86、初戦の神獣大会 ~ただのガキだよ~
二時間後。
全部試合を見た方が良いのかどうなのか迷った俺であったが、どの人間も対戦する可能性があるので、一応見ておいた。
二試合目と三試合目も、見ておいたのだった。
一試合だけでは参加者の実力とか分からないし。自分は四試合目だからそれまでの間の時間でやれることなんて特にないし。
そんな訳で、別に対策を練るとかそういうことは考えていなかったけれど、試合を眺めていた。
まだ六人しかみていないから、それでもこの大会のレベルというのは正確に把握できるものではないけれど、次は自分の番である。
対戦者の名前はワルド・ゴーダルゴ。
随分ごつそうな名前である。一試合目のおっさん並のごつさ加減である。まだ本人を見てないから分からないけど。
初戦からごついおっさんと当たってしまうとは運がない。どうせなら可愛い子が良かったのに。(だから相手がごついかどうかは分からないのだが)
さて、そろそろ出番だ。
行くか。
「皆さん、休憩はよろしいでしょうか! それでは続いて、四戦目! 東側、何と今回が『神獣大会』初登場! その実力は謎に包まれているっ! A―8、キエル選手!」
熱血の司会者が俺のことを紹介する。おいおいやめてくれ。そんな高いテンションで紹介されたら変に期待させちゃうだろ。そして俺が緊張しちゃうだろ。
しかし観客の興奮は収まらないようで、甲高い声で叫んでいる。
「対する西側! おおっとこれは、四戦目にして早速二つ名持ちの登場だ!」
俺の紹介を済ませると、今度は相手に移った。
ん? 二つ名?
「前回堂々の三位! さあ、今回の大会では優勝なるか!? 『絶対怪力』、ワルド・ゴーダルゴ!」
司会者の紹介に応じて、反対側からごつい男が出てきた。
や、やっぱりごつかったか。
「今回の勝負は非常に面白いことになりそうです! 圧倒的実力を誇る『絶対怪力』相手に、未知の力を持つ新参がどう戦うのか!」
司会者の獣人と観客がその場の空気を作り上げている。
勝負の雰囲気を。
戦いの雰囲気を。
決闘の雰囲気を。
いや、でもね、そういうノリは確かに大事だと思うんだけどさ? ちょっと限度ってものがあるんじゃない?
俺、初心者よ? 相手、前回三位?
なめとんのか!?
俺、運悪すぎるのかなあ……
いきなり強敵と当たるとか、マジで神様何やってんの。
神様仕事しろ。
「それでは、位置について!」
え? 本当にやるの?
――でも、こういう時ってよく言うよね。
ここまで来たら、負けられないって。
こんな大衆に晒された状態で、大人しく負けていられるものか。
ごつ男に少年が負けるなんていう光景は、ある意味では当たり前のものなのかも知れないけれど、それでもさ、少年の方にもプライドというものがある訳じゃない。
人間誰しも負けるのは嫌だし、恥を晒すのも嫌だ。
勝ち誇りたいし、自慢したいし、認められたい。
人間とはそういう生き物である。
俺がこの大会にノリで参加したのも、少なからずそういう面があったのだろう。
自分の力を試したい。自分の力を知らしめたい。
元々そんなに持っていないくせに、考えることだけは一丁前の俺。
中身がない。
空っぽ。
空虚。
虚偽。
偽物。
紛い物。
ならば、俺にできることは一つである。
俺の決意が安っぽいものだと言うのなら、その安っぽさで倒してみせよう。
確固たる決意なくして、真の勇気なくして、勝負に勝ってみせようではないか。
安上がりの実力で負かされることの屈辱を味わうがいい。
「ガキか。まあ良い。初戦には丁度良いだろう。では――行くぞ!」
「偽者に負けることの恥辱を知るが良い――俺の実力、プライスレス」
勝負、開始。
「始め!」
開始、とは言っても、この勝負では魔法が使えない。
俺の最大の利点である「多彩さ」が、この戦いにおいては封じられているのだ。
俺からそれを取ったら何が残るというんだ。
うむ、自分で言って悲しくなってしまった。
そう、俺は元々ただのヘタレ高校生である。こんな重戦士と戦えと言われてもどうしたらいいものか。
先程は負けられないとか強がってしまったけれど、これ、マジで無理なんじゃないの?
「先手必勝っ!」
開始の合図と共に、ワルド、『絶対怪力』が俺に突進してくる。あ、そう言えばこのおっさん、ダルドのおっさんと名前が似てるな。
いやいや、今はそんなことを言っている場合ではない。
このおっさんは強敵なのだから、意味のないことを考えている暇ではないのである。
しかし、案外この『絶対怪力』は単純なのかもしれない。だって、ほら。最初から相手に突進って、割とシンプルな――
偽勇者の未来眼
シンプルなはずなのだが、俺は次に来るであろう動きに驚嘆してしまった。
未来眼の映し出した「先読み」では、なんと『絶対怪力』が俺の体と丁度重なっていたのだ。
つまりは、加速。
猛進してくる『絶対怪力』は、それでも見えない速度ではない。しかし未来眼によれば数瞬後には俺の立っている位置にいる。
故に、今避けなければ、やられる。
そう考えた俺は加速を意識しながら左横にひらりと動いた。
直後、俺のいた位置に暴風が巻き起こる。
そこには地面に拳を叩きつけた『絶対怪力』の姿があった。
そして地面に罅が入る。
おいおい、あんなの食らったら死んじゃうんじゃないの? 大丈夫なの?
「な、なんと! キエル選手、あの『絶対怪力』の初撃を躱しました!」
俺が仰天している中、司会者を中心に観衆が盛り上がる。戦っている本人は結構マジだっていうのに、お気楽なやつらだな。本当の命をかけてやっていた古代ローマの光景が目に浮かぶぜ。そりゃ剣奴に反乱されるよ。
「貴様、ただのガキではないな」
砂埃をまとった『絶対怪力』が俺の方は睨んでくる。拳はぐっと握りしめられていて、しかしながらその表情には一種の愉悦のようなものが浮かんでいた。
戦闘狂か。
この大会に出るくらいだから戦いが好きなのは当たり前だけど。
「ただのガキだよ」




