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85、観戦の神獣大会 ~油断は禁物、ということである~

 風はなく、砂埃は吹き荒れていない。


 降り注ぐ陽射しは戦士達の闘士を程良く刺激し、その炎をたぎらせている。


 極めて良好なコンディションだろう。


 クロスとかいう若者も、サザールとかいうごついおっさんも、これならお互いに全力で勝負できると思う。


 さて、どれくらい強いのだろうか。場合によっては予選内の準決勝で当たる可能性のある相手である。無論、俺が勝てればの話だ。


 筋肉が光を反射するごつ男と、何か顔がウザい金髪の男。


 こいつらの一騎打ちが始まる。


 ごついやつが持っている武器は斧のような形状をしている。対してウザい方(って言ったら可愛そうかな)が持っているものは細い剣である。


 支給品のものであるので簡素な作りかつ安全なものなのだろうけれど――そして二人とも一応防具をつけているから大丈夫だろうけれど――それでも二人の武器が振り回されればそれなりに怖いとは思う。


 戦いとは怖いものである。いくら安全装置を施した所で、相手を攻撃するということに変わりはないのだから。


「始めっ!」


 広いグラウンドの隅にいた審判が、空高く号令をかけた。


 戦いの始まりである。


 その声は随分とよく響き渡り、先程までざわざわしていた客席の皆も一様に黙り、火ぶたの落とされたその戦いの行く先を見つめようとしていた。


 俺は選手が待機するような場所から見ているのだが、近くにいるごついやつらも皆真剣な目に変わっている。


 ふむ、これが場の空気というやつか。


 確かに気迫がある。


 おそらく盛り上がる所は盛り上がるのだろう。


 良い攻撃が決まった時には拍手やら歓声やらが聞こえるだろうし。


 そんな状況の中、二人が動き出した。


 どちらが先に動き出したのかと言うと、多分細い方だと思う。いや、ほら、ほぼ同時だったからさ。


 先手必勝とはよく言うけれど、それを参考にするのなら、この勝負、どちらが勝つのかは分からない。


 そもそも俺は二人の実力を知らないので推測もできない。


「ふっふっふ。あなたと当たるのは初めてでしたね? 勿論、遠慮などしませんよ!」


 青年の方がおっさんに語りかけたのが、実際のバトル開始の合図だろう。


 斧と剣が交錯する。


 ああ、小野と研ではないのでその辺は勘違いしないように。


 ……普通しないか。っていうか小野と研って誰だよ。偶々俺の脳内に出てきた名字だけど、果てしなく関係ないよ。


 まだ青年とおっさんの名字が小野と研だったら良かったのだが、そんなことは勿論ない。


「せいっ!」


 俺が脳内で明後日の方向に向かうようなことを考えている間にも、二人の動きが止まることはない。


 斧使いのおっさんの方はその武器の特徴をよく把握しているのかそれに見合った扱い方をしている。


 具体的にどんな使い方をしているかと言うと。


 一言で言えば振り回しである。


 斧は先端部分が重いので一撃一撃の衝撃が大きい。


 それは相手にとっても、自分にとってもだ。


 隙も大きいし、攻撃力も大きい。大剣みたいなものである。


 その斧を大きな巨体との連携によって見事に振り回している。


 俺は斧なんて持ったこともないから分からないけれど、ただ無暗やたらに振り回しているという訳でもなさそうである。


 隙ができるからと言ってその隙をはいどうぞと敵にくれてやる理由はないのだから、その隙をなるべく埋めようとするのは当然の動きだ。おっさんは斧を振り下ろした後の移動が速かった。


 例えるならば、俺が獣四体と初めて戦った時のような感じか。


 大剣を振り下ろしたら前転回避を行うのと同様、隙が大きいなら攻撃直後に回避行動を取るしかないのだ。攻撃と回避を同時に行うと言っても良い。


 だから――この大会に出る者だから当たり前なのだろうが――このおっさんはちゃんと戦い方を分かっているということになる。


 元々体がデカいので、細身の青年をその体躯のプレッシャーのみで牽制できるという利点もある。今大会の勝負では攻撃魔法は禁じられていても格闘戦を禁止されていない。だから武器を失ったとしてもまだ戦う意志さえあれば勝負は続けられるという訳である。


 さて、対する青年の方を見てみると、これまた弱くはない。当然だけど。


 どの辺が強いのか、と聞かれれば、それは身のこなしの軽さである。


 丁寧に訓練されたような動きをする彼は、戦いというよりはダンスを踊ると言った方が適切であろう行動パターンを取っている。


 回避にもあまり距離を使わない。


 攻撃にもタイミングの遅れがない。


 物理的力の差をしっかりと理解している。


 だから剣で攻撃を受けるなどということはしない。


 思考によって管理された行動のプロセスを見るに、やはり彼は何かによって洗練された身なのだろう。


 と、見ているままの感想を抱いてみた訳だが、俺は実際に何とか派を習得した人、とかそういうのを知らないので、この二人の腕前が正直どのくらいなのかということは分からない。


 俺の印象としては、二人は確かな強さを持っているのだが、実際はあまり強くない方なのかも知れない。

 が、常連と言っていたため、雑魚ということはないはずである。


「ふん!」


 雑魚ではない、という言葉の通り、やはりおっさんの動きは良い。あの巨体であの速度。なるほど、動ける巨体程脅威なものはないな。


 物質量で押されたら人間は敵わないのである。


 しかし相手をしている青年の顔に焦りは見られない。


 着実にタイミングを見て、堅実に反撃を返す。


 ただ、強いて言うならば青年の方の動きはシンプルでもあった。


 おっさんの動きは一種類ではあるものの軌道が読みづらい。軌道どころか、フェイントによって攻撃をキャンセルしていることもあるのでタイミングも掴みづらいと言えよう。


 だが青年の方は、そんなおっさんの不規則な動きにしっかり対応している反面、反撃の際の攻撃のパターンが一定である。


 だからおっさんのバランスが崩れても、おっさんはフィーリングで防いでしまう。


 次にどのような攻撃が来るのかが大体分かってしまうのだ。


 だからおっさんに攻撃が当たらない。おっさんは特別回避に優れているという訳ではないのに、防がれてしまう。


 このままだと、いわゆる一進一退の攻防というやつになってしまう。


 けれどトーナメントに引き分けはないため、どちらかが勝つことになる。


「はああっ!」


 突然、おっさんが大きく後ろに下がった。


 今までにはなかった動きである。


 大きく距離を離された青年はここをチャンスと捉えたのか、大きく下がったおっさんに時間を与えないように大きく前へ出た。


 全力である。


 大きく下がれば時間が生まれるとおっさんは思っている、と青年は考えたのだろう。確かに躊躇なしに突進されたらおっさんからしても予想より稼げる時間が短くなってしまうため、慌てるかもしれない。


 しかしながらおっさんにそれほど時間は要らなかったようである。


 俺もおっさんが何をしたくて下がったのかは分からなかったのだけれど、おっさんの次なる行動を見て理解した。


 観客も驚きだろう。


 青年が全力で前に出たのとほぼ同時に、おっさんも全力で前に出たのだ。


 どちらが速いか。


 それは圧倒的におっさんだった。


 いや、元々の速さを聞かれれば、おそらく誰もが青年の方を答えるだろう。見た目からしても実際の軽やかな動きからしても、明らかに青年の方が速い。


 しかし、この場合はおっさんの方が速かった。


 圧倒的である。


 そしてこれほどまでに速度に差が出るのは、どう考えても魔法のせいだった。


 つまり、おっさんは一度大きく下がって魔法を行使したのだろう。それも、短時間で済むような軽い魔法を。


 最初の方のおっさんの動きが決して速いとは言えなかったのも、この一撃に対する布石だったのかもしれない。敢えて速度に差をつけておくことで、相手を油断させたのだ。


 それに、青年の方は全力で走り始めた所である。驚きのあまり足元が揺れるが、だからと言って急停止もできない。


 体勢を崩した。


 さらに青年は全力疾走の反動で一瞬動けなくなる。


 そこにおっさんの猛攻が加われば、もう結果は見えていた。


 なんと、おっさんは斧を捨てているではないか。


 なるほど、おっさんの速度がこれほどまでに上昇したのは、魔法によるものだけではなく、武器の放棄によるものでもあったということだか。


 この、ローからハイへの転換を上手い具合に成功させたおっさんは、青年の腹に掌を突き立てた。


 高速で迫ってきたおっさん相手に成す術なく、青年は遠くに吹き飛ばされる。


 勝負あり、かな。


 飛ばされた青年の近くに走り込み、おっさんは青年が落とした剣を持ってそれを突きつけた。


 どうやらおっさんのかっこつけで終わりそうだ。


「おおおっと! これは意外に早い決着となりましたっ! サザール選手、クロス選手の華麗な剣技を速度で押切りました! 勝者、サザール・ジェイボック!」


 地面にずっしりと足を立てているおっさんと、苦い表情で剣先を睨んでいる青年の元に、盛大な歓声が送られる。


 勝者に対する賞賛と、両者に対する歓喜。


 初戦で中々いいものを見たのではないだろうか。


 それもやっぱり、他の者の戦いを見てみないことには分からないのだけれど、少なくともこの勝負を見た意義はあった。


 油断は禁物、ということである。


 でもさ、俺、油断しなくても勝てるか分からないんだよね。


 だからこの試合を見た意味というのは、もしかすると参加者の強さの把握という方が正しいのかもしれない。





         ――――――――――★――――――――――






「私、頑張れっ」


 Rブロック内。どの闘技場でも同じであるが、ここでも熾烈な戦いが繰り広げられていた。


 見る者を圧倒するような空気が漂っている。その雰囲気に飲まれないようにするだけで精一杯という者には、この場は似合わないだろう。


 自らを鼓舞する少女、ミトラはそのような懸念は抱いていなかった。


 自分を奮い立たせはするものの、恐怖に震えることはない。


 油断ではない。


 彼女には十分な力がある。


 勝負するだけの力が。






         ――――――――――★――――――――――






 第二試合  勝者 A―3 ナスト・ロデリス  


 第三試合  勝者 A―6 ミシカ・グリアーラ



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