82、偶然の神獣大会 ~そういう風に見えるのかな~
これはつまりRブロックの18ということなのだろうけれど、いやいやでもこんな番号嫌ですよ。何か俺の存在が18禁みたいじゃないか。
しかし、この札を少女に取らせなくて正解だったかも知れない。もし取っていたらこの少女がR18になる所であった。
「……あの、ちなみにその札番号、何だったかな?」
と思ったら少女がそんなことを聞いてきた。
……答えなきゃ駄目ですか。
いやでも、ここで変に躊躇すると完全に意識していることになってしまう。それは何としても避けたい。
「ん? R―18だったぞ」
俺は全く気にしていないという感じで言った。若干声が高くなってしまったのは多分気づかれていない。
「そ、そっか……」
俺の答えを聞くと少女は少し残念そうにした。あれ、何でだろう。
「何か、この番号に意味があるのか?」
少女の反応を見るに、この世界では幸いR18という単語は存在しないようなのでその点に関しては気にすることはなさそうである。だが残念そうにする理由はよく分からない。
「いえ、それ程意味はないよ。ただ、私今回が初めてだから少々願掛けをと思って」
「願掛け?」
「うん、A番号とR番号は決勝トーナメントを勝ち上がりやすいっていうジンクスがあるんだ」
なるほど、確かにジンクスというものは証拠など特にない、いわば気休めにしかならないものである。しかしそれに縋りたいと思うのはこれまたどこの世界でも同じという訳か。
それにしてもこの少女、この会場にいるのだから大会に出るということなのだろう。随分と細い少女である。あんなごついやつらと戦えるのだろうか。
「そうなのか。俺も初めてだが、そういうのは知らなかったな。じゃあこれ、あげるよ」
「え? いいよいいよ」
俺が札を渡そうとすると、少女が小さく手を振った。おいおい、またこの遠慮パターンに突入か? だけどここで俺が引くのは何か違う気がする。
「気にするなって。俺はそんな噂は信用しない性質だから」
「で、でも――」
「いいって」
俺は少女に札を押し付け、もう一枚適当に取った。
A―8
と書いてある。ほう、A番号じゃないか。
「あれ、A―8だ。こっちの方がいいか?」
「い、いや。ありがとう。譲ってくれて」
「おう、じゃあな」
この後は運営に札を渡さなくてはならないのであの列に並ぶ必要がある。くじを引くよりそっちの方が面倒だ。もうどうせならくじを引くのと登録するの両方同時にやれよという感じである。
「あ、私も行く」
猫耳少女に分かれを告げ――と思ったら何かついてきた。
少女も登録に行くらしい。
「私ミトラ。ミトラ・エクスキルノ。『急獣道場』所属なの」
猫っぽくない懐っこさで少女が自己紹介をしてくる。いや、少女に限らず、この世界の人間は俺のいた世界よりもコミュニケーション能力が高いらしい。自分から人に話しかけることを苦手とする俺からしてみればそれ程苦労せずとも人と会話ができるのでありがたくはある。
「俺はキエル。旅人だ」
急獣道場とやらが何なのかは知らないけど、この大会に出るのだからそれなりに強いと思って良いだろう。あれ、でも何か今回初出場とか言ってたっけ。
「旅人さん? この大会のために来たの?」
列に並び、少女ミトラが俺に聞いてくる。
「いや、何かごつい獣人のノリで参加することになった」
「へ、へえ、そうなんだ」
拍子抜け、という感じでミトラが答える。そうだよな、そんなにわかの参加勢なんて甘いよな。
この少女だって今大会のために一生懸命努力してきたのだろう。それなのに飛び入り参加同然のにわかなどがいたらあまり愉快には思わないはずである。
「そんな訳だから、俺は別に優勝しようとかそういう気はないんだ。経験として一回出場してみるのもありかなあ、とか思っただけだから」
「そっか」
出場する人間にも色々いる。本気で優勝を目指す者もいれば、何回戦かの突破を目標にするという者もいる。単に参加することに意義があると考えている者もいるだろう。
だから俺の参加理由も別に悪い訳ではない。少女もその辺は分かっているのか、特に非難の目は向けてこなかった。
「私はね、数年前からこの大会に出るために色々訓練してたんだ」
「そうなのか? でもこの大会って別に出場資格とかないだろ?」
「そうなんだけど、うちの道場は実力を認められないと出させてもらえないの。それに、私だって自分の実力くらい分かってるよ。数年前の自分が『神獣大会』に出て勝ち上がれないことくらい、分かりきってたからね」
そういうミトラの表情は自信に満ち溢れている。これはつまり、現在では勝ち上がれる自信があるということである。
「そうなのか。『神獣大会』ってそんなにレベル高いのか」
「それは勿論。生半可な実力じゃ一回戦敗退確実」
ミトラが指を立てて言う。
俺、生半可どころか生ですよ。
……あれ、ちょっと日本語が変だったか。
何が言いたいのかというと、それはやはり、俺がにわか勢だということである。おいおい、アギルのおっさん、何か俺が勝ち上がれるとか言ってたけど、無理なんじゃないの?
「そういう君は随分自信がありそうだね」
ミトラが続けてそう言う。
「自信? いや、ないな。獣人のおっさんに無理矢理出させられたようなもんだからな」
「そうなの?」
「ああ。だからぶつかる時があったらお手柔らかに頼む」
「ぶつかる時って。決勝トーナメントまで上がる気はあるんじゃん」
「決勝トーナメント? って何だ」
俺は『神獣大会』のルールの概略は確認したが、その対戦形式までは確認していなかった。うん、全然駄目だな。俺。そのくらい確認しとけって。
「え、ルール知らないの?」
「知らない」
予想通り、ミトラに驚かれてしまった。そりゃそうだよな。
「この大会は、今年はAブロックからXブロックまであって、それぞれのブロックの優勝者が決勝トーナメントに出られるようになっているの。決勝トーナメントの形式は人数によって少し変わるけど、基本的にはただのトーナメントだよ」
しかしミトラは意外にも丁寧に説明してくれた。あれだな、この世界の人は優しいな。
「なるほど、単純だな。その各ブロックもトーナメント方式なんだろ?」
「うん」
これだけ人数がいれば総当たりなんてやっていられないのも当然である。それに、大会と言ったら基本トーナメントだろう。
実に分かりやすいのだけれど、R―18があるということは、一つのブロックに少なくとも18人いるということではないか? 勿論ブロックによって多少人数は違うかも知れないが、それでも大きく異なるということはないはずだ。
やはり相当な人数がいるようである。優勝するとなれば、何度勝てばいいのかすら分からないではないか。
しかし見るからにこの少女、ミトラは勝ち上がる気である。優勝する気でもいるのだろう。
いわゆる、ガチ勢である。
うわー、マジか。俺いきなりガチの方とお知り合いになっちゃったよ。今更だけど何だかここにいるのが恥ずかしくなってきたよ。
うむ、ここは早々に負けてさっさとこの街を出るに限るな。
「万に一つもないとは思うが、もし当たることになったら、お手柔らかにな」
もう一度そのセリフを繰り返しておいた。
「あれ? やっぱり上がる気満々じゃない。うん、そうだね! もしぶつかることがあったら、全力で戦おうね!」
笑顔と共に、ミトラが言う。
あれれのれ? 上がる気満々? 俺が?
そういう風に見えるのかな。
……そうなのかな。
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「ね、ねえ、全然見つからないじゃん……」
とある町で休憩中の四人。そんな中友理が一言そう言った。
見つからない。
大罪人が見つからないのである。
「あ、ああ。確かに、これだけ日数が立って情報の一つもないなんて……」
海王も弱音を吐く。
「本当に方角こっちで合ってんのか?」
西治が疑念を口にする。
皆、不安の色を濃くしている。
見つからないことに対する不安である。
戦うことに対する不安ではない。
『魔王戦』開始まで あと 335日→334日




