。


 それにカイナは女なのでやはり戦いにくい――


「君が噂の新人さんか。なるほど、随分男前じゃないか。体つきは細いが、俊敏性がありそうだ。よろしく頼むよ」


 なんか、めっちゃ男前の人が出てきた。


 いや、外見が男前なのではない。


 外見はそれこそ、華奢で、しなやかで、強靭で、鋭く、女らしい。


 ナイスバディ? っていうのかな。全体的に超女性スタイルという訳でもないのだけれど、とにかく細くてしなやか。これは断言できる。


 だから見た目に関して言えば、俺をそのまま女にした感じである。


 ってそうではなく。


 俺が言いたかった「男前」というのは、その纏う雰囲気のことである。


 態度、あるいは発言。そういうものが、実にしっかりしていて、はっきりしている。男前。


 女性に使うのは少々失礼かもしれないが、その言葉がとてもよく似合う人であった。


「カイナさん、ね。これはまた随分美人さんだ。体も華奢で、素早そうだな」


「何か同じようなことを返された気分だ」


 俺の返答に、カイナはそう答えた。うん、まあ、狙いましたからね。そういう反応をしていただけるのはとても嬉しいですよ。


「あのサキとかいう少女から、君のことは聞いたよ。強者だってさ」


 俺は勝負の前のトークとして、そんなことを言ってみた。実際はサキからそんなことは聞かされていないのだけれど、その周りの人が何か色々言ってたから、まあいいだろ。


「ん? サキの知り合いか?」


 俺がサキの名前を出すと、案の定、カイナはそこに食いついてきた。自分の知らない人物が自分の知っている人物を知っている、という場合、大体それについて聞いてくるものである。


 だが、別にこの場合、俺は何らかの駆け引きをしている訳ではないので、そういう算段は全くの無意味である。


「いや、知り合いって程ではないよ。ただ、道端で君に間違われて襲われただけだ」


「そう、なのか? ああ、確かに少し似ているかもしれない」


 カイナの返答は実にあっさりとしている。おい、俺、君に間違われて襲われたんだよ? 別に君が悪い訳じゃないけどさ、何か全く悪びれないのもどうかと思うんだよね。


「うむ、自分に似ている人と戦うのってどんな気分だ?」


「……見た目は気にしたことがないな。戦い方が似ている者なら、ある程度は読みやすいのだが」


 俺が質問をすると、何かとっても実用的な答えが返ってきた。何だろう、このカイナとかいう女、超一流の武闘家か何かなのか? 二つ名も持ってることだし。


「なるほど、じゃあパッと見ただけでは、その人間の戦い方は分からないのか?」


 再び質問をする。


 彼女がどういう人物なのかということを把握するには、やはり質問が一番だ。それに、こういう類の質問をすれば、負けず嫌いかどうか、あるいは慎重かどうか、といったことが分かる。探りには良い手である。


「そうだな。ある程度の戦闘方針は分かるが、流石に戦い方の詳細までは分からない」


 しかしカイナの答えはこれまた実務的で、淡々としたものだった。何て言うか、クール?


「そうか。俺はそういうの、全然分からないからな。戦いの中で探っていくしかないんだよね。ほら、俺って新参者だから。君の戦い方とか知らないし」


 少し気取った言い方で言ってみた。何か俺って人と喋る時、ウザいキャラになりがちな気がするんだけど、大丈夫かな。元々コミュニケーションが苦手なものだから、ついつい挑発的なキャラになってしまうのかな。それとも最初からこんな性格だったのかな。


 ……深く考えるのはやめておこう。俺は純粋で控えめな人格者、ということで。


「私も君のスタイルは知らない。とは言っても、一、二戦目は見せてもらったからある程度は分かる」


「そっか、見られちゃったか」


 俺は全部見るのはダルいよな、と思って一部しか見てないから、カイナの試合も見ていない。だが別に、それで不利になるなどとは思っていない。何せ、元々俺はハンデを背負っているようなものなのだから。


え。何故かって? そりゃあれだよ、キャリアの違いだよ。俺はただの高校生から偽勇者に転職したばかりなのだから、戦いの経験とかほぼない訳で。


 だから『絶対怪力』に勝てたのは、本当にまぐれのようなもので、この戦いにおいて俺が勝てる可能性と言ったら、それは殆どゼロに近い。


 いや、分かってますよ? もしこれが俺を主人公とする物語なら、こんな所で負けてはいけないって。負けてはいけないし、負けないようにできてるって。


 でもさ、現実はそう甘くない訳よ。だから俺としては、もうここまででよく頑張ったかな、なんて思ったりもするんだけど。


 それでも、何故か。


 何故だかは分からないが、俺には妙に自信がある。根拠もない、架空の自信であるはずなのに、俺の心は不思議と、こんなにも穏やかだ。


 何故だろう。


「ああ、君も私の戦闘を見ていたのだろう?」


 一人脳内思考に走っていたら、カイナが聞き返してきた。


「まあね」


 そう軽く返す。実際は見ていないけれど、別に見ていないと言う理由もない。逆に、見ていないと言った場合、何だか言い訳っぽくなる気がする。だからこれで良い。


「見た目通りの戦い方、って感じだったかな」


 鎌をかけて言ってみた。彼女の身体的特徴はその身軽さにある。ならばそれを活用しようとするのは当然であるはずだ。


「そういう君も、随分遊撃的な動きをする」


 俺の感想に、カイナも一言返してくる。


 それにしても、また随分難しい言葉を使うな、この女。本当に何かの専門家なんじゃないの?


「私は、相手の実力を計るくらいのことはできるつもりだ。君は、ただ者ではないな」


 さらにもう一言、カイナが付け加えた。


 俺はただ者ではない、と。


 いやいや、マジでただの者ですけど。


 ただ過ぎるんですけど。


 アギルも俺に同じようなことを言っていたが、何だろう、俺が異世界人だからそう感じてしまうのだろうか。


 確かに異世界から来た人間ならただ者ではない感じがするよな。


 それとも、俺の偽る力故だろうか。


 まあ、それはどうでも良いな。


 実際に戦ってみて、ただ者であるのかないのか、決めてもらえば良い話だ。所詮人間の評価など、他者によって決められるものなのだから。


「ただ者でないのかどうかは、戦ってから決めてもらおうか」


「もうそのセリフがただ者ではないな」


 ふふっ、と小さく笑って、カイナが俺に答える。


 あれ、何か可愛いな。


 ますます戦いづらくなってしまったではないか。


 この女、超戦いにくい。


 まず、女であること。


 次に、可愛いということ。


 そして、俺に似ているということ。


 最後に、強いということ。


 いやあ、何て戦いにくい相手なんだ!


「そういう君も、ただ者ではないんだろ? あんまり知らないけど、二つ名持ちってことは少なくとも『絶対怪力』と同じくらいは強いってことだ」


 実際の所、『絶対怪力』がそこまで強かったかと聞かれれば、そうでもない気がするのだけれど、それでも一応奴は前回三位であるそうじゃないか。もしかしたら偶々俺との相性が悪かっただけなのかもしれないし。


「私をあの筋肉バカと一緒にしないでほしいな」


 仰天する返答が返ってきた。


 何だ? この女、いまいちキャラが掴めないぞ?


 そう言えば、サキの所のギルマスが何か言ってた気がする。


 カイナはあんまり態度が良くない、とか何とか。


「私は『絶対怪力』より強い。それは保障しよう」


 自信満々にカイナが言う。表情はクールなまま、言う。


 え、別に保障される意味はないと思うのですが。


「でも、『絶対怪力』は前回三位なんだろ? 相当強いんじゃないのか?」


 この少女、随分な自信家であるようだが、残念なことにそれが虚言だとは思えないのである。上手には言えないけれど、カイナには何か揺るぎないものがあるような気がする。


「去年の順位としては私の方が低かったが、トーナメントとは本来、最強を決めるものだ。一位以外の順位にさほど意味はない。それに、私のブロックには運の悪いことに『鉄人飛翔』がいたからな」


 少しも悔しそうな表情は見せないが、カイナの言っていることは何と言うか、負けず嫌いのセリフだった。


「なるほど、ということは、君は昨年その『鉄人飛翔』とかいう奴に負けたのか」


「まあ、そうだ。前回の覇者、『鉄人飛翔』。ああ、前々回も優勝だったな。強敵だ」


 セリフ的にはライバル視しているようなのだが、やはりというべきか表情に変化がない。あれかな、感情を表に出すのが苦手、みたいな。俺と同じだな。


「今回は優勝するつもりか?」


「今回は、ではなく、今回も、だ」


 細かい所に訂正を入れるカイナ。案外几帳面だったりするのかな。


「そうかい。じゃあ、こんな所で負ける訳にはいかないんだね」


「その通りだ。新人であろうと何であろうと関係ない。君が私の相手だというのなら、全力で戦うまでだ」


 正統派主人公のようなセリフを吐くカイナ。あんたは○ィン・シュ○ルツァーか。


「なるほど――ならば私は、全力を出さずに君に勝ってみせよう!」


 カイナさんがあまりにもやる気満々であったので、俺もつい乗ってしまった。


 いいだろう。君がそのつもりなら、『絶対怪力』と同じ様に、生半可な覚悟で打ち勝ってみせようではないか。


 この私の、紛い物の覚悟で!


「強者同士の会話は終了した模様です! それではこれより、第三戦を開始します! いざ尋常に! 始め!」




 ――どこの忍者だよ。



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