77、主人公の心境 ~俺と旅するの、楽しいか?~
「ここが、獣人の国、か」
俺達が獣人の国『ゴルダ王国』に入って初めて入った街がここである。名前は知らない。
見れば確かに、辺りは獣人達で溢れている。街行く人々、例えば商人、子供、主婦、戦士。
完全に獣顔の者もいれば、人間の体に少し獣の要素が入っただけの者もいる。そして勿論、獣人の国とは言っても他の民族だっている。少なくない数の人間が、そこら辺に見受けられる。
とにかく、逃げてきたは良いがこれからどうしようか。
「ルテティア、何かしたいことないか?」
「そうですね、まずは何か食べたいです」
またそれか、あんたは。
まあ良い。俺も少しお腹が減ってきた所だったからな。
「リィサも、お腹空いてるか?」
「そ、そんなに空いている訳でもないわ」
何故か目を逸らしながら言う。うむ、これはお腹が空いているってことでいいんだよな?
「よし、じゃあどこかに入るか」
と言って良い感じの店がないか探してみる。
そうだな、こういう時は街の人に聞いてみるのが良いだろう。
「すいません」
と俺は脇にある店の前に立っている獣人に話しかけた。
「ん、どうした? ――おっ、旅人さんかい。良い街だろう、ここは」
元気にあいさつしてくれたのは人の良さそうなおじさんくらい(多分)の獣人だった。
「ええ。何かこの辺りで名物はないかな、と思って」
少しフレンドリーな感じで言ってみた。店番をやっているくらいだからこのおじさんもそれなりに人当りが良いのだろう。
「名物? そうだな、そう言えばそろそろ、王都の『コロジウム』で『神獣大会』があるなぁ」
「大会? ですか」
そうか、名物と言っても食べ物に限られる訳ではない。少し聞き方を間違えたかな、と思いつつも、せっかくだから話を聞こうかと思った。
「おう。結構有名な大会なんだがな。各地から歴戦の勇士達が集って武を競い合うんだ。旅人さんももしよかったら見ていけばいいんじゃないか? ゴルダ王国の大イベントだぜ」
「はい、ありがとうございました」
何か思わぬ所で情報を得てしまった。
これから行く当てもないし、異世界観光の一環として、それを見に行くのも悪くないかも知れない。
結局食べる所は聞けなかった訳だが、別に絶対聞かなきゃいけないってことでもないし、どこか適当に美味しそうな店に入ればいいだけの話であった。ほら、そういうのはやっぱりどこの世界でも共通っていうか。
どこ食べ行く~?
何か美味そうな所が良くね?
それどこだし~(笑)
適当にフラついてれば見つかるっしょ。
だっしょ。
みたいな感じで。え、最近の若者ってこんな感じじゃないの? 俺友達とご飯とか食べに行ったことないから知らないけど。というか友達とどこかへ出かけたことすら殆どないけど。
そんな感じで二人に食べたいものとか聞きつつ、食べつつ、という感じである。
今どこなのかというと、もう食べ終わった後なのである。
思った通りリィサは上品に食べるし、ルテティアも食べるの遅いし、何かこう、いまいち盛り上がらない。
だって普通何か勇者一行って言ったら、食事の時でも何かしらで盛り上がるじゃん? 俺達にはそれが欠けてると思うんだよね。その、バラエティ性がさ。
こんな時、前助がいてくれたらさぞ盛り上がるだろうに。
そう言えば、今前助は何をしているのだろう。
こっちの世界に飛ばされたりしてないよな? あいつは数少ない俺の友達なんだ。出来ればこんな天変地異に巻き込まれていてほしくない。今も現代の世界で日常生活を送っていてほしい。まあ、前助なら万が一こっちの世界に飛ばされていても生きていけるだろうけど。あいつ、コミュニケーション能力高いからね。
さて、今どこなのか、ということにもう一言付け加えると、もう隣街なのである。
つまり俺達は、特に喋ることもないまま、ゆっくりと飯を食い、フラフラと歩き、隣街まで来てしまったということなのだった。え、何だろう。これが俗に言う倦怠期ってやつなのかな。流石に俺一人で美少女二人を相手にするとか無理だったのかな。ハーレムって男が一度は憧れるものだけど、案外それを維持するのって難しいんじゃないのかな。
そんなことを思う道中であった。
と言っても、別に全く会話がなかったという訳でもない。
無言の空間が辛くて俺からどうでもいい話をし始めたり、ルテティアが急に馬鹿なことを言い出したり、リィサを苛めたり、ちゃんとしていた。
ん? 主に三番目だな。
何もすることがないと人とろくでもない話をし始めるのは、まあ仕方ないことだろう? それで、その会話っていうのは大抵何かに対する愚痴だったり、何かに対する弄りだったりする訳だ。そして現状その対象になりやすいのは誰かと言ったら紛れもなくリィサなので――
うむ、それが理由である。
おや、そうして振り返ってみると案外道中しらけてもいなかったのではないだろうか。
ルテティアは終始笑っていたように思えるし、俺だって結構楽しかった。後はリィサが楽しかったかどうかだが――
よく苛めというのは加害者側と被害者側で考え方が違うと言う。だから捉え方によっては、リィサが嫌な思いをしたという可能性もある訳だ。ちょっとまずかったかな、と思ってリィサに聞いてみることにした。
「なあ、リィサ。道中楽しかったか?」
「は、は!? べ、別に全然楽しくなかったわよ! ただ喋ってただけなんだから……」
と顔を背けて言う。
これは……楽しかったってことだよね。だが何故そこまで照れるのかが分からない。何、やっぱり俺のこと好きなの?
いや、ないな。
少なくとも俺の方から何か好かれるようなことをした覚えはない。
とにかく、どうやら両者とも道中に不満はなかったようである。勿論、二人が楽しかったのなら俺にだって文句はない。
あれれ、こう考えてみると俺、結構イケてるのでは?
頑張ったのでは?
よく、ディズニーランドに行ったカップルは別れる、というのは待ち時間の退屈さが原因であるとされる。
一緒にいてつまらない人間だと思ってしまうのだそうだ。
であるなら、この徒歩の時間を退屈させることなく終えた俺、中々やるのではないだろうか。
やった。俺、頑張った。
そう、頑張ったことは素直に褒めても良いと思う。あまり卑屈になるのも良くない。日本人はしばしば謙虚すぎると言われるではないか。だから自分を褒めることを恥ずかしがってはいけない! (俺談)
と脳内で一人、自画自賛をしていたのだが、昼頃から歩いてここまで来たため、当然辺りはもう薄暗くなっている。
今日も終わりが近づいているのだ。
思えばこの世界に来てからもう三週間が経った。
急に変な世界に召喚されて偽勇者とかいう存在になって。
ミネルと一緒に抜け出して、フィルナと一緒に旅をして、別れて、ルテティアが落ちてきて、リィサと一緒に戦った。
それで、今に至る。
三週間しか経っていない、といった方が、どう考えてもしっくりくる程、俺の旅路は忙しいものであったように思う。
――あれ、何だろう、この、物語の終わりに流れる主人公の心境みたいなやつ。
まだまだこれからなんですが? むしろ何にも始まってないんですが?
魔王戦までまだ半年以上あるのだから、現段階はそれの下積みに過ぎない。
旅路を振り返るのにはまだ早すぎたかな。
「なあ」
それでも俺は気になってしまった。
ヘタレの俺は、不安になってしまうのだった。
「俺と旅するの、楽しいか?」
そう、それは彼女達の心境。
自分といて、楽しいかどうか。
俺は元来快楽主義の人間である。だから一緒にいる人間も楽しんでほしい。そしてそう思っているからこそ、皆がどう考えているのかが物凄く気になる。だがその感情故に、俺は今まで友達が少なかったのだとも思う。
どう思われているのかが気になってしまい、その結果、自分の方から離れていく。多分、そういう人生を送ってきた。
だから今、物凄く幸せな時にもそういうことが気になってしまう。
「え? 何言ってるんですかキエルさん。もう楽しすぎてたまらないですよ! お兄ちゃんと戦っていた時なんかもう、笑いを堪えるので精一杯でした! それに、キエルさんは命の恩人ですからね。何か困ったら言って下さいよ?」
俺の質問に、長文で返してくるルテティア。いや、そこまで褒められるとは思っていなかったぜ。
「リィサは、どうだ? 俺達と旅するの」
今度はリィサに投げかける。ツンデレお嬢様のことだから素直な答えが返ってくるとは思えないけれど。まあ「俺達」と言っておくことで少しは答えやすくしておいた訳だが。
「そ、そこそこね……それに、来たくもないのに、自分からついて来る訳ないでしょ……」
……ん?
今何て言った?
……………………デレた。
リィサさんが、デレましたよ?
おお、意外と初めてなんじゃないか?
「そうですよね! リィサさん、これからもよろしくです!」
何故か最後にルテティアが占めた。言った後で物凄く顔を赤くしているリィサと、満面の笑みを浮かべているルテティア。それに、何だか不思議な気持ちの俺。
これで、何だ、その、結束みたいなのが、少しは強まったのかな。




